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103. 異変の後

 その後、玄関の前では、ひばりと子犬の死闘がしばらく繰り広げられた。子犬からは、ひばりの右足からは絶対に離れないという強い意志が感じられたし、同じくひばりからは、この子犬とは絶対に関わりたくない、家には絶対に上がらせないという強い意志が感じられた。


 そういう意味で、お互い必死だった訳だが、しかし残念ながら、所詮は生後間もない小型犬である。いくらひばりが子犬相手だから怪我だけはさせまいと、そこは多少気を使って、ある程度加減して足をフリフリしていたとしても、まだ幼い小型犬の体力では限界がある。たとえその子犬の中に鋼のような強靭な精神力が宿っていたとしても、その気持ちとは裏腹に、その頼りない4本の脚は徐々に力を失っていくと、ひばりのふくらはぎから、やがて一本一本と離れて行った。


 一方、ひばりの方も、自身の体力の限界が刻一刻と近づいていた。ひばりは、その幼い外見に似合わず、決して自分の右足から離れようとしない子犬の強靭な精神力に負けそうになると、もう諦めて、いっそ右足に子犬がしがみついた状態で家の中に入ってしまおうか……もうそうなったらそうなったで、後でどうしようか考えりゃいいやなどと思い始めたところだった。……だがしかし、子犬の抵抗が徐々に弱まって、自分の右足に伝わってくる力が弱くなっていくのを感じると、まるで両手にブレードを握りしめながら必死にアンコールを求める観衆のように、最後の力を振り絞って、懸命に右足をフリフリし続けた。


 そして、とうとう子犬の体力は限界を迎えた……というか、とっくに限界に達していたはずが、それを遥かに凌駕する恐るべき精神力で、それまで必死にひばりの右足にしがみついていたのだった。


 子犬は、ひばりの右足から離れると、ひばりが右足に履いていたローファーとともに、空中にピョーンと舞い上がると、庭の茂みの中にドサッと入った。


「くっ、くっそ〜……こいつ〜……」

 茂みの中から、恨めしそうな子犬の声が聞こえてきた。


 ひばりは後方をチラッと確認すると、この長きにわたる死闘に最終的に勝利を手にし、

「ふん。思い知ったか。この子犬の皮をかぶった恐るべき悪魔め。そのかわいい見た目に私が騙されるとでも思ったか。お前が我が家に大いなる厄災を持ち込むことになることくらい、こっちの方はすでにお見通しなんだよ! これに懲りて二度と我が家に現れるなよ。」

 などと、本来ならば満足げに中二病的な決め台詞を決めてしまいたい気分だったが、そんなことを言っている間に、子犬が反撃してきたら怖い。


 それに、自分の体力ももう限界だった。右足のローファーが犠牲になってしまったものの、さして影響はない。明日の朝、学校に行く時に取りにいったとしても、特に問題はないだろう。そう思って急いで家の中に入ると、とっさに玄関のドアを閉めて、そのまま階段をトントンと上がって自分の部屋に入った。


ちなみにひばりのローファーは、当日の深夜に突如降り注いだゲリラ豪雨のせいで、ひばりが翌朝に確認した時には結構な大惨事になっていたが、それは本編とはあまり関係のない話である。


 ひばりは、部屋のドアを閉めると、無造作に床の上にバックパックを置いた。それから、とりあえず自分の部屋をゆっくりと見渡してみた。部屋の四隅には、歴代の5色の魔法少女シリーズのグッズやらなんやが、統一感なくそこら中にギッシリと乱雑に並べられ、中途半端にピンク色に統一されたショッキングな部屋はギラギラして、来訪者に対し一切の落ち着きを与ることを許さない。そんな相変わらずの自分の部屋を確認すると、なぜか少しほっとしたひばりだったが、ふと机の上を見ると、昨日父親の耀司からもらった黄色の石が、何もないのに光っていることに気がついた。


 ひばりは、不思議そうな顔をして、その石を手に取ってみた。

「あれ? この石、何もしてないのに、なんで光ってるんだろう?」


 ひばりは、手の平の上で、なんとなくその丸い石をころころと転がしてみた。次にひばりは、耀司いわく魔法少女の証であるというその黄色い石を、親指と人差し指で軽く摘まむと、顔を近づけて、よーく観察してみた。


 微かながらも、確かにこの石は黄色く光り輝いている。


 確かに、ひばりがもっている音色の魔法少女マジカルクインの公式のワイヤレスイヤホンに付属しているレプリカの桃色のプレシャスストーン(PS)も、石の中に電圧に反応して発光する装置みたいなのが入っていて、イヤホンケースに入れると、微量の電気かなんかを受けて、プレシャスストーン(PS)が桃色に光るギミックになっている。だが、この桃色のプレシャスストーン(PS)を一旦イヤホンケースから取り外してしも、光り続けるなんてことはあり得ない。


 だが、この黄色の石は、なんのギミックもないはずなのに、自ずから発光している。


 ひばりは、黄色の石をもう一度目を凝らして、じっくりと確認してみた。

 ひばりは、まず黄色の石の外周を隅々まで観たり触ったりしてみたが、何か発光するスイッチみたいなものはどこにも存在しなかった。次に黄色い石の中を確認してみたが、石はずっしりと重たく、中に空洞があったり、何か発光の原因となる電池や機械のようなものが入っているようにはとても思えなかった。


 ひばりは、その後もしばらく、真剣な表情で黄色の石を観察していた……が、急にパタンと止めてしまった。


 よく考えたら、黄色の石が光ろうが光るまいが、自分にとっては別にどうでもいいことだった。


 ひばりは、そんなどうでもいいことに貴重な時間と頭を浪費してしまったことを後悔すると、反面、夕飯まで特に何もすることもないので、部屋着に着替えると、本棚から適当なマンガを手に取ってそのままベッドに寝ころんだ。そしてそこからは、いつもの貴重な時間と頭の使い方を実践することにした。

ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、

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