Episode61 ようやく
2026.8/18登場人物のところに2枚イラストを追加しました。
(白城side)
久井さんが何も話してくれない。スマホを見ると時刻は20:00であった。やべぇー、親に連絡してないや。
「久井さん、親に電話していいですか?」
「いいけど、本当に門限大丈夫?」
「たぶん?許してくれるはずです。」
裕子(白城の母親)にどう言い訳しようかな…
「もしもし、母さん?」
「母さんじゃない、父さんだ。」
(げっ…)
「知、お前なんで連絡しないんだ。母さんがさっきからうるさくてよぉ。」
「ごめん。」
「次からちゃんとしろよ?で、今どこにいんの?」
「友達と次のお店に向かってるところ。」
「友達か…飯は食ったのか?」
「まだ食べないよ。」
「家で食べるか?」
「いや外で食べてくるからいらない。」
「お前、彼女とかじゃないよな?」小さな声で聞いてきた。
「んな訳ねぇだろ!知り合いだって!」
「友達じゃなかったのか?」
「あっ」
「そうか…まぁほどほどにして帰って来いよ。」
(待って、これ絶対勘違いされてるよな)
「父さ…」
「プツっ。プー、プー、プー・・・」
(切られた。帰ったらめんどくせぇぞ…)
「電話、終わった?」
「はい…。なんとか?」
向かっている方向は駅なのだが、久井さんは一向に話してくれない。駅のすぐ近くのコンビニに寄ろうと言われ、コンビニに入る。
何を買うのかと思ったらおにぎりと温かいお茶を手に取っている。一瞬、時間帯的にもご飯を食べに行けるんじゃね?なんて思った自分が恥ずかしかった。
「白城君は何も買わないの?」
「じゃあ、パンと飲み物だけ…」
「パンにはコーヒー牛乳かな?ふふっ…」
「僕のことからかってます?」
「そんなことないよ。ふふっ…」
「笑うの我慢できてないですよ…。」(夏合宿の時のこと、覚えていてくれたんだ…)
会計を終えて、再びどこかに向けて歩き始めた。でもすぐに久井さんの足が止まった。
「えっ、ここですか?久井さんの行きたい所って…。」
久井さんの目的地は、駅に併設している広場?的なところだった。そこはイルミネーションがいっぱいなのだが、その明るさとは対照的に人通りがほとんどない。
広場にはイマイチ何を表しているのか分からないモニュメントがありそれを囲うようにベンチが設置されている。久井さんと俺は二人で隣り合って腰掛ける。久井さんはおにぎりを思っていたよりも早く食べ終えた。俺も負けじとパンをすぐに平らげた。そして口の中をコーヒー牛乳で残りのモノを流し込む。
二人とも食べ終えてしばらく間が空く。沈黙を破ったのは久井さんだった。
「まずは、白城君。レギュラーおめでとう!」
「ありがとうございます。まだ夢みたいで…。」
「小川君と相性良いね。今日初めて組んだとは思えないくらい良かったよ。」
「ここまで上達できたのは間違いなく久井さんのおかげですよ。」
「謙虚だなぁ…。」
「僕なんかより、久井さんの方がスゴイじゃないですか!長瀬さんに勝ったじゃないですか。」
「…。」
(えっ?まさか久井さん、テニスのことで…)
「柿田さんのおかげ…そう思っているんですか?」
「私はさ、由衣のペアにふさわしくないんだよね。」
「それはどうして…」
「ずっと由衣にキャリーしてもらってるだけでミスをたくさんする。ずっとそう。いくら練習しても一向に上達しない。去年の夏から私の成長曲線は止まったまま。」
(違う。)
「それなのに、新人戦で由衣のおかげでベスト8になれた。周りからの評価も一気に変わったし、それと同時に期待も今まで以上に大きくなった。」
(違う…)
「でも、私なんかベスト8になれるような人じゃない。由衣だって、私がペアじゃなかったらもっと上を目指せる。でも私と組んでいるせいで…。本当に申し訳なく思ってる。私もうテニスが嫌いなのかな?練習に行くのも嫌なんだよね…。」
「…。」
「あっ、ごめんごめん。困惑させちゃったよね?もう私帰るね。ありがとね、ここまで。」
久井さんは立ち上がって去ろうとする。
「待ってくださいよ!」
「えっ。」
やっと話してくれた、胸の内の想いを…。このまま帰らせるわけにはいきませんよ。




