Episode60 裏側
「どこに行くんですか?」
「前から行ってみたかったところ。」
「どんなところなんですか?」
「まあ、着いてからのお楽しみってことで。」
「えー…。」
さっきから全く会話をしてくれない。何を聞いても軽く流される。少し前を行く久井さんは夜空を眺めながら鼻歌をくちずさんでる。思ってたほど深刻そうじゃなくて良かった。
(久井side)
自分でも何をしているのかよく分からない。部活を勢いで抜け出したものの、しばらくして冷静になると後悔した。由衣にひどいコト言ったし、内田さん、チームのみんなにも迷惑をかけた。
だけど学校に戻る気にも家に帰る気にもなれなかった。どこか知らない場所に行ってみたくて、駅とは逆の方向に向かってみた。
しばらくして大きな河川敷が現れた。グランドがあり小学生たちが野球をしていた。楽しそうに野球をしている子供たちの純粋さが眩しくて見ていられなかった。
ふと川を近くで見たくなって、土手を降りた。思っていたよりも水が澄んでいて、魚が泳いでいるのがはっきりと見えた。しばらくその場に座り込んで意味もなくあたりを見渡した。
10分くらいして、スマホを見ると16時ちょうどだった。(そろそろ練習も終わったころかな。)立ち上がって帰ろうとしたとき、立ち眩みがした。病み上がりの影響が出たのだ。頭も痛くなってきて暑さに負けたのかな、なんて思ってとにかく家に帰ろうと思った。
土手を昇り始めると、足が重い。体調が優れないのも理由ではある。でも心身の疲労も溜まってるのだろう。
「何か美味しいもの食べたいな。」そう思ってマップで近くのスイーツ、と調べた。歩いてすぐの所に人気のパフェ屋さんがあるとのことで目指してみることに。
5分ほど歩いて、お店が見えてきたけどメチャクチャ人が並んでいた。「嘘…。待たないといけないじゃん…。」でも口の中はイチゴパフェの味を待ち望んでいた。30分ほど待ってようやく店内に入った。迷わず一番人気のイチゴパフェのLサイズを頼んだ。金額なんて気にしない私は食べたいものも食べる!
大満足でお店を出た時にはもう夕日もほぼ沈みかけていて、辺りも暗かった。イチゴパフェで満たされたからか、悩みも幾分マシになった。「久々に青井スポーツに行こう。」そう思えた。
青井スポーツに着いてまずはラケットを見る。新しいラケットが出ていて、私の好みだった。「これが去年だったら買ってたのになぁ…。」だって引退まで半年もない。今更ラケットを変える意味もない。
ラケットは諦めてガット売り場へ。春季が終わったら張り替えてもいいな、と思っていろんな種類のガットを見た。その時誰かが通った。人が通った方を見たけど、誰もいなかった。
最後にグリップでも見ようとして、グリップ売り場に行って私は驚く。だって白城君がいたんだもの!
咄嗟にグリップ売り場から離れちゃった。ただでさえ今日は会わせる顔がない!私は白城君が店を出ていくのを物陰に隠れてずっと見ていた。かくれんぼしているみたいで少し面白かったけど。
白城君がお店を出て行ったのを見てから、グリップ売り場に再び向かった。そこでいつもの黒いグリップを購入してお店を出た。
そしたら、びっくり!まさかまさかの白城君が現れた。気付かれてたんだ…。ちょっと気まずい。
「えっと、その、今日はごめんね?いきなりどっか行っちゃって。」
まずは謝る。そうするべきだと思ったから。そのまま帰っても良かったけど、やっぱり由衣のことが気になって「由衣はどうだった?やっぱり怒ってた?」と聞いた。
「怒るもなにも、本当に心配そうにしてましたよ。」
前向きに考えられてたけど、また練習に行くのが嫌になって来た。でもこれは自分が原因。
「とりあえず、もう時間も遅いし駅に向かいませんか?」
なんか今日の白城君いつもと違う。最後にしっかり話したのは夏合宿の夜か。あれからこの約半年間で、何か変わったんだな。
そんな白城君に私は話を聞いてもらいたくなった。でも本音は言えないまま、夜空を見ながら歩いてる。




