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君のいない日々はきっとつまらない  作者: 久遠知
白城と久井

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Episode58 当然、偶然

 夕日がどんどん沈んでいく。夏場の夕暮れ時、多分俺は人生で一番自転車を飛ばした。久井さんはきっとテニスコートに戻っているはず。あの人はテニスが好きだ。絶対にいるはず。

 学校に着いた時、もう夕日は沈みかけていた。駐輪場からテニスコートまでは遠い。本来ならダメなのだが、校内を自転車で移動する。テニスコートに着き、自転車を停める。テニスコートに目をやる。


 誰もいなかった。久井さんがいるわけがなかった。俺はその場にへたり込んだ。どうしてだよ、久井さん。本当にテニスが嫌いになったのか?いやあの人に限ってそんなことは、そんなことは…。


 俺は所詮、付き合いが一年もない後輩だもんな。付き合いが長くて仲のいい柿田さんでも分からないのに俺なんかに分かるわけないか…。

 久井さん、どうして思ってること言ってくれないんだよ。言ってくれなきゃ分からないじゃん…。あなたがいなきゃ、俺はこれから先どうすればいいんだよ。

 どうすることもできないのが悔しい。もっと俺が久井さんの異変に気付けていたら、もっと気軽に話ができる間柄だったら、こんなことにならなかったのに。


 気持ちが落ち着くまでしばらく時間がかかった。次第に息も落ち着き、自転車に乗る。ゆっくりと帰路につくのだった。


 帰る途中、俺はいつも以上に周囲の人を良く見た。どこかに久井さんがいないかなぁ、なんて思いながら人の顔をかなりハッキリと見た。たまに目があって少し気まずくなったが、久井さんを見つけることはできなかった。


「あっ、そうだグリップがボロボロだったな。」突然思い出した。俺はグリップを買いに、ショップへと向かう。

 グリップ何色にしようかな。白色が好きなんだが、如何せんすぐに汚れちまう。だからと言って汚れが目だない黒色も悪くは良いのだが、俺は今のラケットに似合わない気がする。たまには気分転換に黄色とか派手な色にでもするか。

 そんなことを考えながら、ショップへと着いた。その名も「青井スポーツ 坂井中央店」。そう、あの青井スポーツ杯を主催するスポーツショップだ。スポーツといっても、卓球、バドミントン、硬式・ソフトテニスしか取り扱っていない。こじんまりとしたショップなのだが、意外と品ぞろえが良い。

 俺はウキウキしながら店内へ入った。グリップの所を見る前に…まずはラケット売り場に行くのが俺のルーティンだ。

 新品のキラキラしたラケットを手にとっては舐めるように観察する。「70Vか…。次ラケット買うならこれだな。」とかボソボソ独り言を言いながらしばらくラケットを見て回った。

 そしてグリップ売り場へと行くのだが、その途中にガット売り場がある。そこを通ったのだが、珍しく人がいた。(こんな時間に、ガットを見る人なんて珍しいな)そう思いながらも俺はグリップ売り場を目指す。

 グリップ売り場に到着し、俺はささっと目を通す。黄色のグリップはすぐ目に留まるからありがたい。グリップと言っても5種類くらいある。どれがいいのかなぁ、なんて思いながら一つ手にとっては戻して別のヤツを手にとる。

 決めきれずにいた所。誰かがグリップ売り場に確かにきた。でも「キュッ」と甲高い音が鳴った。「誰やねん。」と思い俺はすぐに音が鳴った方を見た。誰かは分からないが他の売り場の方へ戻っているところだった。顔はハッキリと見えなかった。

 (俺がいて、グリップ売り場に来るの止めたのか?)そう思ってその人の気配をたどってみる。ガット売り場にはすでに誰もいなかった。

 (さっきまでガットの所にいた人かな?どこ行ったんだろう。)そう思い俺はグリップを持ったまま店内を歩き回る。絶対誰かいる気がするのに、姿が見当たらない。

 (絶対俺のこと避けてるやん。知り合いか?)なんて思うものの、姿が一向に見えないので俺は諦めたレジへと向かった。黄色のグリップ、320円。たった1個で300円。高校生には少し痛手。

 (今日明日はジュース我慢しないとな)と思い俺は店を後にする。何気なく、出口のガラスに目をやる。外はもう真っ暗で店の内部が鏡のごとくガラスに映っていた。そのガラスに俺は目を奪われる。


「久井さん…?」久井さんらしき人が映っていたのだ。それも俺が出ていくのを確認するかのように遠くで商品の物陰からこっそり見ていた。

 今の久井さんなら俺を避ける理由も分からなくはない。(シンプルに部活の人と今は会いたくないだけで俺が嫌われてないことを願う)俺は変えるふりをして店の外でバレないようにその人が出てくるのを待っていた。


 15分ぐらい待っただろうか、ようやく店内から一人出てきた。その人は間違いなく久井さんだった。


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