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君のいない日々はきっとつまらない  作者: 久遠知
白城と久井

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Episode57 隠し事

「白城、今までありがとうな。お前とのベンチでの会話は楽しかったぞ。俺中学でも野球するわ。」


「続けるんすか、野球?自分だったらあんな終わり方したらもうやめたくなりますよ。」


「なんだ、その言い方。俺は後悔してないぞ。俺らしい終わり方じゃないか。」


「俺らしい終わり方…?」


「馬鹿馬鹿しい…。俺はアンタのせいでレギュラーになれなかったんだぞ…。アンタなんかより俺の方がよっぽどいい成績を残せたのに…そんな笑って済ませるなよ!!そんな気持ちだったなら野球なんかやめちまえよ!!アンタのせいだぞ…少しは反省しろよ!!」


_____________________________________


「って感じでしたよね。」


「そうだったかもな。」


 夕日に照らされ俺は目を細め虚空を見つめる。俺たちの間に当然気まずい沈黙が流れる。しばらくの沈黙の後、和田さんが話し出した。


「白城は、俺が野球をやめた理由が自分の言葉のせいだと思ってるんだろ。」


「そうですよ…。僕は和田さんの人生を、壊した…」


「そうだなぁ、確かにお前の言葉は俺の人生を変えたな。」


(やっぱり…俺のせいで和田さんは野球をやめた。)


「でもなぁ、白城。お前は考えすぎなんだよ。」


「考えすぎ?」


「お前に俺の何が分かるんだよ。」


「ずっと一緒にいたから、少しぐらいは分かってるつもりですよ。」


「ハハっ(笑)」


 俺の返答を聞いて和田さんは軽く笑った。その笑いに侮蔑の気持ちはこもってなかった。


「人間はな、どんなに仲が良くても素を見せないもんだ。」


「俺は自然体でいられる友達いますけど…」


「本当にそうか?その自然体っていうのは何一つなく自分に嘘ついてないか?」


(嘘をついている?どういうことだ…)


「心の中で思っていることをそのまま相手に言えてるか?少しは妥協してるだろ。」


「妥協…。」


 俺と雄星は小学校からの仲で、自然体でいられる唯一の親友だと思ってた。でも和田さんに言われて気付いた。「本当に思っていることは親しい間柄でも完全には言えない」って。

 雄星に久井さんことが好きだって伝えた時も俺は躊躇した。もうこれ以上は隠し通せない、ってなったから打ち明けた。


「たしかに…。俺も親友になかなか打ち明けられないこともあります。」


「だろ?」和田さんは得意そうに笑う。


「白城、俺もお前にあの時どんな風に思ったか詳しく言ってないよな?」


「はい…。」どう思ったんだろう。気になって仕方がない。


「俺らしい終わり方、この言葉にお前はキレたよな。」


「…はい。」


「お前に怒られて、あれは自分で納得するために行った言葉だったなって後から思った。」


「と言うと…?」


「言い訳だよ、言い訳。」


 俺も久井さんに「気持ちが落ち着くのなら言い訳をしてもいい。」的なことを言った。あれはたしかに俺の心の中で思ったことをそのまま言ったもの。


「本当の気持ちから目を背けたんだよ、悔しいって気持ちから。」


「ライトゴロ…ですか?」


「そう…。俺は悔しかったよ、最後ライトゴロとかいうダサい終わり方になって。本当に悔しかった。」


「でも和田さん、笑ってたじゃないですか。」


「みんなに気付かれたくなかった。本当は声を出して泣きたいぐらいだった。でも周りのみんなに申し訳なかった。俺のせいで負けたのに、泣いて言いワケないからな。笑って本当の気持ちは心の深くに隠した。」


「そんな…。」


「そんな時お前と話をして、気付かされた。このままじゃ終われないってな。もっと野球に打ち込みたいって。だから俺は中学部活ではなく、クラブチームに入ったんだよ。」


「でもクラスに馴染めなかったんじゃ…?」


「そんなことねぇよ。クラスでは大人しくしてただけだ。」


「じゃあ不登校気味になったのは?」


「それはだな、俺白血病になったんだよ。」


「えっ!?」


「中一の夏ぐらいだったかな?ずっと体調が悪かったが、我慢してクラブチームの練習に言った。ノックを受けているときに目まいがしてその場に倒れこんだ。救急車で運ばれたけど、俺は熱中症だと思ってた。でも血液検査をしてみると白血球の数値に異常があったらしくて…。精査したところ白血病だったってワケ。」


「それは、大変でしたね…。」


「治療に専念するためにこの町から引っ越した。まあでもおかげさまで今は元気だからな。」


「だからメッチャ痩せてるんですね。」


「ちゃんと運動したからだよ!!」


 俺たち二人のわだかまりはもうなくなっていた。二人で久しぶりに笑いあった。小学生の頃のように。

 笑いが止みしばらくして和田さんが言った。


「白城、分かっただろ?お前と俺も一緒で、誰にも言えないことがあるんだよ。勝手に自分で話を作り上げるな。聞きづらくても相手から本当のことを聞き出せ。」


「それができてたら、こんなに苦しまなくて良かったのに…。」


「話をしない間にどんどん仲が疎遠になっちまった。まあ、物理的にも距離ができたんだけどな。」


「そうですね…。」


「言っただろ?話してくれないと分かんねぇ、って。本当にそうだっただろ?」


「はい…。」


「白城、お前は優しい。実際俺なんかと仲良くしてくれた。お前は人に寄り添える。」


「そうですか?」


「ああ、間違いねぇ。お前はきっと誰かを救える!」


「本当に誰か大切な人(ひさいさん)を救えますか?」


「誰かは知らんが、大切な人から本音を聞き出せれば必ずできる!」


「和田さん、ありがとうございます。」


「おう。」


「あの、俺今からその大切な人(ひさいさん)の所に行ってきます。」


「彼女か?」


 俺は一瞬ためらう。だけど濁さずハッキリと「好きな人です。」と言った。


「そうか…白城、頑張れよ。」


「和田さん、本当にありがとうございました。次は一緒にキャッチボールでもしましょうね!」


「おう!」


「じゃあ、またいつか会いましょう!」そういって俺は自転車を漕ぎだす。

 俺は行く。久井さんを探しに。心当たりのある場所が一つだけある。その場所を目指して俺は自転車を飛ばしていく。


_____________________________________


 白城が去った後も和田は一人、グラウンドに残っていた。


「剛毅(ごうき)、どうだった?上手く話せた?」


「母ちゃん、俺もう一回野球したかったな。」


「何言ってるの、今回もきっと治るわよ。」


 和田はカツラを取り外す。その頭には髪の毛はほとんど生えていなかった。腕もパーカーで隠していたが瘦せぼそっている。


「最後に白城に会えてよかった。これでもう思い残すことはない。」


 そういって和田は母親に車に乗せられ病院へと戻っていった。


 それから約1か月後、和田は静かに息を引き取った。中学2年の頃に白血病が再発。その時和田はツライ治療に耐えなんとか症状は収まった。

 しかし高校1年の夏に再び再発。治療を続けるも病状は一向に悪くなるばかりだった。医者から余命半年を告げられながらも、和田は1年と半年あまり生きた。

 生前、和田が書いていた日記があった。ペンを持つのもつらく、歩くのもやっとだった。当然、日記には「ツライ」「苦しい」などたくさんのマイナスな言葉があった。

 それでも白城と会った日だけは文字に力がこもっていた。日記にはこう書かれていた。


「しらきとあえた。アイツにはがんばってほしい。」

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