Episode 55 事態は動き出す
その時は突然やってきた。
「少しは分かってよ、私の気持ちを!」そんな声を耳にした。俺は驚いて声がした方に目を向ける。視線の先はまさに修羅場だった。柿田さんと久井さんの二人が言い合いになっている。あんなに仲が良かった二人が、どうして…、と思った。
みんなも俺と同じように思ったのか、視線が二人に向いたままで動かない。校内戦をしていたみんな二人の方を見て、試合どころじゃなかった。内田さんも二人の方を見ている。
少し二人から目線を外していた間に、久井さんは独りでどこかへ行ってしまった。柿田さんは久井さんを追いかけようとしたが、内田さんに止められた。
柿田さんが落ち着いてから、ことの運びを詳しく聞いた。言い合いになった理由は、さっきの長瀬さたちとの試合でのことだったらしい。
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(柿田side)
「ねぇ、由衣…」
「どうしたの、恵茉。」
「さっきの試合、ごめんね。私、なんにも出来なかった。」
「そんなことないよ、長瀬君のシュートボール止めてくれて本当に助かったよ。」
「さっきの試合の調子なら、私じゃなくて佳子ちゃん(*小松のこと)と組んでも勝てたんじゃない?」
「やめてよ、とにかく恵茉のおかげだよ?」
「はぁ…」割と大きめのため息をしたものだから、私は心配して
「どうしたの、恵茉?何かあったの?」なんて聞いちゃった。
「なんでもない…。」これは絶対何かあったに違いない、そう思った。
「絶対何かあるでしょ?私にはわかr…」
「何が分かるの?」急に恵茉の声色が変わった。一声で分かった。確実に今まで私が接したことのない恵茉だった。
「そりゃあこの一年とちょっとで多少のことは分かるよ!」少し強い口調になる。
「そんなわけないじゃん…。」恵茉の目から涙がこぼれた。
「どうしたの?何かあったなら話聞くよ?」
「由衣!少しは分かってよ、私の気持ちを!」
(なんで?私何か恵茉にしたかな?)
「言ってくれないと分からないでしょ?」
「もう嫌だ…」そう言って恵茉は走り出してしまった。
なんで?どうして?私、気付かないうちに恵茉に嫌なことしてたのかな?どんなに思い返しても何一つとして思いつかない。でも只事じゃないのは分かる。だけど何も言ってくれないと分からない。
私は恵茉がいなくなった後も、虚空を見つめていた。冷たい風が頬に吹き付ける。その冷たさで少し冷静になれたものの、どうしていいか分からずその場に立ち尽くした。
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久井がいなくなったあと、柿田は部室へ様子を見に行くがそこに久井の荷物はなかった。久井はすでに帰っていた。そのことを内田へ報告した。内田はあまりの出来事に腕を組んで考え込んだ。久井が帰ったことを耳にした全員が動揺する。結局内田はその後1時間だけ練習をし、その日の練習を早めに終わることにした。そして久井の母親へ電話をした。
しかし久井はまだ家に帰ってきていない、という。内田が柿田に久井がいそうな場所を聞くが心当たりはなかった。
みんな、練習に集中できなかった。白城は当然失意のまま帰路についた。そんな時、白城はとある人物との思わぬ再開を果たす。
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(白城side)
「よお白城、久しぶりだな。」
「えっ…。」なつかしい声がした。でも、その声の持ち主はもう長いコト会っていない。というか会いたくもない。(嘘だろ…?そんなわけないよな?)そう思いながら俺は振り返る。でも現実は俺が予想した通りだった。
止まっていた時間が、この瞬間から少しずつ動き始める…。




