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君のいない日々はきっとつまらない  作者: 久遠知
白城と久井

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Episode54 忘れたい過去と今

白城が久井とトイレの前で出会ってからしばらく時間が経った。柿田・久井ペア vs 長瀬・上原ペアの校内戦がはじまった。白城は審判としてこの試合を観ていた。試合は長瀬・上原ペアが優勢かと思われたが、柿田のストロークに上原が惑わされ、長瀬のシュートボールを久井がしっかりと止め、4-2で柿田・久井ペアが勝利したのだった。それにもかかわらず久井は試合中のミスのことだけ考えていた。久井にとってテニスは楽しいものではなくいつの間にか自分を苦しめるものになっていた。だが、久井は他人にその悩みを、苦しみを見せることはなかった。しかし、少しずつ、確実に心はすり減っていく…

(久井side)

 長瀬君に初めて勝てた。だけど、自分は何もできていない。全部由衣に助けてもらった。由衣が凄すぎるだけで私は大したことない。さっきの試合、由衣はサーブレシーブミスは0だった。それに比べて私はダブルフォルトはなかったけれど、1stサーブが半分以上入らなかった。そしてレシーブも上原君に2本ボレーされた。

 そして私は長瀬君のスピードボールが怖くて自分の所を守ることで精一杯だった。スピードボールが体に当たるのが怖いんじゃない。長瀬君にキレイにスピードボールで抜かれるのが怖い。長瀬君は私がポーチボレーを仕掛けたら、ロブで上手くかわしてくる。もう全部私の考えが分かっているんじゃないかなって思うくらい私は何もできなかった。

 私が動かないから由衣が走らされて苦しくなるだけ。なんとか由衣が1点取ってくれても、由衣は開いた口が塞がらないくらい息が上がっていた。そんな由衣を見て私は申し訳なかった。私とじゃなくて上手い前衛の子と組めばもっと上を目指せるんだろうな、そう思うと自分が情けなくなった。

 もう、嫌だ…逃げ出したい。今のままで春季大会で勝てるワケがない。どうして高校に入ってソフトテニスつづけたんだろう。中学の最後の試合で死ぬほどテニスが嫌いになったのに…


_____________________________________


 中学3年生の時、私は地区大会の個人戦。県総体まであと一勝というところまで勝ちあがっていた。最後の試合は今でも思い出すくらい私の脳裏にしっかりとこびりついている。忘れたくても、忘れられない。


 最初の2ゲームをとってリードしていた。そして1ゲーム取られたものの、その直後のゲームを取り返し県総体まであと4点という所まできた。いや、正確に言うとあと1点という所だった。

 ゲーム内カウント、3‐0アップであと一点取れば勝ちだった。その時今までにないくらい私は調子が良かった。そんなコトこの時だけで私は浮かれていた。そしてラストポイント。相手の後衛のロブが、風に流されて浅いライン際へと上がった。ボールはアウトかどうか際どいボールだった。いつもなら一度落として確認するボールだった。

 なのに、その時の私はそのボールをスマッシュで決めようと思った。そして迷いなくラケットを振りぬく。ボールは少し伸びて惜しくもバックアウトになった。

 ペアの後衛は「ちょっと、今の多分アウトだったよ?」と言ってきた。そんな彼女に対して私は「ごめん。絶対決めれると思ったんだ。」と能天気だった。

 失点したときはそこから、まさか大逆転負けするなんて思ってなかった。でも、現実は残酷だった。そのポイントを境目に相手のペアが覚醒してきた。あっという間に追いつかれて、気付けばファイナルゲームになっていた。

 もう私は足が動かなかった。ただミスをするのが怖かった。そして最後は相手のロブが少し浅くなってまたライン際に飛んできた。でも確実にアウトではなかった。それなのに私はボールをバウンドさせてツイストをしようとした。だけど、ミスをしたくない思いから力加減が上手くできなかった。結果、ボールはふわっと浮いて相手のチャンスボールになった。そしてそんまま私の方にシュートボールを打ってきた。咄嗟に反応したけど遅かった。ボールは私の体の横を通り過ぎて行った。ゲームセット。


 試合後、私は泣いた。ペアの後衛の子に泣きながら謝った。「ごめんね、本当にごめん…」嗚咽交じりの声で必死に謝った。でもその子は優しく「大丈夫。恵茉(えま)のせいじゃないよ。私があの後ラリーを続けられなかったのが悪いから。気にしないで…ね?」と励ましてくれた。でもその優しさが私を余計に苦しめた。


 高校ではソフトテニスをしたくなかった。坂井高校は制服が公立高校の中でダントツに可愛かった。そして立地も駅の近くということで、ただ青春を楽しみたいという思いで勉強を頑張った。中学生の私にはそれだけ坂井高校は素晴らしい高校だった。


 入学して、由衣とたまたま同じクラスになった。由衣が私のことを知っていたそうで、声をかけてきたのが最初の会話だった。


「久井ちゃん、だよね?中学、ソフトテニスだったでしょ。」


「えっと…うん。」


「やっぱり!入学式のときからそうじゃないかなあって思ってたの。」


「そうなんだ…柿田さんだっけ?」


「うん!下の名前は由衣って言うの。」


(すごく活発的な子だなあ。)と思いつつ、それから少しずつ由衣と会話を重ねて行った。


 部活に入らないまま5月になろうとしていた頃、由衣が私に突然、「恵茉(えま)、私と一緒にソフテニやってくれない?」と言ってきた。


「言ったでしょ、私高校で続けるつもりないから。」


「それがさぁ?1年生の女子私一人だけなんだよ?寂しすぎる!!」


「私じゃなくて他の子誘えばいいじゃん。」


「そーだけどさー…。あっ!!」


「どうしたの?」


「1年の男子にイケメン君がいるよ。さらにポジションは前衛!」


「へぇー。」


「とにかく!見学だけでいいから来てよ。」


「えー…。」


 今思えばどうして見学になんか行ったんだろう。イケメンという言葉に惹かれたのもあると思う。だけど、それ以上に後悔したままでは終わりたくなかった。

 でも今とはなってはあの時の私の決断は正しかったのか分からない。もうテニスのことで苦しめられる毎日。日に日に溜まっていくストレス。それを誰にも言えずずっと独りで頑張っている。

 誰かに心の内を曝け出したら楽になれるのかな?こんな時由衣に言えるわけがない。家族も違うし、内田さんだって違う。私って案外孤独なのかな。


(白城side)

 久井さん、長瀬さんに勝っちゃったよ…男子の一番手に勝つとかどれだけ強いんだよ!?正直柿田さんのストロークがスゴすぎたけど、久井さんもしっかりボレーを何本も決めたしなぁ…。俺なんか、長瀬さんのボール触れたとしても力負けするのに。

 着実に力をつけている柿田・久井ペアなのだが、内田さんはなぜか納得していない様子だった。さっきだって、勝ったとは思えないくらい柿田さんと久井さん、怒られてたもん。俺あんなに怒られたら泣いちゃうって。


 でも勢いのある柿田・久井ペアにも心配になることが一つだけある。どうも最近、2人の顔が引き攣っているように見える。新人戦の個人のとき、あの2人だけ8懸けの試合の時楽しそうにテニスをしていた。

 その2人だけの和やかな雰囲気はすこし周りからすると浮ついていた。だからこそ、観客の視線も自然と2人に集まってくる。柿田・久井ペアのテニスにみんなが引き込まれていった。

 俺はあのころの2人のテニスが好きだった。今は2人とも辛そうに見える。なんとかしてあげたいけど、一年の俺に出来ることなんて限られている。

 さらに俺はもうレギュラーなんだ。今までみたいに他人だけに構っている時間はない。だけど、だけど…やっぱりこのままじゃダメな気がする。


 不穏な影は誰にも見つけられないまま、確実に近づいてくる。そしてある日それに気づいた時にはもう遅い。一度現れたら、なかなか消えないもの…。

(筆者から)

私自身が受験生ということで、これから先なかなか投稿ができない日々が続くと思います。気長にお待ちいただけますと幸いです。

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