Episode44 暗影
学校も始まり、日常に戻った。しかし、久しぶりに受ける授業は白城にとって地獄であった。教師の言っている内容がほとんど分からなかった。それもそのはず冬休みの宿題は最終日に全て答えを写し提出した。つまり2週間弱、白城は全く勉強をしていないのである。
なんとか7限授業を受け終え、今から部活というところなのだが白城は既に疲れ切っていた。しかし部活がある。久井さんに会える、それだけで白城は頑張れるのである。
だがそれは久井さんがいればの話である。テニスコートに来て白城は知った。久井さんがインフルエンザにかかったということを。
久井さんがいなくてもキツイ練習がなくなる訳ではない。いつも2人で5分間のメニューを今日からしばらく1人でこなさなくてはならない。もちろん1人で5分間はめちゃくちゃキツイ。でもそれ以上に、久井さんがいないことの方が俺にとっては問題であった。
いつも練習と練習の1分もない間に久井さんと交わす会話を楽しみにしている。久井さんと話せればキツさなんて気にならない。でも久井さんはいない。キツイし、つまんない。
「どうした白城。今日元気ないな。体調でも悪いのか?」内田さんが心配そうに聞いてくる。(一人で5分間はキツイに決まってんだろ。)と心の中で思いながら「すいません。次から声出します。」と謝る。
坂井高校にはテニスコートが2面あり、どっちもオムニコート。だからレギュラーとそうでない人でコートを分けて練習する。隣のコートにはAチームの森田さん、上原さん、宮川さん、そして秦がいる。現状この4人がレギュラーである。
秦は媚びを売るのが上手で内田さんに気に入られている。実力で言えばレギュラーの中では一番劣る。俺とも大差はないと思うのだが、4番手になってから以前にも増して俺と高木を見下すようになった。「お前センスないやん(笑)」とか「下手すぎる(笑)」とか言いたい放題だよ。
俺は流しているけど高木はそうはいかなかったみたいで…この間の練習で秦がいつものように「高木センスないわ(笑)」と馬鹿にした。すると高木は無言で胸ぐらをつかんで危うく殴り合いになる所までいった。
高木は学校生活でもちょくちょく問題を起こす。宿題を出さないのは当たり前で、授業中もずっと寝てる。顧問の先生からの評価も悪く、2回ほど部活停止になったこともある。
ただ誰よりもテニスが好きなのは確かである。いつも誰よりも先にテニスコートにきてボールの準備をする。だけど高木が準備するボールは少し空気が入りすぎている。だから俺たちは練習の合間で空気を抜く。面倒ではあるけど、準備をしてくれるのはありがたい。
そんな高木がこの間の県もあってか、冬休みが明けてから一回も練習に来ていないのだ。学校には来ているそう。少し不穏な空気が立ち込めている。
高木がいないので前衛の矢野さんも俺と同じく一人で練習をこなしている。俺と矢野さんは目が合うも疲れているため会話は発生しない。
今度の土曜日には春季大会のレギュラーを決める校内戦をするそうだ。今日は月曜日。絶対に勝ってレギュラーになるんだ。そう自分に言い聞かせてキツイ練習を俺は頑張るのであった。




