152 プリンを作ろう 下
ぷるるん。
揺れる小さなプリン色の小さい小さい水まんじゅうが私の手の上に載っている。
半透明なプリン色のぷにぷにの真ん中にカラメル色の核が透けて見える。
うん、若い二人にまかせたらこうなった。
プリンとスライムが交配できるとは知らなかった。そんなことある?
ラムとプリンは情熱的に盛り上がり、一体化したのち、ぷるるんと小さな水まんじゅうを産み落としたようだ。
いやそれ、ラムがプリンを食べただけでは?
と思うのだが、ミィールさんが言うには違うらしい。そうなのか。そうなんだね。
プリンとスライムの愛の結晶のこの子は、なぜか私にとても懐いてしまった。
お母さん? なラムのところにお返ししても、すぐにぴゅんっと来て、ぴとっと張りついてくる。プリンの子どもなのだから、プリンの作り主の私はおばあさんに当たるのだろうか……。
正直可愛いが、可愛いが困る。
生まれたばかりの子どもだよね? お母さんにお乳とかもらわなくて良いのかね?
良いのか。そうなのか。
足元だと危ないのですくい上げてそのまま手のひらに載せると、ご機嫌でころころ手の中を転がる。
ひんやりとしたその手触り、とても良い。
「むー。これはーとても興味深いのでーす」
ミィールさんが唸る。
ミィールさんが差し出した手を、イヤイヤするように避ける仕草。拒絶されてミィールさん、地味に傷ついているようだ。
「研究したいのーにー」という小さなつぶやきが聞こえる。まあ確かに、これは研究しがいがある事象だろう。
懐かれる私をじっと見据えるミィールさん。ん、と一つ頷いた。
「テイムしちゃいましょう。そしてテイマーになるでーす」
そしてーそしてー、協力、してくれまーすよね? そう副音声が聞こえた。
えっと、そんな簡単に言っちゃっていいもの?
思えば私はキララとミミをテイムしている状態なので、すでにもぐりのテイマーである。
しかし、以前聞いたことをうっすら思い出すに、正式なテイマーになるには講義を受けて、認定みたいなのがあったはずでは?
「なんだったっけ。口説き文句を習得する講座?」
そんなのがあると、そう言われた気がする。それを受けろと?
「通常ならそこからでーす。でもそれだと間に合わないのです。これは相手が口説いてくれてるレアな状態なのでーす。なのでー!」
ちょいちょいと手招きされたので、ミィールさんに近づく。
耳にこそっと囁かれた。息がこそばゆい。
「お金でなんとかしまーす。なんとかなりまーす」
ほう。なっちゃうのかー。
正確には、お金だけじゃなく、正式な上級テイマーの保証が必要らしいけど、ここに上級テイマーなミィールさんがいるのでそこはクリアだ。
スライムさんは超初級ではだめなのでそこもなんとかごにょごにょしてくれるらしい。
すごいぞ、権力の乱用。わかった。金は出す。なんとかして!
ミィールさんの目を見て深く頷く。目と目で通じ合った気がした。
「任せた! でも、大丈夫?」
「よくあることでーす。生き物を扱う以上イレギュラーはいつものことですよー」
「なるほど。それはそうかも」
生き物、予想を超えたことをしがち。突発的対応力が試される。
「もう、サキさんはナンパされてるのでー、同意して名前をつけてあげてくださいなのでーす」
言われて考える。なまえ、なまえ。
スライムのラムとプリンの子ども。
うむ。
「プラム!」
そう言うと、ふわりと絆が結ばれた感覚。
ころりんぷるりん。
私が応えたことで、喜びの横転。いや縦回転? をするプラム。
とても可愛いね。
ということで、手乗り丸プリンがうちの子になった。
しかし……。
「えっと、スライムってどうやってお世話すれば……」
そうミィールさんに聞いてみた。基本的なことがわからない。
「生存に一ヶ月に一回以上のごはんが必要でーす。毎日いっぱい食べると体積が増えるです。その増えたところをぷるるんってしまーす!」
お、おう。よくわからないけど、もりもり食べさせればいいのかね。
「ちなみに、ごはんって何を?」
スライムさんの食性、わからないぞ。なんでも食べそうだけど。
「個体によりまーす。基本なんでも食べますけど、好き嫌いがあるです。あ、ガラスは食べないでーす」
なるほど。ガラス以外なんでも。うん、いろいろあげて好きなものを探っていこう。
そういえば、なぜか、この子の声は聞こえない。でも可愛いので問題なし!
こっちが言ってることはわかるみたいだし。
ぷるぷるころころして同意を伝えてくるのだ。可愛い。
そして、私にとても懐いてくれて、本当に離れない。
小さいので邪魔にはならないのだけど、潰してしまいそうで怖い。
というか、うっかり潰した。ころりんぷるるんと足元に降りたところをぷちっと。
ぺしゃって薄くなって、ぽよよんと復活した。
うむ。潰され耐性はかなりありそうだ。
でも、潰すと私の心臓に悪いから、できればポケットとか、肩とか、潰しにくいところにいてほしい。
「ここにいて」
そう言ってポケットに入れてもころりんと出てくる。好奇心旺盛のようだ。
「毎日、いえ、2日、えっと、3日に1度は様子を見せに来てくださーい!」
帰ろうとした私にミィールさんが言う。
うん、私では健康状態がよくわからないから頼りにさせてもらおう。
キララとミミにプラムを紹介。
プラムにもこの二人は家族だからねと紹介した。
「キララと呼ぶが良い! お姉さんでもいいぞ」
キララが胸を張ってそう言うが、この子喋らないからねぇ。
お姉さんぶりたいのだろう。
『ここが乗りやすいよ』
私の腕をよじよじしているプラムに、ミミがトカゲ姿で駆け上がり、私の肩のいい位置を教えてくれている。
私の肩そんなに乗りやすいかね。なで肩ではなく、いかり肩で良かったと思うこともあろうとは。
ころりんぷるるんと二人に挨拶をして、ぴょんと腕から肩に飛び乗ったプラムはミミの隣に座ったようだ。
うむ。肩に乗られると私からは見えないがきっと可愛く並んでいるのだろう。
それを見たキララが笑っている。
んむ。
うちに来たらからにはいっぱい食べて大きくなろうね。
何から食べてみてもらおうかな。
「ちょ、プラム、それそのまま食べちゃダメ。ぺってして!」
慌てて言うが、ぷるぷると嫌を伝えられる。
何を食べさせたらいいのか、キララに相談したのだ。
「もちろん、ルオクドじゃ!」
って言うから出してみたルオクドを見て喜んだプラムは、すごい勢いでそのまま食べた。
そう、パッケージのままパクンと。一瞬大きくなったプラムがあっという間にルオクドを包み込んでないないした。どう考えてもルオクドの方が大きかったのに。
「出して!」
再度強く言うと、しぶしぶという感じで、ルオクドをにゅっと出した。ほっと息を吐く。
ただ……。
「パッケージだけ綺麗に食べた?」
プラムが差し出したルオクドは中身だけだった。包んであったパッケージが消えている。
満足気にころころ転がるプラムは、心なしかちょっと大きくなった気がした。




