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【書籍販売中】異世界、一日千円で生き抜きます (旧題:異世界で一日千円分だけ自分が買ったことがあるものを出せる能力でなんとか生き抜きます)  作者: 相内 友
第十章 勇者、来襲!

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150 プリンを作ろう 上

「ミリアさん、あのキッシュ、めちゃくちゃほんとに美味しかった!」

 寄り合いからの帰り道、キッシュの感想をいまさらながらに述べる。


「そうかい」

「特に中のあの甘じょっぱいところがとても美味しくて、お野菜に絡む濃厚な卵液の味が素晴らしくて、パイ部分もなにあのサクサク感!」


 いや、ほんとあの卵と生クリームかな、あの中身が。すごく濃厚でうまうまだった。


「そうかい」

 ちょっとかすれたミリアさんの声。少しだけ赤くなった顔。


「材料が良いんだよ」

 そりゃあニア農園のお野菜、新鮮で元気いっぱいだからね。うんうんと頷く。

「ミィール牧場はいい仕事をするからね」

 おや、そこが生クリームとかの仕入先かな。あのキッシュの味を高めていたのはそこの乳製品なのか。


 ちょうど考えていることがあったので紹介してほしいと頼む。するとミリアさんは呆れたように笑った。

「あんた、お隣さんなのに、あの子を知らないのかい?」


 んん? お隣さん? うちのお隣さんって、ああ! テイマーギルドの厩舎!?

 えっ、ミィール牧場って、ミィールさん? ミィールさん牧場主だったの?


 それは盲点だった。近すぎて知らなかった。

 けっこう近所でも知らないことってあるものだ。

 思いがけない桜の名所が近くにあったりしたな。







「こんにちはー」

 受付に姿が見えないので呼びかける。

 カウベルが置いてあるのを、声をかけてから気がついた。

 これ鳴らしてみても良いだろうか。


「はぁーい!」

 悩んでいるうちに返事がきてしまった。

 そして、奥にいたミィールさんがスライムのラムと共にやってきた。

 どうやら奥で何かの作業中だったようだ。ふわふわの三つ編みに干し草がついている。これは敷物の入れ替えをやっていたのかもしれない。


 いつもどうも作業中に来てしまう。タイミングの悪さを自覚しているのだけど、かといって自分ではどうしようもないよね。


 どうしてこう、何も今じゃなくて良くない? ってタイミングになるのか。


 おトイレに入って、さて、って時に宅配便の人が来たりする。

 あと1分、1分早く来てくれていたら、みたいな。


 望む能力を授けてもらえるというあの時に「グッドタイミングに恵まれる能力」を授けてもらえば良かったのだろうか。


 タイミングが良い人になりたい気持ちがある。あるけどタイミングだけで異世界を生きていくのはきっと大変だろう。だからこれで良かったのだと自分の選択を肯定しよう。


「あーらー、サキさん。こんにちはー」

 にっこりと笑うミィールさんの肩で、ラムがぷるるんと揺れる。

 多分挨拶してくれているのだろう。


 その揺れに合わせるように手を振る。少しだけラムの揺れより早く手を振ったら、それにスピードを合わせてくれるので面白くなってどこまで小刻みに揺れることができるか、試してしまった。この素早さについてこられるかね?


 高速手振りに食らいつき、残像が見えるほどのラムの高速の揺れ。このまま続けたらなにやら波動が出てきそうだ。


 もう少しで何かに至れそう! がんばれ、ラム!


 しかし、限界を迎えたのだろう、ぺちゃんと力なくラムがミィールさんの肩にはりついた。可愛い。

 っと、ラムと遊ぶのは楽しいけれど、そうじゃない。目的を果たさねば。


「ミィールさん、ミィール牧場の牛乳と卵、定期購入お願いしたくて」

 ミリアさんに聞いたんですよと、とても美味しかったのだと告げるとミィールさんがぱっと明るく笑う。


「んふふー。嬉しい。兄に伝えますね」

 コネは使うべし!

 良質な牛乳もバターも生クリームも卵もゲットできるコネがここにある。っと兄?

 ミィールさんが牧場主なのかと思ったらそうではないそうだ。


 両親と兄たちがやっている牧場で、元は違う名前だったのだけど、末っ子のミィールさんを家族総出で可愛がるあまり、牧場名を変えたのだと。


「ただ、ちょっと今はバタバタしてるのでーす……。少しだけ待ってもらうかもですー」

 しゅんっとなったミィールさん。

「バタバタ?」

「産まれた子牛たちの調子がちょーっと、なのでーす……」


 小さくなる語尾。

 聞くと、胃腸風邪っぽいものが流行っているようで、免疫が弱い子牛たちがバタバタと調子を崩して大変らしい。


 動物の胃腸関係といえば、酪酸菌が思い浮かぶ。人にも良いけれど動物にも使われるやつ。


 うん、ストロングな宮入菌のお薬なら買ったことがある。


「ミィールさん、だめもとで、これ、試してみませんか。下痢によく効くお薬で、人にも動物にも使えるやつ」

 カバンからごそごそと何かを取り出す素振りをする。

 千円リピートで出し手のひらに載せた錠剤をミィールさんの眼の前で口に入れる。人体にも悪影響のないことを実地で示すためだ。


 ストロングな整腸剤はラムネみたいに口の中でほろりと溶けた。

 どうもうちでは整腸剤系は舐めて食べてしまう。オリゴ糖などが入っている事が多いからだろうか、ほんのり甘くて美味しいのだ。


 下痢や便秘に良いこの整腸剤。どうして真逆の症状に効くのかいまいちよくわからないけれど、胃腸をいい感じに調整してくれるんだと思う。


 食欲も出るし、プラシーボ効果だと思うんだけど、飲んでからすぐ、10分くらいで痛みがだいぶ治まった経験がある。まだぜったい腸まで届いていないのに。

 それもあって、これを飲めばもう大丈夫という私からの信頼があついお薬だ。


 私の言葉を聞いて、行動を見て、ミィールさんが軽く目を見開く。

 藁をも掴む気持ちなのだろう。強いその眼差し。普段ふんにゃりと緩いんでいる目元をキリッとさせたミィールさんが「試しまーす!」と言い、握りこぶしを作る。


 少しでも子牛が楽になれるなら、なんでもするというその気合。

 きっと子牛を家族のように慈しんでいるのだろう。

 畜産農家が家畜に注ぐ愛は果てしない。


 最近カバンに常備している小袋に入れたお薬をミィールさんは丁寧に受け取ってくれた。





 そして、ミィールさんは得体のしれないお薬を試してみるという賭けに勝ったようだ。

 後から聞いた話、ミィールさんが与えたお薬入り飼料を食べた子牛達はみるみるうちに回復したそうな。

 そして、恩を感じたのだろうか。

 ミィールさんが厩舎に来ると子牛達がすぐにミィールさんの元に押しかけるようになった。押しかけてミィールさんをもみくちゃにするのだそうだ。


 その気持、甘んじて受けるがいいと思う。

 子牛のよだれまみれになって笑うミィールさんはとても可愛いことだろう。





 ということで、ここに素晴らしい卵と牛乳があります。

「いっくらでも持ってくるですよー お代? なんのことです?」

 手をないないと隠すミィールさんに強引に銀貨を渡そうと試みる。


 まるで大阪のおばちゃんの食事の後の支払いの攻防のような押し合いに、私は勝利した。

 一応関西人なので! 押しは強い方だ。

 いや、単に作業着のつなぎにはわかりやすいポケットが多々あった。それゆえの勝利だ。


 だって、とても良い卵なのだ。

 新鮮なのもお墨付き。そして牛乳。すごいぞ生乳。

 これちょっと涼しい場所においておいて撹拌するだけでバターが作れるやつ。だってすごい、濃厚。

 色は白くて見た目あっさり系に見えるのに、その白さに隠された情熱。熱量。


 この素晴らしい牛乳があれば、なんだって美味しくできるだろう。

 特にあれだ。


 卵と牛乳と砂糖があれば作れるぷるぷるした喉越しが良いお菓子。

 そうプリン。プリンなら食欲がない時でも食べられる! 栄養満点!


 プリンの材料はとても単純だ。だが単純なだけに奥が深い。

 まず、カラメル。私はプリンにはカラメルが欲しい派閥だ。しかもただ甘いより焦げる寸前の苦みがあるやつが大好き派閥だと、自作するのが確実。


 市販のプリンのカラメル、美味しいけれど甘みの方にバロメーターが調整されているのが圧倒的に多いから。


 まず、カラメルを作ろう。試作に二個分くらいだと作るのがやや難しい。

 なので、必要量より少し多めに作った方が良い。


 お砂糖はできればグラニュー糖だけど、このためだけに仕舞ってある所から出してくるのも面倒で上白糖で作ることが多かった。


 今回はグラニュー糖で作ろうかな。だって素晴らしい材料があるから。


 グラニュー糖大さじ2に小さじ1のお水を加えて、じわじわと水がお砂糖を侵食していくのを眺める。

 ほんの少しの水が砂糖をじゅくじゅくと溶かしてどろどろになっていく姿を見るのはちょっと楽しい。


 これに火をかける。


「火加減はまかせて」

 今日もうちの子は優秀である。ミミがちゃんと熾の状態で火力調整しやすい状態を保ってくれている。

「味見はまかせるのじゃ」

 うん、その役割もとても大切だね。


 じっくりと熱されて砂糖が大きな泡を立てる。その泡が静まると砂糖液はゆっくりと色を変える。黄金色からだんだん色が濃くなる。

 漂う香りが甘い物から香ばしいものに変わった。色がコーヒーくらいになった。


 今だ。


 タイミングを見計らってお湯を入れて蓋でガードをする。

 ジュワジュワと音を立ててカラメルが弾ける。音に驚いたキララが小さく悲鳴を上げた。


 手早く容器に流し込む間にも鍋肌にかたまるカラメル。


 もったいないから、このままこの鍋で牛乳を温めてしまおう。キャラメルプリンっぽくしちゃおう。


 プリン液、私はいつも牛乳150mlに卵Mを一個、お砂糖は大さじ1と2分の1で作っていた。


 卵をよくかき混ぜる。100均の便利道具ってたいてい試してみては「あんまり使い勝手が良くないな……」ってなることが多い。

 しかしその中には本当に便利で通常使用するようになるものがある。


 卵を混ぜるためだけの道具なんていらないでしょう? と思っていたのに買ってみたら便利だったのが、卵をとく白いプラスチックの穴が連続して開いている道具だ。

 これがあれば白身が面白いように切れて混ぜやすい。


 その道具で卵を心ゆくまで混ぜてからお砂糖を加え、そこに温めたカラメル入り牛乳を注いて混ぜる。


 あとは茶こしでこしたらプリン液はできあがりだ。


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書影が公開されました。
2026年2月25日発売です。
可愛い表紙にしていただけたので、
見ていただけたら嬉しいです。

画像をクリックすると、
MF文庫J様公式ページにアクセスできます。

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― 新着の感想 ―
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