25話 魔力
「この時点で質問はありますか?」
4人は困惑していた。未知の情報が濁流のように流れてきたからだろう。
総理の後ろに立っている秘書は真剣にメモを取っているようだった。
「私からいいか?」
最初に声を出したのは天城総理だった。予想通りといったところだ。
「はい、答えられることなら」
俺は天城総理のほうへ体を向ける。
「魔獣は魔力を持つ生物だと言っていたね。では、そもそも魔力とは何か。漫画や小説ではよく聞く言葉だが、説明が曖昧で実態が分かりにくい」
ほかの三人も同意するように頷き、俺の説明を待っていた。
「魔力は、たしかに小説や漫画でも使われる言葉です。その魔力を使って魔法と呼ばれるものが使えます。」
俺は右手を机の上へ伸ばし、卓球玉の大きさの火、水、土、風の塊を空中に浮かばせた。
三人が目を大きく開けた。
「な、何もないところから、ふむ確かに漫画や小説で見る感覚だな」
「映像で見ていたが実際目の前で魔法を見せられると現実だとは思えないな」
川村さんと山田官房長官がまじまじと見ながら言った。
「しかしどの作品でもこれが一体何なのか説明できない。俺もこれが絶対に正解と呼ばれる回答は知りません。あくまで個人的に使っていての予想程度でしかありません。ただしほぼ正解といっていいと思いますが」
「その根拠は何かね」
総理が興味深そうに聞いてきた。
手を握り魔法を消失させる。
「小、中、高校、大学で学んだ物理学、化学、生物学。そして実際に魔法を使い続けてきた経験を照らし合わせた結果、一つの結論にたどり着きました。」
「魔力とは何かね」
「一般的には『魔法を発動させるためのエネルギー』と言われます。間違いではありませんが、その表現では本質を捉えきれていません。」
「では、本質とは?」
「魔力とは、この世界の構造――つまり物質や現象を別の形へ変換するときに必要となるエネルギーです。」
四人は難しい表情を浮かべた。
「……少し抽象的でしたね。」
俺は何もない空間を指差す。
「この空間には何がありますか?」
「空気……だな。」
天城総理が答える。
「その通りです。私たちは何もないように見えていますが、実際には窒素、酸素、水蒸気、二酸化炭素、アルゴンなど、無数の分子が存在しています。」
俺は右手を軽く掲げた。
次の瞬間、空気中に小さな火球が生まれる。
「多くの人は『何もない場所から火が現れた』と思います。しかし、実際には違います。」
俺は火球を指先で回転させながら続けた。
「空気中の物質を再構成し、原子や分子の結合状態を変化させ、燃焼に必要な条件を瞬時に作り出しただけです。その際に世界の法則を書き換えるための代償として消費されるエネルギー――それが魔力です。」
「つまり……」
総理が口を開く。
「魔法とは無から有を生み出しているわけではない、と。」
「はい。厳密には『世界を改変している』だけです。」
「では水を出していたことも同じか?」
「ええ。空気中の水蒸気を集める場合もありますし、酸素と水素を魔力で再構成して水を生成することもできます。土も金属も基本的な考え方は同じです。」
山田官房長官が腕を組む。
「つまり魔力とは、世界を書き換えるためのエネルギー……そういう理解でいいのか。」
「はい。その認識でほぼ問題ありません。」
「錬金術みたいだな」
川村さんが口ずさんだ。
「確かに似ていますが少し違いますよ。錬金術はこの世界に存在する物質を組み替える技術です。しかし魔力は、それに加えて別の次元からエネルギーを取り込み、この世界へ持ち込めます。」
全員が驚愕していた。しばらく間があく。最初に第一声を発したのは山田官房長官だった。
「さっきの説明では変換するのが魔力と言っていたではないか」
「すみません、説明が足りていませんでしたね。確かに世界の法則を書き換えるための代償として消費されるエネルギーですが、もしそれをするとこの世界のエネルギー保存の法則が成り立ちませんよね」
この世界では、エネルギー保存則は物理学の基本原理として知られている。そしてアインシュタインは相対性理論によって、質量もまたエネルギーであることも示されている。
「では、エネルギー保存則だけでは説明しきれない魔力は、どこから来るのか。ここからはあくまで予想という段階ですが、それは別の次元から流れこんでくるからという説明が一番現実的です。」
「別次元?」
「そうですこの世界は三次元空間として認識されています。では、その宇宙が膨張しているとして、広がるためのエネルギーはどこから来ているのか?」
「何もない世界か?」
天城総理が答える。
「はい。人間にとっては何もない世界に思えます。しかしそれは人間が三次元的世界しか観測できないという見方もできます。この宇宙は今も膨張し続けています。つまり、この世界の三次元は広がっている。その世界を作っているエネルギーはどこから来ると思いますか?」
「それが別次元にある魔力ということか」
俺はうなずいた。
「はい、その通りです。もちろん現在の物理学では暗黒エネルギーなど様々な説があります。しかし魔法という現象を前提にすると、別次元からエネルギーが流入していると考えるのが最も自然でした。」
「なるほど、今の説明だとその可能性があるな」
「でもその説明だとなんで未確認生物体が魔力を持てるんですか?エネルギーを体内に保有できるとは思えないのですが」
川村さんが質問をしてきた。
俺は一度息をつき、四人の顔を順番に見回した。
「その説明はとても難しいというか、それについては未だに答えを出せていません」
部屋に静寂が訪れる。
「…少し長くなりますが構いませんか?」
四人は黙ってうなずいた。




