24話 執務室
「おはようございます。朝9時になりました。この時間のニュースをお伝えします。」
女性が原稿を読み上げている。
「昨日夕方頃茨城県東部で複数の不明生物が街を襲いました」
画面が切り替わりヘリコプターで撮った現地の映像が流れる。
「政府の発表によりますと、昨日未明、約60体の不明生物が茨城県内の市街地を襲撃しました。政府は茨城県にある要守神宮を中心に半径約10キロを立ち入り禁止区域に指定し、周辺住民を避難させました。また、天城総理は災害対策基本法に基づき災害緊急事態を布告。不明生物への対応として自衛隊に防衛出動を命じました。なお、緊急措置として、国会の承認は事後に行われる見通しです」
画面が切り替わる。避難所の映像だ。
「避難所には約1万人が身を寄せており、自衛隊が食料の配布を行っています。なお、詳細な被害状況について政府からの発表はまだなく、午前11時に官房長官が記者会見を開き、詳しい内容を説明する見通しです」
テレビの電源が消える。
天城総理がリモコンで消したからだ。
テレビを見ていた俺はソファーに座ったまま天城総理のほうへ体を向ける。
ここは総理大臣執務室。官邸の奥にある、限られた者しか入ることを許されない部屋だ。重厚な机と応接用のソファー、壁に掛けられた大型モニターだけが、この部屋が単なる執務空間ではなく、国家の意思決定の場であることを物語っていた。この部屋にいるのは、総理と俺、それに総理秘書、川村さん、山田官房長官の五人だけだった。
総理秘書は総理の後ろに控え、川村さんと山田官房長官は俺の向かいのソファーに腰掛けている。総理は執務机の奥から静かにこちらを見つめていた。
「ご覧いただいた通り現状政府として詳細な発表はまだだ。理由は主に二つある。一つは政府自体が情報不足だからだ。情報がない以上国民に不安をあおることになる。二つ目は君だ。昨日の話だ。条件があるのだろう?情報の秘匿、軍事利用の制限、君、そしてその家族友達の安全保障だろう?」
うなずく。
「はい、今回の事件のように魔獣がいつ現れてもおかしくないのは明らかです。俺自身としては自分の周りの人を助けたいと思うのが第一です。しかし、俺の周りの人もその周りが存在します。ですから政府と協力し対処するのはいいと考えています」
総理が俺の話を聞きながらうなずいていた。そして手元の資料を手に取り何枚もある資料をまくりながら答えた。
「現状まだ非公開情報だが今回の魔獣災害の死者は1,000人を超えた。建物被害を含めた経済損失は、約百億円規模になると推定されている」
「っ」
そんなに死者が出ていたのか、そこまで被害が広がっていたのか。
俺が驚いていても総理は話をつづけた。
「そして何より厄介なのがあの硬い表皮だ。複数の研究機関に死体を解析してもらっているが、普通の銃では歯が立たない、最低でも機関銃クラスではないと話にならないと報告を受けている。実際、今回も武装ヘリによる機関砲や対戦車ミサイルによる攻撃で、ようやく討伐できた個体もあった。」
ヘリ部隊か、俺が知らないところで倒せたのはそれがあったからか。
「それで一つ聞きたい。君はその力を一体どこでいつ手に入れたのかね?」
その質問は予想していた。いやラノベだとド定番の質問か。しかしここは現実世界、信じられるはずがない。
「確かにその質問は予想していました。話すつもりもあります。しかし、話す順序があります」
「聞こうか」
総理は腕を組み肘を机の上に置く。
俺は深呼吸をし、頭の中を整理する。
今この場で話すべきことだけを選ぶ。嘘はつかない。ただ、すべてを話すわけでもない。
「まず前提として、あれは単なる未確認生物ではありません。俺の知識では、魔獣と呼ばれる存在です。魔力を持ち、通常の動物とは比較にならない身体能力や耐久力を持っています」
質問したいことは山ほどあるのだろう。しかし誰も口を挟まず、俺の言葉を待っていた。
「今回確認されたのは、ワイバーン、フォレストウルフ、そしてエルダーウルフ。いずれも危険度の高い魔獣です。特にエルダーウルフは、本来なら一個人で相手をするような存在ではありません」
俺は机の上にある資料の写真に指をさしながらそれぞれの名前を伝える。
「ただ、俺にも分からないことがあります。なぜそれらがこの世界に現れたのか。なぜ要石が発生源になっているのか。そして、なぜそのような事態になったのか。そこまでは、まだ断言できません。この時点で質問はありますか?」




