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魔獣災害――前世の記憶を持つ俺が日本を救うまで 双世界の守り手  作者: 玄呂 恭真
1章

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21話 忘れていた記憶

目が覚めるとそこは見たことのない場所だった。日本では考えられないくらい大きな部屋。

広いベッドの上に寝ている。さっきまであったはずの傷もなく、体の痛みすらない。


「ここは…どこだ..」


周りを見渡すと西洋風といったものがたくさんあった。

ベッドの横にある机にはきれいな花瓶に豪華な花がさしてあった。

体を起こすと視界に青色の何かがあった。

そっちに目を向けると深青の長髪の女性がベッドのそばでうつ伏せで寝ていた。

半信半疑でその名を呼ぶ。


「アティーナ?」


すると寝ていたアティーナは目をこすりながら体を起こした。


「んー……アクタ?……」


眠たそうだった表情が固まる。

数秒。

信じられないものを見るように目を見開いた。


「アクタ!」


次の瞬間、アティーナが勢いよく飛び込んできた。


「うおっ!?」


避ける間もなく抱きつかれる。

柔らかな髪が顔に当たり、肩に強い力が込められた。


「よかった……本当によかった……」


震える声。

肩口が少し濡れていることに気づく。

泣いているのだ。


「アティーナ……?」

「馬鹿……! 本当に馬鹿よ!」


アティーナは顔を上げる。

いつも冷静だった彼女の瞳には涙が溜まっていた。


「もう二度と会えないと思ったんだから!」


状況が呑み込めず俺は戸惑った。


「ア、アティーナ? どうしたんだ? どういう状況なんだ?」

「え?」

「俺は確か……エルダーウルフと戦って……」


アティーナは涙をぬぐいながら首を傾げた。


「覚えてないの?」

「何を?」


俺がそう聞き返すと、アティーナは心配そうに顔を覗き込んできた。


「任務よ。あんた、魔力暴走した魔獣と戦って、そのまま倒れたじゃない」

「あ……そうか……あの時のことか」」


そこでようやく記憶がよみがえる。

巨大な魔獣。崩れ落ちる遺跡。

限界を超えて魔法を使ったこと。

そして最後に感じた激しい痛み。これは過去の記憶か。


「俺、気を失ったのか」

「気を失ったどころじゃないわよ」


アティーナは呆れたようにため息を吐く。


「三日も眠っていたんだから!」

「三日!?」


思わず声が裏返った。


「それで、あいつはどうなった?」

「あいつ?」


アティーナが首を傾げた。


「あの銀髪の」

「あーあいつか」


アティーナの顔が一瞬で暗くなる。怒っているのだろう。


「あいつのせいでアクタが……。次に会ったら絶対に殺してやるんだから……」


最後の方は小声になっていて聞き取れなかった。いや、聞かなかったことにしておこう。


「それで、任務は?」

「失敗よ。あいつを取り逃がしたし、遺跡も崩れちゃったから..」

「そうか……」


空気が沈む。それを変えるかのように明るい声でアティーナは喋る。


「そうだ! お父様に報告したんだけど、なぜか特別報奨金が出るらしいわよ!」

「へ?」


思わず変な声がでてしまった。


「なんで?任務失敗したのに?」


任務を失敗したのだから貰えないのが普通だろう。


「任務は失敗に終わったけど目的は成功らしいわよ?」

「目的?」

「それについては教えてくれなかったわ、いくら頼んでも無理の一点張りだったよ」


アティーナにあれほど甘い父親が、なぜそこまで口を閉ざすのだろう。何か事情があるのかもしれない。


「何か裏がありそうだね」

「そうねー……でも今はあんたの方が重要だわ。痛むところはない?体調は大丈夫?」


アティーナが心配そうな顔でこちらを見てくる。瞳には涙がたまっている。


「うん、大丈夫だよ。ありがとう」


俺はアティーナの頭を撫でて慰める。


「だって、アクタ私をかばって……」


みるみるアティーナの顔が赤くなっていく。

目も合わせようとせず、視線を泳がせていた。


「……?」


急にどうしたんだろう。


「アティーナ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫よっ!」

「ならいいけど」


アティーナの顔は赤いままだが、俺の手から離れようとはしない。


「ねえ、アクタ」

「どうした?」


アティーナが頭を撫でられながら上目遣いでこちらを見る。

長い深青の髪がベッドの上へさらりと広がった。


「私ね、もっと強くなるわ。もう誰にも負けないように……」


その言葉には強い決意が込められていた。


「君はもう十分強いじゃないか。少なくとも俺より剣も魔法も上だろ?」


そう言うと、アティーナは呆れたようにため息をついた。


「そんなことないわ。あんたは自分を過小評価しすぎなのよ」


次の瞬間。

コツン。

アティーナの指がおでこに当たった。


「いてっ」

「自覚しなさい。あんた、十五歳で上級魔法を使えるのよ?」

「それは師匠がすごいだけだよ」

「ほら、そういうところ!」


アティーナは頬を膨らませる。


「団長も言っていたじゃない。アクタは将来間違いなく王国最高峰の魔法使いになるって」

「買いかぶりだよ」

「買いかぶりじゃないわ!」


アティーナはむっとした表情のまま俺の肩を軽く叩いた。

そんな何気ないやり取りが妙に懐かしく感じる。

そのとき、不意に視界が揺らいだ。


「アクタ?」


アティーナの声が聞こえる。

だが少しずつ遠くなっていく。

部屋の景色が揺らぎ始めた。

花瓶も。

窓も。

ベッドも。

まるで水面に映った景色のように歪んでいく。


「待って……」


思わず手を伸ばした。

アティーナは不思議そうな顔をする。


「どうしたの?」

「まだ……」


まだ話したい。

まだ伝えたいことがある。

だが言葉にならない。

アティーナの姿が光に溶けていく。


「アクタ?」


その声を最後に世界が白く染まった。


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