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魔獣災害――前世の記憶を持つ俺が日本を救うまで 双世界の守り手  作者: 玄呂 恭真
1章

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22/27

20話 茨城5

俺は上昇するだけではなく、風の流れから逃れるように横へ移動する。エルダーウルフとの距離はどんどん離れていく。しかし、それではこちらも攻撃が届かない。竜巻の規模は時間が経つごとに大きくなり、風圧も増していた。周囲の木々が根こそぎ引き抜かれ、空中を舞っている。自分の体に次々と傷が刻まれていく。切り傷から流れた血が服を赤く染めていった。


「くそっ……」


このまま逃げ続けても意味がない。むしろ不利になる。

浮遊魔法。

身体強化。

探知魔法。

今この瞬間も魔力は消費され続けている。対してエルダーウルフは地上で悠然とこちらを見上げているだけだ。完全な消耗戦になれば先に限界を迎えるのは俺の方だろう。

それに――。

俺は町の方へ視線を向けた。

遠くでは未だ黒煙が上がっている。

取り逃がした魔獣たちがどこまで広がっているか分からない。避難が終わっていない住民が巻き込まれる可能性もある。

時間をかければかけるほど被害は増える。


「なら――ここで決めるしかない」


俺は飛行速度を落とし、エルダーウルフを見据えた。

危険なのは分かっている。

だが、遠距離から削り続けても意味がない相手だ。

一撃で仕留める。

そう決意し、剣を握りしめ、もう一方の掌に魔法陣を展開した。


「火属性中級魔法 紅蓮槍」


巨大な炎の槍がエルダーウルフに飛んでいく。しかし当たる直前エルダーウルフが素早い動きを見せた。槍はエルダーウルフをかすめ、その足元へ突き刺さった。

「狙い通り」


その瞬間、俺の身体はエルダーウルフの足元へ移動していた。


「短距離転移魔法」


腕に魔力を込め渾身の一撃を首へと打ち込む。

剣先が首に入ると同時に探知魔法に魔力の反応が出現した。自分の目の前から風の刃が飛んで来ているのだ。


「この機を逃すわけにはいかない」


俺は相打ち覚悟で剣を全力で振り抜いた。

剣は首へ食い込む。

だが――浅い。

骨まで届かない。


「硬すぎる……!」


エルダーウルフが咆哮する。

風の刃が目前まで迫る。

ここで引けば終わりだ。

俺は身体強化をさらに上乗せし、歯を食いしばった。


「切れろおおおお!!」


剣がちょうどエルダーウルフの首を切り終わる時、自分の胸に強い痛みが走る。

左肩から右脇まで一直線に風の刃が切っていく。俺は吹き飛ばされ駐車場のそばにあった大樹に叩きつけられる。

俺はその衝撃で意識を失った。


※※※


何分経ったのだろう。少しずつ意識が覚め重い瞼を少しずつ開ける。

瞼を開き、少しずつ焦点を合わせていく。目の前に広がった光景に息をのんだ。

太陽は完全に沈み、辺り一体が真っ暗だった。目の前にはエルダーウルフの頭部が転がり、その巨体は横に倒れ、首の断面から大量の血が流れていた。そして何より自分に打たれた風の刃の痕跡が生々しかった。

アスファルトから俺の横にある木まで鋭い一直線の跡がくっきりと残っている。

要石の方向に視線を向ける。

空へ向かって巨大な光の柱が立っていた。


「はやく、要石のところに行かないと」


立ち上がろうとすると胸に凄まじい痛みが走った。

足元がふらつき、よろけとっさに近くの木に手をつく。

顔を下に向け自分の体を見る。そこには左肩から右脇まで一直線に服が裂け、深い傷があり、血が心拍に合わせて滲みだしていた。


「まずいな」


俺は急いで回復魔法を何重に発動する。淡い光が傷口を包み。ゆっくりだが出血が止まっていく。

しかし、傷そのものは完全にふさがらない。


「魔力が足りない、しかも回復魔法を使っているから飛行はむりか、」


俺は足を引きずりながら要石のところへ向かった。


***


「やっと着いた」


目の前に要石が光っている。ここまで来るのに20分くらいかかっただろう。

なぜさっきまでやつがいたときは光っていなかったのにあいつが何かしたのか?

今は考えている暇はないか、

要石に触れる。

指先が石に触れた瞬間、冷たいはずの表面から焼けるような熱が流れ込んできた。

 反射的に手を引こうとする。だが、離れない。

 掌に吸い付くように、要石が俺の魔力を掴んでいた。


「っ……今度は、勝手に終わってくれないのかよ」


 石の表面に浮かんでいた幾何学模様が、淡い光を帯びながら脈打つ。

 前回のように一点へ収束するのではない。

模様は複雑に絡み合い、まるでこちらを拒むように歪んでいた。

 銀髪の男が残した魔法式だ。

 直感でそう理解した。

 俺は歯を食いしばり、残り少ない魔力を掌へ流し込む。

 傷口が脈打つたび、意識が遠のきそうになる。それでも手は離さない。


「ここで……止めるんだ」


 要石の奥で何かが軋む音がした。

 次の瞬間、石から伸びていた光の柱が大きく揺らぎ、夜空へ散るようにほどけていく。

要石の光は消え、辺りは再び静寂に包まれた。

探知魔法を広げる。

新たな魔獣の反応はない。


「……終わったのか」


そう呟いた瞬間、張り詰めていた意識が途切れた。


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