17話 茨城2
鳥居をくぐった瞬間だった。
まるで別世界へ足を踏み入れたかのような静寂が辺りを包む。
先ほどまで遠くに聞こえていた車の音や人々の声は消え失せていた。
木々が風に揺れ、葉と葉が擦れ合う音だけが神社の境内に響いている。
参道脇に設置された街灯は並んでいるものの、どれも明かりは灯っていない。
光球の淡い光だけが、暗闇をわずかに照らしていた。
「……妙だな」
探知魔法を維持しながら周囲を警戒する。
魔獣の反応は確かにある。
だが、静かすぎる。
その時だった。
ガサッ――
前方の茂みが大きく揺れた。
次の瞬間。
ドドドドドッ!!
地面を蹴る激しい足音が参道に響く。
「来たか!」
俺は反射的に剣を構えた。
音は一直線にこちらへ向かってくる。
暗闇の中から現れたのはフォレストウルフ。その数10体。
俺はそのままフォレストウルフの軍団に向かって走る。そのまま通り過ぎるようにそれぞれの首を切っていく。
「C級魔獣ならこんなものか。剣術をアティーナに叩き込まれていなかったら、今頃俺がやられていただろうな」
後ろにはフォレストウルフの胴体と首が転がっている。
しかし未だ探知魔法には多くの魔獣の反応がある。
「そういえば今回は光の柱がないんだな、なぜだ」
その理由を考えていると次は上空からワイバーンの集団が急降下しながらブレスを吐いてくる。
「考えるのは後だ」
急いで回避行動へ移る。道の脇へ飛び、そのまま跳躍して木の枝へ飛び移った。
ブレスが地面に着弾する。
爆発にも似た衝撃で木々が激しく揺れた。
さっきまで俺が立っていた場所は炎に包まれている。
「あぶねー……気づくのが遅かったら丸焦げだったな」
上空ではワイバーンたちが獲物を探すように旋回していた。
「どう倒すかだな……」
空中戦は不利だ。
ワイバーンは飛行能力が高い。無理に飛び上がれば格好の的になる。
なら――地上へ引きずり落とすしかない。
俺は掌に風属性魔法の魔法式を展開した。
狙うのは本体ではない。
翼だ。
ワイバーンが旋回し、こちらへ身体を向けた瞬間――
「そこだ」
放たれた風の刃が夜空を切り裂く。
一枚。
二枚。
三枚。
翼膜に次々と穴が開いていく。
バランスを崩したワイバーンたちは悲鳴を上げながら落下した。
「ギャアアアアアッ!」
地面へ激突する轟音が境内に響く。
「よし、まずは数を減らす」
地面に落ちたワイバーンは格好の的だった。機動力を失い四つ足で這うように動いている。
俺は木の枝から降り、一気に距離を詰める。ワイバーンはこちらが近づいてくるのに気づくと大きく口を開ける。
至近距離でブレスを打ってきた。
咄嗟に上空へ跳び、ブレスを回避する。
その時だった。まだ空中を飛んでいたワイバーンが鋭い爪で襲いかかってきた
「っ!」
急いで魔法障壁を展開し直接攻撃を免れる。しかしその衝撃までは防ぎきれない。
地面に叩きつけられ、その拍子に剣を手放してしまう。剣は地面を転がり、数メートル先へ飛んでいった。
「くっ……!」
背中に大きな衝撃が走り痛む。身体強化魔法のおかげで傷はない。
痛みを無視してすぐに体勢を立て直す。起き上がると、剣が落ちた場所へ駆け出し、すぐに拾い上げる。
「周りの被害を気にしている場合じゃないな…」
地面に手を置く。
「植物魔法――樹縛」
水属性と土属性の複合魔法「植物魔法」を発動する。土の中から無数の根が伸び、地上に落ちたワイバーンたちの首へ巻き付く。地面に頭をたたきつけ縛る。さらに周囲の木々の枝が手足のように伸び、上空を飛ぶワイバーンたちへ襲いかかった。ワイバーンたちは枝の攻撃を避けるのに必死だった。その隙を狙い、俺は伸びた枝を足場にして一気に跳躍する。ワイバーンがそれに気づいたときはもう首を切る動作に入っていた。
ワイバーンの首が宙を舞い、巨体が地面へと崩れ落ちる。
俺は着地すると大きく息を吐いた。
「ふぅ……」
探知魔法を維持したまま周囲を確認する。
まだ奥には複数の反応が残っている。
「まだ終わりじゃないな」




