16話 茨城1
あれから三十分ほどが経過した。今いるのは駅のロータリーだ。向かいにはマンションがあり、そこら中にフォレストウルフとワイバーンの死体が20体ほど転がっている。
俺はすでに出現した魔獣の七割近くを討伐していた。
その時だった。
上空から大型輸送機のエンジン音が響く。
見上げると、自衛隊の輸送機が空を横切っていた。
そして次々とパラシュートが開く。
「第一空挺団か。予定通りだな」
降下してくる隊員たちを見ながら呟く。
探知魔法で確認した限り、残る魔獣の大半は要石付近に集まっている。
「そろそろ決着をつけるか」
そう考えた瞬間だった。
背後から足音が聞こえた。
反射的に身体が動く。
振り返ると同時に魔力で剣を形成し、一気に間合いを詰める。
気づけば剣先は相手の首元に突きつけられていた。
「――っ!」
そこにいたのは魔獣ではなかった。
迷彩服に身を包んだ自衛官だった。
「す、すみません!」
俺は慌てて剣を下ろした。
「人違いをしてしまいました」
自衛官は一瞬驚いた表情を見せたものの、すぐに冷静さを取り戻した。
「呼びかけても反応がなかったため、確認に来ました」
そう言って軽く敬礼する。
「陸上自衛隊第一空挺団先遣隊指揮官、水上二等陸佐です」
二等陸佐――少佐ではなく佐官クラス。
現場指揮官としては納得できる階級だ。
「現在、この地域の住民救助および状況確認を行っています。危険ですので、安全な場所までご案内します」
俺は首を横に振った。
「大丈夫です。俺は黒瀬遥人といいます」
水上二等陸佐の表情が僅かに変わる。
「黒瀬……?」
「総理から協力許可を受けています。現在、魔獣の討伐を行っています」
「魔獣……?」
水上二等陸佐は困惑した顔を見せた。
「そのような報告は受けていませんが……」
「本部に確認してみてください。それと、できれば総理と通信を繋いでもらえますか」
「総理と……?」
さすがに予想外だったのだろう。
一瞬言葉を失った後、無線機に手を伸ばした。
「こちら水上。至急確認願います――」
周囲では降下した隊員たちが次々と展開を始めている。
俺はその様子を見ながら、要石の方向へ視線を向けた。
探知魔法に映る魔力反応は、今もなお増え続けていた。
おそらく要石からどんどん出てきているのだろう。それにしても要石って何だろう。調べてみないとな。
「確認が取れました」
水上二等陸佐が確認を終え話しかけてきた。
「黒瀬さんですね、今総理と通信がつながっています」
そういうと通信機を渡してきた。それを受け取り口のところまで上げる。
「黒瀬遥人です。聞こえますか?」
「天城だ。聞こえている。要件は何かね」
スピーカーから低い声が聞こえた。
「時間がないので手短に話します。魔獣たちは神社にある要石から湧いてきています。町にいた魔獣たちはほぼ討伐しましたので住民の避難が終わり次第神社を取り囲むように自衛隊の配置をお願いします」
「….了解した」
短い応答が終わった後、通信は切られた。通信機をそのまま水上二等陸佐に返す。
「通信機ありがとうございます。私はこれから行くところがあるのでこれで」
神社の方に行く道に方向転換をしたとき向かいの道路から魔獣の反応がでた。フォレストウルフだった。
「取り逃がしたやつか」
俺は急いで剣を鞘から抜き体に強化魔法をかけ百メートルほど離れていたフォレストウルフとの間合いを、わずか二歩で詰め首をはねる。
わずか二秒の出来事だった。
俺はそのまま神社へ向かった。
水上二等陸佐は呆然と立ち尽くしていた。
百メートル先の魔獣が一瞬で討伐された。
目で追うことすらできなかった。
隣の隊員も同じような表情をしている。
「……あの子はいったい何者だったんだ」
***
走りながら探知魔法を維持する。
「おかしい……」
魔獣たちは、つい先ほどまで町へ向かっていた。
だが今は違う。要石を中心に、まるで何かを守るように集まっている。
「何が起きている?」
嫌な予感が胸をよぎる。
強化魔法を維持したまま走り続けると、数分後には神社の入り口へ到着していた。
つい先日も訪れた神社だ。鳥居の両脇には木々が生い茂り、夕日に照らされた参道は不気味なほど静かだった。
太陽はすでに西へ傾き、神社の奥は深い影に覆われている。
「道が狭いな……」
周囲を見回す。参道でさっきのように魔法を使えば木々が燃えたり倒れたりしかねない。
「極力魔法は使わず、剣で戦うか」
そう呟き、さらに身体強化魔法を重ねる。
全身を巡る魔力が濃くなり、身体が羽のように軽くなる。
続いて光属性魔法を発動した。
掌の上に小さな光球が浮かび上がり、周囲を照らす。
しかし、それでも五メートル先は薄暗い。
光の届かない奥からは、不気味な気配だけが漂ってくる。
「……いるな」
探知魔法が捉えた反応は数十。
フォレストウルフだけではない。
何か別の反応も混じっていた。
遥人は静かに剣を握り直し、神社の奥へ足を踏み入れた。




