11.5話 整理
茨城での事件から、一日が過ぎた。
俺は自室のベッドに寝転びながら、ぼんやりと天井を見上げていた。
静かな部屋。
窓の外から聞こえる車の走行音だけが、ここが“いつもの日常”だと教えてくる。
「……これから、どうしようかな」
小さく呟く。
前世の記憶を思い出した。
――だからといって、自分が別人になったわけじゃない。
好きなものも、考え方も、今まで積み上げてきた記憶も変わっていない。
俺は黒瀬遥人だ。
……そのはずなのに。
「なんで、俺なんだろうな」
現実感がない。
まるで長い夢を見せられているような感覚だった。
いや、夢というより――
「麻薬の幻覚って言われた方が、まだ納得できるな……」
苦笑しながら呟く。
だが、現実は残酷なくらい鮮明だった。
ワイバーン。
魔法。
そして、自分自身が使った炎の魔法。
どれも夢では説明がつかない。
「……整理するか」
ゆっくり息を吐き、頭の中をまとめていく。
まず、前世の記憶について。
今思い出しているのは、“学園生活”に関する記憶がほとんどだ。
石造りの校舎。
魔法訓練。
貴族たちの冷たい視線。
そして――
「アティーナ……」
自然と、その名前が口から漏れる。
深青の長い髪。
いつも俺を助けてくれた少女。
記憶の中には、彼女と一緒にいる場面が異様に多かった。
逆に、それ以外の記憶はほとんど曖昧だ。
どんな幼少期を過ごしたのか。
両親はどんな人だったのか。
卒業後、何をしていたのか。
そもそも、あの世界がどんな国だったのかすら、はっきりしない。
「肝心なところだけ抜け落ちてるな……」
記憶はある。
だが、ところどころ穴が空いている。
まるで壊れたパズルみたいに。
そして何より、一番わからないのは――
「なんで今になって思い出した?」
もし本当に前世なら、なぜ“今”なのか。
飛竜が現れたタイミング。
要石の異変。
魔法の使用。
偶然にしては、出来すぎている。
「……いや、そもそも前世ってなんだよ」
思わず笑ってしまう。
つい数日前まで、俺は普通の大学生だったはずだ。
それなのに今は、
魔法だの転生だの、完全にラノベみたいな状況の真っ只中にいる。
「……笑えねえ」
天井を見つめながら、静かに呟いた。




