9話 避難所
僕らは近くの避難所になっている中学校にたどり着いた。
校門の前からすでに人で溢れており、体育館へ続く廊下には、身を寄せ合うように多くの人が座り込んでいる。
「……思ったより人が多いね。でも、そのわりに職員の数、少なくない?」
沙耶が周囲を見渡しながら小さく呟く。
「そりゃそうだろ……こんな原因不明の災害だ。誰も対応しきれてないんだよ」
悠太が低く答える。
「これ、もう警察とか消防のレベルじゃないよな……自衛隊が動くやつだろ、普通に」
俺も続けるように言った。
だが―おかしい
胸の奥に、引っかかるものがあった。
これだけの被害が出ているのに、誰も“あの怪物”の話をしていない。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
「……ねえ」
沙耶が俺の袖を引く。
「あそこで炊き出しやってるよ。行こ?お腹すいちゃった」
場の空気を振り払うように、明るい声を出す。
「あ、ああ……そうだな」
考えを一旦止め、二人と一緒に列へ向かった。
炊き出しの前には長い列ができていた。
子供から老人まで、疲れ切った顔で順番を待っている。包帯を巻いている人。
服に血がついたままの人。
そして――
「……お母さん、どこ……?」
小さな子供が、泣きながら誰かの名前を呼んでいた。
その声が、胸に突き刺さる。思考が一瞬、止まりかける。
「おい、大丈夫か?」
悠太の声で我に返った。
「……ああ、なんでもない」
***
炊き出しを食べ終えた俺たちは、体育館の隅に場所を確保した。
配られた毛布に身を包みながら、周囲を見渡す。夜はすでに深く、時計は0時を回っていた。体育館には、寝息と時折聞こえるうめき声だけが響いている。
4月とはいえ、夜はまだ冷える。
「とりあえず……今日はここで休むとして、どうやって帰るかだな」
悠太が小声で切り出した。
「親とは連絡取れた?」
沙耶が聞いてくる。
「ああ、一応な」
スマホの画面を見せる。
「最初は全然繋がらなかったけど……ここはまだ基地局が生きてるみたいだ」
「そっか……よかった」
沙耶がほっとしたように息を吐く。
だが悠太は眉をひそめたまま続けた。
「でも帰り方が問題だな。車はあの通りだし……電車も止まってる」
確かに、その通りだ。俺は少し考えてから口を開く。
「……さっき、避難してた人から聞いたんだけどな。隣町は被害が少ないらしい。電車も動いてるって」
「ほんと!?」
沙耶が顔を上げる。
「ああ。だから明日、そこまで歩いて――そこから帰る」
「それが一番現実的だな」
悠太も頷く。
「じゃあ、それで帰ろ!」
沙耶が少しだけ明るい表情を見せた。
その様子に、俺もわずかに安心する。胸の奥の違和感は、消えないままだった。
まるで――何かが、この避難所の外で、静かにこちらを待っているような。




