#3
極端な光が目に入り私は目を覚ました。窓の外を見ると、すでに全てが暗闇に覆われ、車のヘッドライトが流星の軌跡を生み出しながら過ぎてゆく。
暗闇というものが、これほどまでに濃紺であることを私は知らなかった。ところどころ照明に照らされ虫が動くのが見える。だが、そのほかは全くの闇。眠らない街や終わらない労働、輝きつづける光を放つ一方、止まれない緊張感が走る。眠る、休むという贅沢、共同体という安定の対価が朝と夜の境を無くす。この暗闇が心地よい。切り刻まれた時間なんて流れていない。地平があり、人が住むなど到底考えられない宇宙が広がっているのだ。
タクシーは通りを外れ、少し奥まった山道へと移動した。ライトに照らされた木々が目に入る。人工物では作り出せない密集、乱雑に思えながらも競争の果てに作り出された合理。圧迫感すら感じさせるこの生命力を自然は感じさせる。
漆黒の中に浮かぶ二つのガラス玉が見え、木々と共にその全容を見せた。身近にいるどの動物ともいえない、流線型の体。しかし、馬にも似たどっしりとした大腿、太く伸びる血管には猛々しさが浮き出ていた。生物でありながら、自動車にも引けを取らない、均質な肉体。轟音を撒き、揺れ動く鉄塊を意に解さぬ胆力。私の心臓はゆっくりとその鼓動を速め、野生との対峙に湧き上がる気持ちを抑えられずにいた。
命に解き放たれた獣が動いている。誰に飼われることもせず、生き抜いてきた魂がただそこにあるのだ。個としての奔放さ、しがらみに抱かれている私もこれを喰いたい。そう思った。
森の中をしばらく進むと一つの街灯が見えた。展望台にも似た駐車場からは、その下に広がる温泉街の光が川を挟んで暖かに広がっている。そのうちタクシーは止まり、私は温泉街へ着いた。




