第四話 私、友だちいないんです
魔法少女と闇魔法少女と言っても別にお互いに個人的な恨みや因縁があるわけでもないし、魔法少女側としては闇魔法少女の蛮行を止められればそれでもう目的は果たしていた。
もちろん鬱憤晴らしとかで戦っても構わないが、この二人は戦意控えめな魔法少女と闇魔法少女なのだ。
今回のシュバルシャーフの活動範囲内にはもう犠牲となる一般人はいないし、二人はもうお疲れと言い合って帰ってもよかった。
でもなんとなく帰り難く、ちょっと世間話をしてから帰るのが二人のいつものパターンになっていた。
闇魔法少女は定められたエリア、〇〇駅周辺とか、〇〇商店街とか、〇〇高校とかを指定して、一般人に襲いかかる。時間も定められていてきっかり一時間。
そのエリア内で過半数の人間を、自分の思う方法で辱められたら闇魔法少女の勝ち。そうなる前に一般人を逃がせたのなら魔法少女の勝ち。
それぞれの勝利条件さえ満たせたのならよくて、お互いを倒す必要はない。ただ、おじゃま虫を倒した方が圧倒的に勝利条件を満たしやすく、大抵の場合は戦うことになる。
それに相手を戦闘不能状態になるまで追い込んだ場合には特別なボーナスやポイントが得られるので、それ狙いで戦うことも少なくない。
そういう奇妙なルールで戦っている。
システムとしては先に闇魔法少女がアプリを通じて活動申請をして、それが受理されてから現地での活動に入る。さっきのシュバルシャーフみたいに、人々に恥ずかしい暴露をさせて辱めて人間関係を歪めさせたりとか、やめなよと言いたくなる所業を繰り広げている。
魔法少女側に依頼が届くのは、闇魔法少女が現地入りして活動を開始した瞬間。最もそのエリアの近くにいて、比較的暇をしている魔法少女に依頼が届く。
魔法少女は毎回アプリを通じて依頼を受けて出動する。
魔法少女はどうしても都合がつかない場合や、気が乗らないときには断ることができる。その場合には二番目、三番目に近い、あるいは暇そうな魔法少女に順番に依頼が届くようになっている。
魔法少女のメインの年代は十代なので、学校や習い事や塾などおろそかにできない私用が多い。それに配慮した形だ。
とは言え退職代行に依頼した大卒二十二歳、もう何も怖くない状態のピュアホワイトには届いた依頼を断る理由が何もない。悲しいくらいに、日々の予定がない。
せいぜいがハローなワークに通うくらいなものである。
「にしてもオマエの出動回数エゲツねえよな。ランキング見たらぶっちぎりのトップで引いたわ、二十二歳」
アプリには勝利条件を満たした回数とか相手を戦闘不能にした回数とかのランキングも掲載されており、ここ最近の魔法少女の出動回数ランキングはピュアホワイトが不動の一位に居座っている。
これまではけっこうな変動率だったものが固定されている前代未聞の状態に、魔法少女界隈はざわついていた。
例えるなら、いつネトゲにログインしても常にいる人がいるけど、あの人ってもしかして…、と思われているような状態だ。
「しょ、しょうがないじゃないですか。だって断る理由が何もないんだから。あと実年齢言わないでください」
運営側の配慮なのか、アプリ上でのピュアホワイトの年齢は十八歳になっている。魔法少女公式アプリに十八歳以上の魔法少女はいないのだ。魔法少女年齢が適応されるのだ。
ちなみに二十歳の大学生であるシュバルシャーフも二歳サバを読んで登録されている。なので公式上での二人はどちらも十八歳で同い年だ。
「そんなに暇なのかよオマエ。友だちと遊びに行ったりとかしねえのかよ」
「へぶぅ!」
シュバルシャーフの何気ないひとことに、ピュアホワイトはグサリと胸を貫かれて変な声を上げてゴホゴホと咳き込んだ。
「お、おい、ダイジョブかよ死にかけのブタみてえな声出して。飲みもんでも飲んで落ち着けよ」
「はい、ありがとうございますう」
自販機でそれぞれジュースを買い、自販機横にあった赤いベンチの端にシュバルシャーフが腰かけて、ピュアホワイトはでんとその隣に腰かけた。
距離を取れるように端っこに腰かけたのに、なぜわざわざ隣に。
まさかの友だち同士の距離感に、シュバルシャーフは顔に戦慄を浮かべたが、何も言わずにパコンとプルタブを開けてジュースを飲んだ。
「あれっ、開かない」
プルタブをカリカリしているピュアホワイトにイラついた様子のシュバルシャーフは無言のまま奪い取り、パコンと開けてあげた。
「んっ」
そして顔も見ないで、ちょっと怒ったような声を出してグイッと突き出した。ジブリの映画でこれとよく似たシーンを見たことある気がする。
「あっ、ありがと、シュバちゃん」
ニコリと笑いかけられてもシュバルシャーフは何の反応もしないで、自分のジュースをゴクリと飲んだ。ただその頬はほんのり赤く色づいていた。
それを見たピュアホワイトはふふっと微笑んでジュースをコクコクと飲んだ。いつも飲んでるジュースなのに、なんだか今日はやけに美味しい。
どこからともなく懐かしい感じのするチャイムの音が聞こえてきて、ふと空を見上げると夕陽が落ち始めていた。
茜色に染まりゆく空を見上げていると、ピュアホワイトの頭に幼い日のことが蘇ってきた。
みんなが仲良く遊んでいる公園。だけど自分はひとりぼっちでみんなを見ているだけ。
ブランコに座ると隣で漕いでいた子はどこかに行ってしまい、砂場に行くとお城を作っていた子たちからは砂を投げられて、ジャングルジムに登ろうとすると蹴落とされた。
潤んだ瞳で見上げた夕陽がどうしようもなくきれいで、口の中に入り込んでジャリジャリしていた砂を噛み締めてブッと勢いよく吐き出すと、涙がこぼれ落ちた。
今見上げている夕陽もあの日のようにきれいで、口の中に砂のジャリジャリした感じはしない。甘いジュースで満たされている。
それでいて、隣には一緒に夕陽を見上げる人がいる。
それだけでピュアホワイトは、自分は世界で一番幸せだと思えた。
「あのね、シュバちゃん」
呼びかけても反応はない。だけど聞いてくれている感じはする。
だからピュアホワイトは、勇気を出して告白した。
「私、友だちいないんです。いたことも、ないんです」
シュバルシャーフはちらりとピュアホワイトを見て、興味なさそうに夕陽を見上げた。
「だろうな」
その声はあまりにも素っ気なく、ピュアホワイトは意味もなくあははと乾いた声で笑った。
「ですよね。そうですよね。わかっちゃいますよね。私こんなだし。人との距離感とか、本音と建前とか、わからなくって。それでいつも失敗しちゃってたんですよね。変に馴れ馴れしかったりして、それで気がついたら友だちだと思ってた人に嫌われてるんです。ほんとダメだなあ、私」
早口で言うピュアホワイトはグスッと鼻をすすって涙目になっていた。
シュバルシャーフならバカにして笑い飛ばしてくれるんじゃないかなと思って言ったのを、素っ気なく返されて、自虐するしかなかった。
「あっ、もうこんな時間だ。私もう帰り」
涙目を見られたくなくって立ち上がったピュアホワイトの腕を、シュバルシャーフがパシッと掴んだ。そして恥ずかしそうに、目をそらしながら言った。
「わかるよ。ウチもその、トモダチとか、いねーし…」




