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二十二歳、限界魔法少女  作者: みそ
第一章 白黒つけない関係
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第三話 あんまり戦いたくないんです

 二人が動いたのはほぼ同時だった。

 ピュアホワイトは素早い動作で弦を引き絞る。するとどこからともなく光の粒子が集まり、粒子は光を纏った矢のような形となって弓に番えられた。そしてウィンドチャイムが鳴るようなきらびやかな音を鳴らして発射された。

 一方のシュバルシャーフは杖を構えてひと振りする。するとブウンとエンジンが震えるような重低音とともに漆黒の星星が杖から生み出され、流星のように尾を引いてピュアホワイトに襲いかかった。

 光の矢と黒星は二人の中間のあたりでぶつかり合うと白と黒がせめぎ合うように激しく火花を散らし、黒板をガラスで引っ掻いた音を何倍にも増幅したような凄まじい音とともに消滅し、先ほどとは比較にならないほどの量の煙がモクモクと立ち込めた。

 二人はあまりの轟音に耳を押さえ、立ち上る煙にむせている。


 攻撃魔法同士の衝突によって起こる対消滅現象。

 魔法にはそれぞれベクトルがあり、攻撃魔法は基本的に真っ直ぐ相手に向かって飛んでいく。相対するベクトルに向かって放たれた魔法は衝突すると、さっきのように火花を散らして凄まじく近所迷惑な音を立てる。

 例えるなら譲り合うことを知らないとびきり我の強い人たちが狭い通路で出会い、なんじゃわれえ!?どかんかい!そっちこそどけやボケえ!とケンカになるような感じで火花を散らし、激しくがなり合うようなものだ。なんともガラの悪い現象。

 両者の魔力が拮抗していた場合には今みたいに対消滅し、今日は見逃したるわ!こっちのセリフじゃ!と捨て台詞を残して去っていくような感じで煙を残して、大気へと分解されていく。煙はベクトルを失った魔力の残りカスみたいなもので、吸い込んだりしても特に害はない。

 

「ゲホゲホ!」


「ゴホゴホ!」


 害はないとは言え、魔力の対消滅によって生じた熱エネルギーの影響でちょっと焦げ臭く、あんまり吸い込みたいものでもない。


「おいこら!前の戦いのときにはオマエの攻撃魔法で終わりだったんだから、今日はウチの攻撃魔法からの番だろ!協定はどうした!」


 涙目になったシュバルシャーフがゲホゲホと咳き込みながら抗議する。


「でっ、でもでも私、登場とともにシュバちゃんの攻撃魔法を華麗なる防御魔法で捌いたじゃないですか!だから次は私の番のはずです!だから協定違反はシュバちゃんの方です!」


 言い返すピュアホワイトも同じく涙目でゴホゴホと咳き込んでいる。咳き込むたびに豊かな胸が震えた。

 二人が言っている協定というのは魔法少女と闇魔法少女の暗黙の了解みたいなもの。ざっくり言うとお互いアルバイトでやってるんだし、あんまりマジにならずにほどほどにやり合おうね。痛いのとかうるさいのとかやだし、みたいな内容のゆるい協定だ。

 破ったところで特にペナルティはないし、強制力もない。ただ仲間内や相手側からの評判が悪くなって、ちょっと仕事がしづらくなるくらいなものだ。

 

 ふたりが言い合っているのは攻撃の順番に関する協定で、攻撃魔法は交互に打ち合うようにすべし、というものだった。

 理由は単純。攻撃魔法同士が衝突すると、むちゃくちゃうるさくて不快だから。

 だからプロレスの技をしっかり受け合うように、相手が攻撃魔法を放った際には、受ける側は防御魔法で防ぐなり避けるなりしなければならない。登場とともにピュアホワイトが使ったピュアシールドは防御魔法で、そのベクトルは中心から放射状に外側に向かって広がり、魔力を分散させる形になっている。

 狭い通路をズンズン向かってくるならず者たちを、四方八方に受け流す感じで防ぐのが防御魔法だ。ぶつかり合わずに受け流すので、衝突による騒音は発生せずなんともスマート。


 噂によるとまだ協定のなかった数世代前には、攻撃魔法同士の衝突が引き起こす騒音によって鼓膜が破れて、耳から変な汁を垂らしながら戦い続けた猛者もいるらしい。

 でもすっかり根性論の廃れた昨今では誰もそんな目に遭いたくないから、魔法少女と闇魔法少女はけっこう真剣に守っている。魔法業界もコンプラ遵守の時代だ。

 

「あれはオマエに向かって撃った攻撃魔法じゃねえからノーカンだろ!そんなこともわかんねえのか!これだからオッパイにばっか栄養いってるノータリンはダメなんだよ!」


 と言ってる側から世間一般のコンプラから逸脱した発言がシュバルシャーフから飛び出した。彼女は闇側だから致し方ない。パンツ丸見えな格好からしてわかることだが、闇側に普通のコンプラを守る意識は希薄なのだ。


「いっ、いま胸は関係ないじゃないですか!」


 たわわな胸を杖の先端で指し示され、ピュアホワイトは顔を真っ赤にして両手で胸を押さえた。その際に手から離れた立派な弓は光の粒子になって消えていった。

 彼女にとってその豊かな胸は昔からコンプレックスだった。小学校高学年くらいから急成長し始め、男子には変な目で見られるし、動くたびに揺れて重くてすぐ肩は凝るし、可愛いブラを見つけてもサイズのせいで買えなかったり、ジャマでジャマでしょうがなかった。

 魔力で編まれて伸縮自在なはずの魔法少女の衣装に身を包んでも、なぜかやけに胸が強調されるデザインになっている。変な使い魔の趣味のせいで。

 

「ケッ、持つものにはわからねんだよ。持たざるものの惨めさがな」


 絶望するような深いため息をつき、シュバルシャーフは自分の胸を見下ろした。

 血が垂れているようなグラデーションの真っ赤なリボンを胸元につけて、ボリュームを出そうとしてもごまかせないほどの断崖絶壁を。

 

「ええー、動きやすそうで羨ましいです。私この胸のせいで、中学校でバスケ部入りたかったのに断念したんですからね。走り回って揺れるのがイヤだし、見ろよあいつ胸に二つもボール抱えてんぜ、ってはやし立てられるのもこわくって…」


「急になんの話だよ…」


 はあとため息をついて、シュバルシャーフも杖を放り投げた。杖は地面に落ちると同時に、影に飲み込まれるようにズブズブと沈んでいった。

 もう今日は二人とも戦うつもりはないらしい。

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