表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二十二歳、限界魔法少女  作者: みそ
第一章 白黒つけない関係
2/7

第二話 職場が限界なんです

 対峙する白と黒。正義と悪。魔法少女と闇魔法少女。

 二人の間に一触即発な気配はなく、ゴムが伸び切った靴下みたいに弛緩した雰囲気が漂っていた。ちなみにピュアホワイトの靴下は純白で、履き口にはショートケーキを思わせるフリルがふんだんにあしらわれている。


「魔法少女がイヤならなんて呼びゃあいいんだよ。魔女っつーのもなんか変だろ。魔女ってどっちかっつーと悪役っぽいし」


「それはだから、ピュアホワイトだけでいいじゃないですか。わざわざ魔法少女なんて呼称を付けなくても、ピュアちゃんとかホワイトちゃんって呼んでいいよって、この前言ったのに」


 ピュアホワイトはゴスロリをじっとりとした目で見つめた。


「なんで敵のオマエのことをちゃん付けで呼ばなきゃなんねーんだよ。ウチは馴れ合うつもりなんてねーぞ」


 ゴスロリはため息まじりに至極もっともなことを言った。魔法少女と闇魔法少女は戦う運命にあるのだ。そういうものなのだ。

 そういうものなのに、この二人はなぜかこうしてムダ話をすることが多い。


「でもでも、争うだけじゃ何も解決しないと思うんですよね。なんせこの世はラブアンドピースでできていますから」


 むんっと豊満な胸を張るピュアホワイトをゴスロリは氷点下の眼差しで見つめた。


「相変わらず脳みそお花畑牧場だな…」


「シュバちゃんひどい!そんな意地悪な言い方しなくたっていいじゃないですか!」


「やめろっつってんだろそのシュワちゃんみてーな呼び方!ウチの名前はシュバルシャーフだって何度言えばわかるんだ!」


 シュバルシャーフはドイツ語をもじって付けた名前で、黒い羊という意味を持つ。ゴスロリ本人が考えて、自分で付けた名前だ。繊細さと気高さを併せ持つ(と本人は思っている)美しい名前で、けっこう気に入っている。

 それを筋骨隆々な往年のハリウッドスターみたいに呼ばれるのはプライドが許さないようだった。

 しかしそういうものにはむとんちゃくで鈍感なピュアホワイトには通じない。鈍感と純粋さは常にセットなものだ。


「ええー、だってシュバルシャーフって可愛くないし言い難いんだもん。シュバちゃんの方が可愛いですよ」


 ピュアホワイトはプクッと膨れながら可愛らしく抗議した。大学を卒業して三か月あまり。二十二歳。社会人一年目の姿がこれだ。

 世にも珍しい四大卒魔法少女、ピュアホワイト。

 フリルマシマシの魔法少女の衣装に身を包んだこの姿を、親御さんが見たらなんと思うことだろう。


「べっ、別にカワイイと思って付けた名前じゃねえし!カッコよさ重視だし!」


「出た!ドイツ語使えば格好いいと思ってる人!シュバちゃんってたしか本業は大学生でしたよね!そういう感性は中二で卒業しないと駄目ですよ!」


「う、うるせー!窓際族の限界社会人のくせして説教すんな!なにブラック企業に入って新卒ドブに捨ててんだバーカ!」


 ピュアホワイトは新卒で入ったベンチャー企業で持ち前の純粋さと正義感という、雇う側にとって厄介極まりない自我を発揮してしていた。その結果、彼女のデスクは物理的に窓際に置かれて、なんの意味もない作業を毎日させられていた。

 風通しの良い何でも言い合える社風が自慢です!と社長は企業説明会で白い歯を見せて語っていたのに、あれはなんだったのか。タイムカードの誤魔化しとか未払の残業代についての話とかではなくて、社長にとって都合のいい話なら何でも言っていいよ、ということだったのだろうか。

 小うるさく小賢しいピュアホワイトは入社して一ヶ月で社長の不況を買い、村八分にされていた。


 離れ小島のように窓際にポツンと置かれたデスクでピュアホワイトは、コピー用紙の残り枚数を数えたり、シュレッダーにかける電気代節約だと言われてさして重要でもない書類をハサミで細かく切らされたり、拇印を真っ直ぐ正確に同じ圧で押せるようになるための練習などなど、本当になんの意味もない作業をさせられていた。

 そんなことをしているうちに日が傾いて、西陽が差してくるとピュアホワイトは切ない気持ちになった。物理的に窓際だから西陽が真っ直ぐに目に飛び込んできて眩しくて、それが切なさと侘びしさを倍増させた。

 同僚たちからの陰口も風通しのいい社風だからか、ピュアホワイトの耳にダイレクトに入ってきた。


『給料泥棒』『恥知らず』『乞食』『いるだけで邪魔なんだけど』『目障り、マジで消えてほしい』『プライドとかないのかな』『とっとと辞めちまえクズ』


 自分の存在意義を問い続ける毎日に限界を感じたピュアホワイトはついこの間、退職代行に依頼したところだった。もう会社には行っておらず、首の皮一枚でギリギリ社会人と言った状態だったが、それをまだシュバルシャーフには伝えていない。

 だって言ったら、社会人マウントを取れなくなってしまうから。


「そ、それは言わない約束でしょう!?リアルのことを持ち出すのは魔法少女的にルール違反だと思います!特定される心配がないとは言え駄目です!」


 魔法少女と闇魔法少女には見るものの認知を歪める魔法が常にかかっているので、日常の姿と結びつく心配はない。その安心感ゆえにか、二人はリアルのことをそれなりに話していた。

 主にピュアホワイトのペースにシュバルシャーフが乗せられる形で、会うたびに日常の愚痴とかをこぼし合っていた。


「先にリアルのことを持ち出したのはそっちじゃねえかよ!だいたい二十二歳って魔法少女も闇も上限の年齢だろ!それでよく応募したもんだよな!この恥知らずが!」


「だ、だってしょうがないですか!冗談半分で応募してみたらスマホが光って変なのが召喚されてきて、その場の流れで採用されちゃったんだもん!」


 会社を辞めるにしても次が決まってないと怖くて辞められないし、と思ったピュアホワイトは学生時代に使っていたバイト斡旋アプリで『君も魔法少女になろう!』という怪しさが限界突破している募集ページを見て、その場のノリと勢いで応募していた。

 募集文は意外としっかりしていたし、時給も福利厚生もバイトにしては高待遇だったから。

 十二歳〜二十二歳という厳しい年齢制限はあったものの、まだギリギリ二十二歳だしいいかなと思いポチった。するとスマホが光り、名状しがたい形状をした使い魔的なものが召喚されてきて、魔法少女になる契約を交わしたのだった。

 その結果、それなりに楽しい今がある。


「ケッ!よく言うぜ!初めて会ったときはこっ恥ずかしい前口上叩いてノリノリだったくせによ!」


 まだ新鮮な黒歴史を思い出してピュアホワイトの顔が真っ赤に染まった。


『愛と正義の純白魔法少女ピュアホワイト!かわいくビシッと参上!』


 と横ピースまでしてかなりノリノリで名乗っており、その様子を撮影した動画がSNSに上げられてちょっとバズっていた。

 ピュアホワイトには人前ではっちゃけるなんてことをした経験がなかったので、ついハイテンションになってしまったのだった。いわゆる魔法少女ハイという現象だ。


「あっ、あれは、雇用主にそうしろって言われたからそうしただけです!そうした方が魔力も上がるからって虚偽を教えられてたんです!」


 とは言え素直に言うのは恥ずかしくて誤魔化した。


「ウソつけ!あんなノリノリで横ピースできんのは米津◯師かオマエくらいなもんだ!」


 ガミガミとしょーもない言い争いを繰り広げる二人の背後で、かんながゆかりを助け起こして二人で手を取り合って逃げ出した。握り合った手の温かさにちいさな恋が芽生えたが、それはまた別の話。

 今はこのしょうもない二人に注目しよう。


「あっ!いつの間にかエモノが逃げちまってるじゃねえか!オマエと言い争ってたせいで!」


「ふっ、フフン!私の作戦勝ちです!」


「ウソこけ!言い負かされて涙目になってたくせに!」


 ピュアホワイトは口ゲンカがすこぶる弱い。たぶんそこらの小中学生を相手に本気で言い合っても負ける。


「なっ、なってません!仮になってたとしても、それはあなたの目を釘付けにするためのウソ泣きですう!」


「ああそうかよ!それなら本気で泣かせてやらあ!」


 シュバルシャーフの目の色が変わり、杖を構えると暗黒のオーラが全身から立ち昇った。

 一般人にイタズラをするのとはまるで違う、対魔法少女戦用の本気モード。

 相対するピュアホワイトもキリッと顔を引き締めて、何もない空間に手をかざした。かざした先の空間に白い穴が出現し、そこに手を突っ込むと獲物を引きずり出した。


 三日月のような弧を描くステッキ。

 大理石に似た滑らかな白さで、花と蔓を模した流麗な彫刻が施されている。芸術品と言っても通用しそうな見た目だ。

 泣き腫らした目をゴシゴシと拭いステッキの真ん中のあたり、弧の頂点を持って胸の前で構えると、キィンと銀のグラスを弾いたような澄んだ音色が響き渡った。すると澄んだ音色とともに、弧の先端同士を結ぶ糸がピンと張られた。エメラルドの糸を束ねたような翠の弦。

 ピュアホワイトの獲物は美しい弓だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ