第三十七話 熱血魔法少女グラップレッド!
「バカな!?追い詰められて魔法少女に覚醒するなんて、そんな奇跡みてえなことがあんのかよ!?」
シュバルシャーフは驚愕の声を上げつつ、キラキラと輝く光に包まれて宙に浮くかんなにスマホを向けた。もちろん録画をするために。謎の声とのやり取りはもう完全に聞こえなかったスタンスだ。
変身中を狙って攻撃するとか、そういう姑息な手は使わないらしい。その辺の作法はしっかりわきまえている。
ゆかりもハッとしてスマホを取り出して録画を開始する。
だってそんな、親友の初変身なんて一生に一度見られるかどうかの貴重映像だし、これを録画しないでいったいなんのためのスマホか。
逃げ遅れた人たちもこれ幸いにとスマホを構えている。いわゆる火事場スマホだ。
「ちょ、ちょっと待って!?なんでみんなアタシを撮ろうとしてんの!?恥ずかしいからやめてよ!」
スマホを向けられたかんなは涙目になって体を手で隠した。
勇ましい叫びから一転し、恥じらいを見せるかんなにゆかりはキュンとした。ギャップ萌えだ。
かんなが恥じらうのもムリはない。
魔法少女の変身中は通常の衣服は全て取り払われ、魔法少女の衣装を構築するために謎の光で体を覆われた状態になっているのだから。
通常の衣服を着たままの状態だと、魔法の衣装が上手く身体に馴染まず防御効果を発揮できないから仕方のない措置である。ちなみに着ていた衣服は変身を解くと同時に魔法空間から戻ってくる。
それはともかく、今のかんなは体のラインがまるわかりな状態。引き締まったウエストに、形のいいお椀型の胸やほどよく筋肉のついたおしりの張りまで、まるわかりな状態で宙に浮いている。見えてはならない部分の光は厚めになっているものの、それでも相当に恥ずかしい。
「あっはっはっはっ!今のオメー我以上に痴女だぞ!全身光ってゲーミング痴女だな!」
「コロス!アンタは後で絶対にコロス!」
ゲラゲラ笑うシュバルシャーフに指を突きつけている間にも、衣装の構築は着々と進んでいる。
かんなが脳内で思い描いた衣装が魔法の力で形になってゆく。
モチーフにしたものはかんなが大好きな女子プロレス。ロリータ風のコスチュームで人気を博している、フェニックス麻希という推しの選手のもの。
上半身を覆う光はノースリーブでへそ出しの赤いセーラー服になり、白襟の下で結ばれた黄色いスカーフが闇堕ち度を示すアクセサリーになっている。セーラー服にはサテン生地っぽいなめらかな光沢があり、触り心地が良さそうだなとゆかりは手をわきわきさせた。
華奢な肩と筋肉質な二の腕は剥き出しで、前腕はラメを散りばめたようにキラキラ光る赤いアームカバーで覆われた。袖口にあしらわれた白いレースにゆかりはうなずく。
腰から太ももあたりに集まった光は燃え盛る炎のような模様の描かれたスパッツとなり、それをセーラー服と同じ材質のミニスカートが覆っていった。プリーツのついたスカートの裾はレイヤーになっていて、赤い生地の下に白い生地が重ねられている。隙を生じぬかわいさの二段構え。スパッツの丈はスカート丈よりも少し短いのがゆかり的には高ポイント。チラ見えするスパッツ、萌える。
足にはロングの編み上げブーツを履き、右が赤、左が黒のアシメになっている。履き口を覆うレースが可憐で、ゆかりは率直に言って踏まれたいと思った。
胸の前で力強く握りしめた拳を打ち付けると、集まっていた光が闘争心を滾らせるように燃え上がり、メラメラと揺らめく真っ赤な炎を纏う指ぬきグローブに変化し、かんなは名乗りを上げた。
「滾る闘魂!燃やせ命!熱血魔法少女グラップレッド!見参!」
ファイティングポーズをとっての堂々たる名乗り。思い返して恥ずかしくなる日はそう遠くないはず。
「ああ、かんな、いや、グラップレッド…なんて勇ましいのでしょう…」
親友の変身と堂々たる名乗りにゆかりはすっかりメロメロになっている。しかし撮影した動画を念のためクラウドに保存しておくことは忘れない。
興奮しながらもゆかりはしたたかだった。
「今までにいなかったタイプの魔法少女だな。へっ、萌えるぜ…」
シュバルシャーフはその瞳をいたいけな少女のようにキラキラと輝かせている。しかし撮影した動画は『新しい魔法少女キターーー!!』という文言とともに素早くSNSに上げていた。
多くのイイネが欲しいお年頃の闇魔法少女、シュバルシャーフ。
「先手必勝!いくぞっ!」
スマホを魔法空間にしまった矢先のシュバルシャーフに、グラップレッドは火の粉を巻き上げながら地面を蹴り、矢のような勢いで突っ込んでいく。
グラップレッドが蹴った床はクレーター状にヘコんでひび割れ、ゆらゆらと陽炎が揺らめいている。風が唸りを上げて、同人誌がバサバサと宙に巻き上がるほどの凄まじい突進力。
「へっ?」
ぽかんとするシュバルシャーフに向かって突き出される渾身の正拳突き。
「チェストぉ!」
小学生のころから空手を習い黒帯のグラップレッドの拳に、魔法による超加速が加わりその破壊力は牛一頭をミンチに変えてもありあまるほどだ。
「うおおおぉぉぉ!?待てよおめえ!あぶねえだろ!」
まさかの攻撃にパニックになりながらも、シュバルシャーフは咄嗟に防御魔法を展開して拳を防いでいた。さすがベテラン、判断が早い。
花火のように色とりどりの光が拳と防御魔法の間で炸裂し、耳をつんざく音が周囲に響き渡る。
「ジャマだあああぁぁぁ!」
グラップレッドの気迫とともにグローブの炎がひときわ強く燃え上がり、防御魔法はピシピシとひび割れ、ガラスが割れるような音を立てて砕け散った。
「待て待て!暴力反対!」
鉄拳制裁を受けたシュバルシャーフは長机を巻き込みながら派手に吹っ飛び、車の衝突事故のような轟音を立てて壁に激突した。
「シャーフねえさまぁ!?」
「やったか!?」
ゆかりとグラップレッドの声が重なり、モクモクと煙を上げる激突地点に視線が集まった。
煙が晴れたそこにシュバルシャーフの姿は、影も形もない。
「消えた!?」
壁には激突の衝撃を物語るへこみが残るのみで、パラパラとコンクリート片が崩れ落ちている。
「ヤッてくれんじゃねえかよ、新人ちゃんよお。ちょっと遊んでやろうと思ってたけど気が変わったぜ。乱暴なヤツにはオシオキが必要だなあ」
シュバルシャーフの声が聞こえてくるものの姿は見えない。上かと思って見上げても天井と照明が見えるばかり。周囲には描写に困る内容の同人誌がページを開かれた状態で散らばり、ゆかりはなんとなく恥ずかしくなって頬を赤らめた。
「どこ見てんだ、そんなとこにうちはいないぜ」
「クソ、出てこい卑怯者!」
「出てこいと言われて素直に出てくるバカがいるかよ」
まるで地の底から響いてくるかのような声にハッとし、ゆかりはグラップレッドの足元に目を落とした。
「へえ、ちったあ勘の働くヤツもいやがんなあ」
グラップレッドの足元の影が不自然な形に歪んでいる。まるでシュバルシャーフを影絵にしたような形に。
「グラップレッド、足元、影ですわ!」
「なに…!?」
咄嗟に影から離れようと飛び退るグラップレッド。しかし影はピタリと張り付いて離れず、逃れることができない。
「気がついたところで遅いぜえ!這い寄る影!」
影から飛び出してきた漆黒の旋風が、グラップレッドの体を巻き上げた。




