第二十三話 わたくしはどっちも大好きなんですから
励ます言葉に、ヴィーナスゴールドは自嘲するような笑みを浮かべてうつむく。
「確かに三万人はじゅうぶん成功と言えるラインだとは思う。でもね、チックタックで見せてるわたしは、本当のわたしとは程遠い。いつも笑顔で明るくて、なんの悩みもないバカみたいなキャラを演じて、ただみんなに好かれたいだけ。きっとみんな、ワガママで気分屋で口も性格も悪い本当のわたしを見たら幻滅する。あんなのはただの、ネット上だけに存在する偶像よ」
「それのなにがダメなんですか?」
飾り気のない、素のままのリーリエの真っ直ぐな声に、ヴィーナスゴールドが顔を上げた。
「だってそんなの、当たり前じゃないですか。自分の良いところだけを、かわいいところだけを見せたい。みんなに好かれたくて打算的な行動をするって、誰でも多かれ少なかれしていることじゃないですか」
ピュアホワイトがわかるわかると言うようにうなずいている。
「ヴィーナスねえさまの中にあるそういう部分を突き詰めて生まれたのがミカミカサマーちゃんなんですから、それもまたヴィーナスねえさまの一部なんです。たとえ演じていてるのだとしても、その人自身にそういう部分がなければ、たぶんウソ臭くて好かれないです。だからそんな、悲しいこと言わないでください。ヴィーナスねえさまもミカミカサマーちゃんも、わたくしはどっちも大好きなんですから」
「リーリエ…」
花が咲いたように微笑むリーリエに、ヴィーナスゴールドは目を見開いて胸を押さえた。
甘く疼く胸は、甘いひみつ(スイートスポット)の余韻だろうか。
「リーリエちゃんの言うとおりだと思います。私も一時期みんなから好かれようとして、自分の思う明るくて愛されそうなキャラを演じてみましたが、見事にドン引きされて遠巻きにされちゃいましたから。だから演技だとしても、みんなから好かれることができるビーナスちゃんはすごいです」
「そうだな。そういう演技ができるってのもひとつの才能ってやつかもな。人に好かれる才能、だな」
シュバルシャーフはそう言いながら、ちょっとさみしそうな顔をしたのがピュアホワイトは気にかかった。
「ありがとう、みんな。そう言ってくれてなんだか、これまでの努力が報われたような気分だわ。そっか、ミカミカサマーもわたしで、いいのね…」
そっと目元を拭うヴィーナスゴールドに、リーリエとピュアホワイトは笑顔を返し、シュバルシャーフはふんとそっぽを向く。
その反応にいつものシュバちゃんだとちょっと安心する。
「そうですわ!それもヴィーナスねえさまの持つ顔のひとつですわ!」
急にアニメ声を作るリーリエに、三人は唖然としてぷっと吹き出した。
「おまえは何個も顔がありそうだけどな」
「もう、シャーフねえさまったら、ひどいですわ」
シュバルシャーフのツッコミにリーリエがむくれて、今度は全員が笑った。
魔法少女と闇魔法少女という立場も忘れて、(公式アプリ的には)ただの十代の少女たちとして笑いあった。
そんな大団円と言えるほど和やかになった空気に重ねられる、無機質な声。
「なんだかいい雰囲気になっているところ悪いけど、ここでタイムアップだよ」
「お疲れ様でした、みなさん」
何もなかった空間に突如出現した二匹の使い魔。
ピュアホワイトの使い魔、黒い羊のぬいぐるみのような姿をしたブラン。
そしてもう一匹。青いジャケットを羽織り、首に懐中時計をぶら下げた白いうさぎのぬいぐるみのような姿の使い魔。
「なんだよ、いきなり現れるんじゃねえよノワール。びっくりすんだろ」
ノワールと呼ばれたうさぎの使い魔は、シュバルシャーフを向いて一礼した。
「ワタシも現れたくはなかったのですがね、タイムアップになってしまったので致し方ありません」
なんとも慇懃無礼な感じのする使い魔だ。
「そうそう、まさかタイムアップになるまでのんびりまったりしちゃうなんてねえ。今回のタッグマッチでは初めてのことだよ」
皮肉めいた口調が板についたブランといい、使い魔は小憎らしい性格にする決まりでもあるのだろうか。
「タッグマッチバトル最終日に初めてということは、私たちが最初で最後になる可能性が高いですね」
「そうだねピュアホワイト。でも別に胸を張るようなことじゃないからね」
「うっ…」
釘を刺されてしゅんとうなだれるピュアホワイトを横目に見ながら、ヴィーナスゴールドがブランに尋ねる。
「それで、今回の結果はどうなの?まあ聞くまでもなく、わたしたちの負けでしょうけど」
「そうそう、それなんだけどね。朗報だよ」
「今回は特別措置ということで、両陣営を勝利ということにさせていただきます」
「うおっしゃあ!三倍報酬!」
いろいろ台無しにしてしまった罪悪感に滅多打ちにされていたピュアホワイトが雄々しい声を上げて、万馬券を手にしたようなガッツポーズをかました。
拳が空を切る音まで聞こえる、十年に一度の渾身のガッツポーズだ。
「みんなハッピーですわね、ホワイトねえさま!」
手を取り合ってピョンピョンと飛び跳ねるピュアホワイトとリーリエの横で、シュバルシャーフとヴィーナスゴールドは眉をひそめている。
「特別措置、ねえ」
「どういう風の吹き回し。いつもケチなあなたたちらしくないじゃない」
「そんな怖い顔しないでよ、ヴィーナスゴールド。それだけ収穫のある勝負だった、ってことさ」
「ブラン、余計なことは言わないように。あなたは口が軽いのですから」
「おっと、ごめんごめん。まあとにかく、報酬は振り込んだから確認しといてね。それじゃまたねえん」
「失礼いたします」
会話を一方的に断ち切るように、二匹の使い魔は現れたときと同じ唐突さで空気に溶けるように消え去った。
「なあ金ピカ、収穫ってなんだと思う?」
「さあ、あいつらは謎すぎて見当もつかないわね」
肩をすくめる二人の横で、自責の念から解放されてハイテンションになったピュアホワイトはリーリエを抱き上げてくるくると回っていた。
「ほーらリーリエちゃん!メリーゴーラウンドですよお!」
「わあー!目が回ってしまいますわホワイトねえさま!」
しばらく冷めた目で見ていると徐々に速度が低下してゆき、完全に停止すると二人はよたよたと崩れて床に四つん這いになった。
「うえっ…ガトーショコラが戻ってきそう…」
「うぷ…ブ…ブラウニーですわ…おねえさま…」
「ご…ごめんなさい…ブラウニーが…戻ってきそう…」
リバースしそうなときにも律儀に訂正するリーリエ・ショコラーデと、生真面目に言い直すピュアホワイト。
そんな二人にため息をつきつつ、しっかり介抱してあげるシュバルシャーフとヴィーナスゴールドだった。




