気付いた時にはヤバい目に逢っているなんてことは万国共通なわけですが、さすがにこれは
「んじゃ、お茶でもしよっか?」
なんか、相手のペースに乗せられている気もするけど、とりあえず出方を見よう。
普通にお茶するんなら他に人もいるだろうし、もし、怪しいところに連れて行かれそうになったら逃げりゃいいんだわ。
・・・で、なんで漫画喫茶なんだよ?
しかもカップルシートってのは。
「てか、あの、なんで漫画喫茶なんですか?」
ここはきっちり突っ込まねば。
一応、年上だから丁寧語だ。
「う~ん。
だって、僕らみたいな趣味の話って中々大っぴらに出来ないじゃん?
それとも、僕と一緒じゃ嫌・・・かな?」
そういう涙潤ませるの無しで。
返事が返せないじゃん。
「んじゃ、僕、ジュース持って来るね。
メロンソーダでいいかな?」
って、コイツ、俺の返事は聞いちゃいねぇよ?
どんだけマイペースなんだ。
顔が可愛いから許すとして、人間として間違ってるぞ。
きっとお坊ちゃんだから甘やかされて育ったんじゃないか?
「はい。お待たせ。
んじゃ、もっと君の事知りたいな。
身長とかいくらぐらいなの?」
すんません、なんか近いんですけど・・・。
その距離感おかしくないか。
あなた様の髪の毛あたりから非常にいい匂いがしてくるんですが。
多分、ディオールですね、それ。
「え、あ、165です。」
あー、俺は本当に中途半端な身長だな、おい。
あと10cmは欲しいですぜ。
コイツなんか、可愛い顔してるくせに175はありそうだし、世の中間違ってやがるぜ。
「って、距離、近く・・ない?」
ここはちゃんと俺も突っ込まねばな。
お坊ちゃんは普段は甘やかされているせいで、他人との距離感覚が常軌を逸してるのかもしれんし。
「あ?そう?
僕は身長175ぐらいかな。
調度10cmぐらいの差だね。
名前聞いていい?」
コイツ、人の話をはなっから聞いてねェな。
また近づいるし。
「俺は、れ、れおな、ですけど・・・」
緊張しているのか、嘘がつけない。
洋でも洋一でも直也でも高志でも適当な名前を言えばよかったのに。
わざわざ、おふくろさんとお父さんががノーベル賞取った学者にあやかってつけてくれた俺の大事な名前を言ってしまうなんて。
馬鹿か俺は。
「そうなんだぁ、可愛い名前だね
僕は、ゆうきだよ。
よろしくね?」
『ん!?』
って、いきなりソレか。
何が起きたんだ、俺、ってか、何をしやがるんだお前!
コイツいきなり俺にキスをしてきやがった。
いや、多分、別に嫌じゃないけど、長期的に見ればの話で。
これが俺の生まれてはじめてのキスだったんだぞ。
・・・あの~、何でそんなに何の抵抗も無いんだ、こいつは?
無理矢理キスをしてきたってのに「へへぇ~」などと言って笑ってやがる。
「おっぉぉっぉっ」
妙な声が俺から出る。
恐らく恐怖を前にしたときに自然と出る断末魔の叫びに近いものだ。
まるで貞子か伽耶子に会ったときの役者のように俺は後ずさりする。
しかし、カップルシートの席は狭くてすぐに行き止まりになる。
しかも出口は奴の長い足が塞いでやがる。
「・・・俺じゃ駄目かな?」
なんか、さりげなく一人称変わってますよ、旦那。
てか、嫌とかそういうわけじゃなく・・・。
ん、もしかして、俺が襲われてんじゃないの?
この状況は・・。
いや、待て、俺は確かに身長は低いけど低すぎるって方でもない。
どっちかというと俺は上の方が良いわけで、痛いのは嫌だ。
そりゃそうだろ常識的に考えて。
って、おい、再び来たぜこの野郎。
「ひゃ」
いつの間にか首筋にそいつの舌が這ってやがる。
まるでなんか触手系のエロアニメだ。
てか、淫獣大決戦とか言ってる場合じゃねぇ、やばいぞこの舌、やばいってば。
生まれて初めての貞操のピンチだわ、お母さん。
しかも俺、「ひゃ」なんてそこらの女も言わない台詞を口にしちまうし・・・。
「可愛いよね、俺、ちょっと本気になりそう」
なんなくていいってば、お兄さん、ちょっと止めろ。
ほら、果汁0%のメロンソーダでも飲んで落ち着こうよ。
君は輝かしい将来をたった一度の過ちで棒に振ろうとしてるんだぞ?




