婚約者は、仕上がりすぎてて、不器用な?騎士様。
「あの、もう一回聞いても?」
「だから、お前の婚約が決まったのだ。喜べフィリア」
「ちょっと待って……」
「どうした? もう少し喜んで貰えるかと思ったのだが」
おかしな話だ。
突然ユリウスが現れたかと思えば、リオンの命は救われ、そして今度は婚約だ。
リオンの命が助かったのはよかった。この世界は決まり切った運命を歩むわけじゃない。
しかし、それ以外も全てゲーム通りではないというのなら、この先、何が起こっても不思議ではない。
少なくともユリウスたちと冒険に出るところまでは筋書き通りかと思っていたので、このままでは聖女としての修行は無駄だったことになる。
というか、私が行かなくても魔王が倒されるのなら、べつにそれでもいい。しかし、私が行かなかったせいで、世界が滅ぶ可能性だってある。そんなのは困る。
だから力をつけて、魔王が倒れるその時を、そばで見届けるつもりでいた。
「私は一体どうしたらいいの……それで、お相手は?」
「ああ、この間クラブで意気投合してな。爵位は近いが武勇で有名で、王家と親しい名家でもある。伯爵だけでなく、息子たちもみな王家の騎士と任ぜられているそうだ。ええと、ベルグ家だよ」
「ベルグ家? ベルグ家の誰?」
「ディルック・ベルグ……だったかな。お前の三つ上だそうだ」
「ディルーグ!」
「ディルーグ、そうだ。何だ知っているんじゃないか。だったら話は早いな!」
またややこしい話になった。ディルーグもまた、ユリウスとともに旅立つ、いわゆる初期メンバーの一人だ。
そのディルーグと私が、一体何のめぐり合わせか、父親同士の話し合いで婚約を取り付けられたらしい。
「彼を訪ねてもよろしいですか? お父様」
「いや、まあ、二年もすればあちらから求婚にやってくるのではないか?」
「そんなに長く待っていられません」
「ああフィリア……お前はまだ迷っているのだろう? お前には確かに、類まれなる聖力がある。しかしだからといって、少人数の魔王討伐になんて加わる必要はないのだ。あんなのは王家の余興と言う者も多いぞ? 結婚して、安全に暮らしてくれれば、それでよいではないか」
「確かに、迷ってるけど。でも、それを決めるのは私です! お父様が勝手に決めないで」
「ふむ……それは、そうだが……」
「いい? まだ迷っている私は、聖女になった時を見越して、何人か仲間の選定をしに行くの。その中の一人にディルーグがいたって、そういうことにして!」
社交のことを考えれば、婚約を決められた女性が、自ら男性を訪ねるというのは妙な話だ。
しかし、魔王の脅威に晒されている今、皆貴族の爵位と、戦う上での身分をそれぞれ持っている。
私の場合は聖女……候補だけど、そしてディルーグの場合は王家の騎士だ。
「そこまで言うのなら……うむ、わかった。ご挨拶に伺う旨、手紙をしたためよう。だが、くれぐれも失礼が無いようにするのだぞ」
それから数日後、私は約束を取り付けたディルーグの家へ、使用人とともに乗り込んだ。
装いも聖女らしい白を基調とした動きやすいドレスで、杖も手にしている。
両親はにこやかに出迎えたが、その場にディルーグの姿はなかった。
なぜ……?
親が勝手に決めたとはいえ、曲がりなりにも婚約者よね?
ちょっと失礼なんじゃない?
ディルーグご両親はというと、聖女の話にかこつけて、私が一度ディルーグに会いたくて仕方なくなったのだろうと思っているらしく、ずっとにまにまとした笑みを浮かべていた。
いや、実際そうだけど、そうじゃないんだってば!
「そろそろ来るから準備しろと言ったのだが、あやつ、少しの時間も惜しいといって修練に打ち込んでいましてな。なに、悪気はないのです。そう教育してきましたからな!」
「まあ、あなたったら!」
ベルグ伯爵は腕を上げて力こぶを作った。うん……悪い人じゃないのはわかるんだけど。
しかし、聖女として訪問したいと言ったのは私の方だ。だとすれば、ご丁寧にお迎えいただくよりも、修練している姿を見せた方が自然ともいえるかもしれない。
そういうことなら、私だってそれに合わせるだけだ。
「ではさっそく、見学させていただけますでしょうか?」
私は使用人に案内され、庭の奥にある修練場へと向かった。
屋外で、壁はなく屋根だけが設置されていて、その下に土が敷かれている。
一段上の柵のそばから、修練場を見下ろすと、三人の男たちが木の剣と盾を構えて、訓練をしていた。
ディルーグは、えーと……
……どれ? 私の知ってるディルーグが、いないんだけど。
短い銀髪に、太めの眉、浅黒い肌の……
私には一瞬、わからなかった。しかし、中央にいるかなり筋肉質な男しか、特徴が一致しない。
どうやら彼がディルーグらしい。
いや、待った。どう見ても、私の知っているディルーグより……仕上がっている。
ユリウスの時と同じだ。
本来、出会った時の彼らはどこか若々しくて未熟で、身体も戦う技術も未完成なのだ。そして冒険を通して、少しずつ成長していく……
それがRPGとか、ゲームの醍醐味よね。違う!?
なのにディルーグは既に歴戦の戦士みたいな体つきをしていて、顔つきに少し幼さこそ残るものの、腕も胸板もインナーが引っ張られる程、分厚い。
あんなたくましい腕で抱かれたら……きっと、きっと私……
……致命傷は免れないわ。
「でやぁぁあ!」
二人の剣士がディルーグに斬りかかる。ディルーグは盾でそれを受け止め、力任せに押し返した。
一人が倒れ、もう一人は素早く回り込んで斬りかかる。しかし、ディルーグはそれを見越してそちらに剣を振り、不安定な体勢でそれを受けた剣士は転んでしまった。
強い。二人相手に、あんなに余裕で……
と、思っていたら、私と同じように修練場の上段から見守っていた二人の男が、それぞれ反対側から、突然、弓を構えた。
「危ない!」
まさか、刺客!? なんて卑怯な!
しかし、ディルーグは素早く身体を回転させて、斜め前後から飛んできた矢を剣と盾で叩き落とした。
まるで、身体の後ろにも目がついているみたい。
床に落ちた矢の先は平たく加工されていて、刺さらないようになっていた。
あぁ……あの矢、訓練用だ。勝手に驚いて叫んでしまった。恥ずかしい……
「何奴だ!」
その時、ディルーグは剣の切っ先を、私の方へ向け、叫んだ。
鷹のように鋭い眼光で、思わず身体がびくっとなった。
……が、次の瞬間、今度はディルーグの方が目を見開いてびくっと肩を震わせ、剣を取り落した。
ええ? 視覚から矢を放たれても怯まなかったのに、どうして私を見てそんなに隙だらけになるわけ?
「あの、私は」
「フィリア……!」
ディルーグは私を見ると……
……逃げた。




