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第7話 変態メイド躊躇

「父上、そんな……模擬戦だなんて!

 そのような事をする必要があるのでしょうか?」


ライルお坊ちゃまが、椅子から身を乗り出すようにして異議を申し立てた。

声は震えているが、真っ直ぐだった。


ケイン様は腕を組み、ゆっくりと息を吐く。


「ライルの護衛を務めさせるのだ。

 ある程度の力量〈常識〉は見極めねばならぬ」


その言い方に──

力量以外の“何か”が含まれていた気がする。


(……今、別の意図が混ざりましたね)


「……お見舞い、か。舐められたものだな」


クリフが低く呟く。

だが、その目には意地が宿っていた。


「まあよい。騎士団の鍛錬場に向かうぞ」


そう言って立ち上がると、

ケイン様とライルお坊ちゃまへ向き直る。


「お二人は巻き込まれて怪我をされぬよう、

 十分に距離を取ってご観戦ください」


ケイン様が軽く頷き、

ライルお坊ちゃまは不安そうに唇を噛んだ。


アルベール様が案内役として歩き出す。

俺はその背に静かについていく。


廊下を進む間、

視界に入る構造物・扉・動線を順に読み取り、

ついでに屋敷内部のマッピングを済ませていく。


(……訓練場までの最短ルート、避難経路、死角。

 すべて把握しました)


足音だけが静かに響く中、

鍛錬場へ向かう空気は、少しずつ張りつめていった。


鍛錬場に着くと、アルベール様が言った。


「準備をしてくる。ここで待っておれ」


装備を整えに行ったのだろう。


その背を見送りながら、

俺は──どうやってアルベール様を怪我させずに制圧するか、

静かに検討を始めた。


---


【武装その1】20mm対物質電磁機関砲アポカリプス・バルカン

・メイド服の袖口やスカートから展開されるレールガン式バルカン

・中世レベルの城壁や砦、大軍を一瞬で塵にする弾幕


結果……アルベール様が塵になる。

駄目ですね?


---


【武装その2】高周波分子崩壊剣クラウ・ソラス・ブレード

・細身のエルフレイピア

・触れた物質の分子結合をバラバラにする

・盾も城門もバターのように切断


結果……アルベール様が三枚になる。

駄目ですね?


---


【武装その3】光子収束極限レーザー(ソーラー・フレア・カノン)

・指先、または視線から放たれる精密熱線

・都市を焼き尽くした出力を、現在は湯沸かしレベルまで調整可能


結果……アルベール様が蒸発する。

駄目ですね?


---


駄目だ。

弱い順から考えても、やりすぎになってしまう。

一旦……とりあえず、これでいくか。


最新世代の超合金から精製した刀に、

一流武人たちの戦闘データをロード。

スタイルを最適化し、戦闘モードへコミットしてプッシュする。


(……非致死性での制圧が前提。

 出力は限界まで落とす必要がありますね)


そう考えていると、アルベール様が戻ってきた。


「ほう……?」


視界に入った瞬間、解析を走らせる。


レイピア。

具足。

鎧。

兜。


どれも第三世代あたりの超合金製。

そして──恐らく、人間の戦闘を補助する機能が付与されている。


(なるほど。鷹狩では身に着けていなかった……

 これがアルベール様の“本気”というわけですか)


装備の重量バランス、関節補助の駆動音、

レイピアの重心位置まで、すべてが“戦うため”に最適化されている。


アルベール様は静かにレイピアを構えた。


その姿は、先ほどまでの執事ではなかった──

完全に“武人”の顔だった。


「待たせたな、イリスよ。

 ……儂を殺さぬ算段はついたかな?」


そう言って、アルベール様が笑った。

お見通し、というわけか。


「儂は別に、お主がライルお坊ちゃまに仕えることを否定するつもりはない。

 何故なら──お主がAIロボを爆破した時点で、

 儂らを騙して取り入るためにそこまでする必要はないと判断したからだ」


淡々とした声。

だが、その奥には確かな信頼があった。


「だがな……お主は一つ、許せぬ発言をした」


アルベール様の目が細くなる。


「ライルお坊ちゃまに“剣のお稽古をして”。

 これはつまり──自分が教えた方が良い、ということだろう?」


俺は深く考えていなかったが、

分析すると確かにそういう意味になる。

だから素直に肯定した。


「はい。私の中には、一流の武人たちのデータが蓄積されておりますので」


「ふっ。であろうな」


アルベール様はレイピアを軽く振り、

その刃が空気を裂く音が静かに響いた。


「だから儂がお主に教えてやろう」


兜の奥の瞳が鋭く光る。


「──人間を……武術を舐めるな、とな!」


観戦席から、ケイン様の声が張り上がった。


「それでは──双方、準備はできたかな?」


鍛錬場の空気が、ぴんと張りつめる。


「では……模擬戦、始め!」


合図と同時に、アルベール様が地を蹴った──

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