第31話 変態メイド暗躍
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『お人好し主任の異世界善行旅 〜神様から授かったチート能力で、 魔界・人界・天界のあらゆる種族と目の前で困っている者すべてを救い尽くします』
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◇巡行六日目
ライルお坊ちゃま達が第三荘園へ移動する途中、
鬱蒼とした山道の難所に、それらは潜んでいた。
(山賊か……しかし武装が農民上がりのそれではない。
他国──恐らく隣国の息がかかった傭兵崩れ。
直接の遣り取りをしているのは首領だけの可能性もあるな)
部隊の数は三十名。
グラブト率いる騎馬戦闘員十八名より多い。
大丈夫かもしれないが、ライルお坊ちゃまに
“間違い”があってはならない。
「……細工しておくか」
俺はステルスで忍び寄り、弓をすべて使用不可にし、
剣も数合打ち合えば折れるようにしておく。
そしてグラブトとライルお坊ちゃまに気付かれぬよう、
部隊の後方ぎりぎりまで近づいた。
「もうすぐか……」
その時、グラブトの斥候が山賊たちに気付いた。
同時に首領が雄叫びをあげる。
「てめえら! 標的がやってきたぞ!
エルヤ家の辺境伯の長男を生け捕れば、
たんまり稼げるだろうぜ!」
すると賊の一名が、看過できない発言をする。
「お頭ぁ! 身代金を頂いて命を奪う前に、
かわいがっていいんですよね?」
(……誰が誰を可愛がるだと)
気付けば俺は、ついヘッドショットしていた。
賊が馬からずり落ちる。
「おい! どうした!」
首領が驚愕の声を上げるが、冷静さを取り戻し号令する。
「ちっ! かかれ!」
グラブトが指示を出す。
「若君、後方にお下がりください!
まずは弓兵を片付けろ!」
ライルお坊ちゃまが震えている。
「う、うん……任せた!」
首領が弓兵に命令する。
「撃て! 長男には当てるなよ!」
しかし──弦は切れ、矢は曲がっている。
「な、何だ! 撃てない!」
賊の弓兵が狼狽えている間に、
グラブトの兵が突撃して斬り伏せる。
さらに、グラブトの兵と数合打ち合うと、
賊の剣に罅が入り、やがて折れた。
「ふん、碌に武器の管理もままならんとは……
所詮、賊兵よな」
「全員、逃がすな! 首領は生け捕りにせよ!」
首領は吐き捨てるように叫び、一目散に逃げ出した。
「何だ、どうなってやがる!
畜生、何が正規軍の武器だ!
あいつら、ふざけやがって!」
真っ先に逃げ出した首領との距離を見て、
グラブトが追撃を止める。
「もういい、深追いするな。
若君の護衛が最優先だ」
グラブトが隊列を整えるのを確認すると、
俺は逃げた首領を追いかける。
「クソ……辺境伯の長男の命を奪えば
謝礼はたんまりだって話だったのによ!」
俺はステルスを解除し、
首領を馬から蹴り落とす。
勢いよく地面に転がった。
(おっと、いけない。
ついイラっとして……死んでないな?)
そして首領の髪を掴み、持ち上げる。
「痛っ……ヒッ! 何だおめえは?
メイドだと……?!」
「さて──あなたに依頼した方のお話。
詳しく、聞かせていただきましょうか?」
◇その夜
エルヤ家に面した隣国の辺境伯は、
寝室にて長男暗殺の結果を待っていた。
「エルヤ家は手強い。
だが跡継ぎが一人しかおらん。
暗殺して、現当主を毒殺すれば……攻め取るも容易になる」
酒の入ったグラスを揺らしながら、
そんな夢想をしていた男の目の前に──
突然、首領の首が投げ出された。
「ひっ! な、何だ!」
辺境伯が青ざめていると、
メイドが姿を現した。
「こんばんは。月が綺麗な良い夜ですね。
あなたにとって──最後の月ですよ」
「メイド……? 暗殺者か?
だ、誰か! 誰かぁ……!」
「うふふ、無駄です。
この部屋の音声は遮断しております。
さて──あなたには確認しておくことがあります」
俺は首を掴み、辺境伯の身体ごと持ち上げる。
「原因不明の病死になる前に……ね?」
優しく問いただしたところ、
王命ではなく辺境伯の独断だと判明した。
であれば、一旦はこの男の命だけで十分だろう。
辺境伯は土下座しながら泣き叫ぶ。
「もう、いいだろう!? 出来心だったんだ!
た、助けてくれ! もう狙ったりしないから!」
俺は辺境伯をベッドに投げ捨てる。
「お坊ちゃまを狙った罪を反省しながら──逝きなさい」
そう言って、激痛を与えながら心臓を止めた。
心臓麻痺にしか思われないだろう。
それから巡行を見守り続け──十四日目。
先に屋敷へ戻ると、疲れた顔をしながらも
一回り成長したお坊ちゃまが帰ってきた。
俺は、最大限の笑みを湛えてお迎えした。
「イリス、ただいま」
「はい。お帰りなさいませ、ライルお坊ちゃま。
鎧をお脱ぎになりましたら──
お風呂とお茶のご用意をいたします」
こうして、ライルお坊ちゃまの領地巡行は無事に終わった。
数日後。
隣国の辺境伯が急死した──そんな噂が、
静かに領地へと届いた。




