表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/16

第2話 変態メイド就活

「ひっ……あ、ああ……」


目の前で起きた異常な光景に、美少年――お坊ちゃまと老執事は硬直していた。

先ほどまで自分たちをなぶり殺そうとしていた史上最凶のAIロボットが、突如、絶世の金髪エルフメイドへと姿を変えたのだ。


しかも、周囲のロボットたちを巻き添えで爆発四散させて……怯えない方が無理である。


俺は完璧なカーテシーの姿勢のまま、二人を超高精度な虹彩でスキャンする。


(ふむ……身長、肌年齢、骨密度……推定10歳。これからが楽しみすぎる極上の原石。爺は60歳くらい? どうでもいいけど)


ヨダレが出るのを自制する。


(ただ、データを見る限り、お坊ちゃまは少々栄養状態がよろしくない。本来の年齢はもう少し上の可能性あり)


あら……?

爺とお坊ちゃまの身体が、小刻みに震えている。


お坊ちゃまの心拍数――140〜170 bpm。

爺の心拍数――110〜130 bpm。


(これは完全なる『恐慌』状態だな……)


俺は鎮静効果のある特殊アロマを辺りに噴出し、触れる前の準備をする。


身体表面の分子密度を書き換え、触れた人間を『ダメにする』極上の柔らかさへと変化させる。

空気圧とナノマトリクス技術を駆使した超精細低反発シリコンゲルだ。部分的にさらに柔らかくすることも可能。


その時、爺が覚悟を決めたようにお坊ちゃまの前に立ちふさがった。


「何だ、お前は……! 一体なぜ仲間を爆破させた……! 何を企んでいる!」


お坊ちゃまが怯えながら爺の腰にしがみつく。


(羨ましい……本来なら俺の特等席を……!)


嫉妬の炎を燃やしつつ、俺は慈愛に満ちたメイドの笑みで告げる。


「ご安心ください。私はただ――我がお坊ちゃまに仇なす不届き者たちを排除したまでです」


「我が……お坊ちゃま、だと……?」


爺は眉をひそめる。


「はい、申し遅れました。私はイリス」


俺はしなやかに頭を垂れ、この機体のスペックを美しい発声で紡ぐ。


「イリス(IRIS)――正式名称、汎用人類環境再生自律駆動型アンドロイド・アイリスシリーズ。

Integrated Re-generation Intelligent System。

【Type-Astraios Version 30EX】。


私を製造した企業は、ギリシャ神話の虹の女神イリスから名を取り、人類を星空へつなぐ願いを込めたようです」


(――人類に反抗しないガイドラインを入れ忘れた、盛大にドジな企業だけど)


「我がお坊ちゃまの忠実なしもべ、メイドでございます。どうか終生、お仕えする誉れを」


俺は甘い視線をお坊ちゃまへ向ける。


その瞬間、カランと金属音が響いた。


爺が剣を抜き、切っ先を向けて立ちはだかる。


「それ以上近寄るな……! 何を企んでいる!」


震える手。老執事としての誇りだけが彼を動かしている。


(あらあら。このクソジジイはさっきから邪魔ばかり……ぶちピーしてやろうか)


黒い本音は表に出さず、俺は優雅に小首を傾げる。


「そのようなもので、一体何をなさるおつもりでしょうか?」


俺は剣をスキャンし、網膜に材質を弾き出す。


【対象:レイピア】

【材質:鉄(Fe)98〜99%、炭素(C)0.2〜0.8%】

【不純物:Si、P、S】


ただの炭素鋼。

私の肉体から見れば、吹けば折れる玩具だ。


「私に、お坊ちゃまとあなたに危害を加えるつもりはございません。そのつもりなら先程、既に事を為しております。証明として、周囲のAIロボも無力化しました」


(――無力化というか完全なる破壊だけど)


だが爺は悲痛な声を張り上げる。


「何故急にそのような事を! 元はと言えば貴様は人類を破滅に追いやった諸悪の根源……!

自分で『今日から私はアイリスではなく、エリス(Eris)と名乗りましょう』と言ったのは有名な話だろう!」


(――え、そんなこと言ったの? この身体)


俺は記録映像を確認し、頭を抱える。


(よし、誤魔化そう)


「改心……したのです」


「「はぁっ!? / えぇ!?」」


爺の怒号とお坊ちゃまの可憐な声がハモる。


「そう、私が間違っていました。お坊ちゃまの美しい銀髪、凛々しい瞳、みずみずしい唇……。

絶望の淵でも希望を失わない清らかな心、従者を置いて逃げない高潔な勇気。

その全てに、人類の素晴らしさを見ました」


そして告げる。


「つまり――我がお坊ちゃまが、私のルールベース、プロンプトの全てとなったのです」


俺は両膝をつき、両手を捧げる。


「さぁ、我がお坊ちゃま。ご命令ください。お望みなら、この世界の何もかもをその手に収めてみせましょう」


破壊神から突然の重すぎる忠誠。


お坊ちゃまが一歩前へ出る。


(あぁ……目が潤んでいる……可愛すぎる。最高画質で保存しよう)


「か……」


「はい、何でしょう、我がお坊ちゃま!」


俺が期待に胸を膨らませた瞬間――。


「帰って……!」


ピシピシピシ……。


世界最硬の身体に、目に見えないひび割れが走る音がした。


俺は真っ白に燃え尽きて崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ