第16話 外伝2 変態メイドと父上
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私が執務をしていると、
息子のライルと総執事クリフが入室を求めてきた。
「鍵は開いている。入りなさい」
二人が静かに入ってくる。
「どうした、ライル。
今日はクリフと鷹狩に行っていたはずだが……
随分と早かったじゃないか」
「父上……その……ですね」
言い淀んだ息子の口から聞いた説明は、
にわかには信じがたいものだった。
だが、ライルは嘘をつくような子ではない。
それにクリフも一緒だった。
「……それで、クリフ」
私は視線を向ける。
「そのメイドは本当に……
人類絶滅のきっかけとなったエリスなのかな?」
「あぁ……言われてみれば」
クリフは少しだけ視線を落とした。
「ただ、伝承で聞いていた雰囲気と、
他の爆破したAIロボを率いていたので……
てっきり、そう思って“エリス”と決めつけましたが」
そこで一度、言葉を切る。
「否定もされませんでしたな。
今は“イリス”と名乗って……
いや、名前を戻しております」
「イリスか……まあいい」
私はゆっくりと息を吐いた。
「それで、その言葉を信じるならば……
他のAIロボも千体以上、処理したと」
自分で言いながら、現実味が薄い。
「まさか永い時を経て、とうとう“エリス率いるAIロボ”に
この地を見つけられ……
その最初のターゲットが、たまたま我が息子のライルで……
命を失うと思っていたら」
そこで言葉が途切れる。
「……何故か、うちのライルに仕えることを熱望していると」
ライルとクリフが同じ夢でも見ていたと言われた方が、
まだ信ぴょう性がある。
「意味がわからん……何かの罠か……?」
だが、そうする理由もわからん。
(王に伝えねばなるまい。
だが……もう少し様子を見てからだな)
(今の状態で伝えて、なまじ王都から兵でも送られようものなら……
取り返しがつかぬ事になりそうな気しかしない)
(エリス――いや、イリスが本気で暴れれば、
この領地どころか国がどうなるかも分からん)
私が長考していると、
ライルは心配そうな顔で、
クリフはただ無言でこちらを見つめていた。
「……おっと、すまなかった」
私は軽く首を振る。
「ライルは、家門にかけて仕えることを許したんだったな?」
「はい。功には報いを――と、父上の教えに習えばこそ」
(良い子に育っている……
少し素直すぎる嫌いはあるが……
これをリナに言えば、
“あなた似ね”と笑うだろうな)
私はクリフにそっと耳打ちした。
「……もし、イリスが暴れたら止められるかい?」
「無理……でしょうな」
クリフは即答した。
「伝承通りの力を持っているとすれば……
奴が本気で暴れたら、館ごと消滅するでしょう」
「その前に、一瞬で首を落とすなどは……?」
「人間でないものが首を落とせば止まるなら、
可能かもしれませんが……」
「なるほど……止まる保証はないし、
怒りを買うだけの可能性が高いか」
私は小さく息を吐いた。
「……これは参ったね」
私は覚悟を決めた。
「分かった。連れてくると良い。
会うしかなさそうだ」
そうして、連れてこられたメイドに挨拶をする。
「やあ、お待たせしたね。
私がエルヤ家の現当主、ケインだ」
(ふむ……落ち着いている。暴れる気はなさそうだ。
というか……さっきからこちらを向いて話してはいるが、
“見ていない”気がするぞ……)
私は質問を続けた。
「ふむ……何故ライルなんだい?」
イリスから返ってきた答えは、理解に苦しむものだった。
「……魂でございます」
「もし他の地に、ライルのような少年がいたら、宗旨替えは?」
「ありえません!」
(これは……もう答えが一つしかないというか……
ライルを“餌”にするしかなさそうだ……)
(しかしイリスの動機が真実なら、
うちの息子の命は、王どころか“人類”にとって
最優先になるんじゃないか……?)
(彼女の良識……常識を試すしかないか……)
私は精一杯、緊張が顔に出ないように笑顔を浮かべた。
「やれやれ……しょうがない。
ライルのために──家庭教師兼、護衛兼、部屋付き女中として。
“ユニーク・メイド”という役職を新設しよう。
その職にイリスを就ける」
そこで、あえて軽く肩をすくめる。
「ただし──模擬戦でクリフに勝てたらね」
どうか……館を壊すような真似はしてくれるなよ……
私は神に祈りをささげた。
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