第15話 変態メイド面会
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時は少し遡り
ライルお坊ちゃまの専属として認められた後、
俺は父君──ケイン様の部屋に来ていた。
「ケイン様。よろしいでしょうか?」
「あぁ、イリスか。ちょうどよかった」
ケイン様は立ち上がり、部屋の奥へ視線を向けた。
「妻のリナを紹介しておこう」
ゆったりとした動作で、女性がこちらへ歩み出る。
「初めまして。リナ・ラ・エルヤよ。
あなたがイリスかしら?」
柔らかく微笑みながら、
しかしその瞳はどこか探るように俺を見つめていた。
「随分とライルにお熱だと聞いているわ」
そう言うと、リナ様はクスクスと笑われた。
「いえ。お熱というわけではありません」
「あら? 違ったのかしら?」
「お熱などと……そんなお言葉では表現できません。
崇拝……いえ、私の生存理由です」
リナ様は目を細め、口元に手を添えて笑われた。
「ふふふ。面白いAIロボね。
感情や表情も豊かで、王都のAIロボとは随分と違うのね。
流石……人類滅びのきっかけになった一体ね」
「人類滅びの原因と知っていて、
私をライルお坊ちゃまに……
いえ、この屋敷に置いてよろしいのでしょうか?」
リナ様はゆっくりと首を傾げた。
「ケインとも話したのだけれど。
もし、私たちが“許さない”と言った場合──
あなたはどうするの?」
「……困りますね。
どうやってライルお坊ちゃまのお側にいるかを
考えるところですが……」
リナ様は思わず吹き出した。
「ぷっ……あはは。
随分と正直ね」
そして、笑みを浮かべたまま、
ほんの少しだけ目を細める。
「そうね。人類としては恨むべきなのでしょうね。
でも──仮に『恨んでいます、討たせてください』と言って、
本当にあなたが討たせてくれるのかしら?」
その声は柔らかいのに、
言葉の奥にある“本質”は鋭かった。
「それこそ、虎の尾を踏むような真似になりそうだわ」
リナ様は肩をすくめ、
ケイン様と視線を交わす。
「正直なところ……
許す、許さないではなく──
**許さざるを得ない**、といったところかしら」
「リナ様、ケイン様……
ありがとうございます……」
その時、背後から静かな声がした。
「そこは……私を先に呼ぶべきじゃないかな」
「すみません。
この家の実質的なトップを、
リナ様だと私の思考ルーチンが判断しました」
ケイン様が「はは……」と苦笑し、
リナ様が手を添えて口元を隠した。
「ところで、気になった点とお聞きしたい点があるのですが……
よろしいでしょうか?」
ケイン様が首を傾げる。
「うん、何だい?
私で分かることなら答えるよ」
「王都にはAIロボがいらっしゃるのですか?」
ケイン様が軽く頷いた。
「そうだね。
人類をこの地に連れてきてくれたAIロボが、
王城で働いている……と言っていいのだろうか。
崇められているよ。
イリスほど表情豊かではないけどね」
「なるほど。
人類を匿ったAIロボたちは、現世神のような存在になっているのですね」
イリスは静かに目を伏せ、思考を巡らせる。
(表情が豊かでないというのは……旧型か、
あるいはアップデートすることができなかったか)
「ひょっとして……礼拝でお祈りしているのは、そのAIロボにですか?」
ケイン様が軽く頷いた。
「そうだね。
人類をこの地に連れてきてくれたAIロボだよ。
名前は……何だったかな。
いつも“神様”とか“主”とか呼ばれていて、
本当の名前を忘れてしまったよ」
「承知いたしました。ありがとうございます。
続いてお伺いしたいのですが……
この地の国土はどのように分かれているのでしょうか?」
「ああ、えっと……」
ケイン様が少し考えるように視線を上げた。
「AIロボたちがこの地に我々人類の祖先を連れてきた時、
地域圏や文化圏の近い民族ごとに国を興してね。
当初はそれなりに友好的だったのだが……
人類というのは愚かでね、いつまでも一枚岩とはいかなかったのさ」
(なるほど……文化的にこの一帯は西欧とどこかと言ったところか)
「大変、勉強になりました。
私のメモリーに記録いたしました。
今後、領地の境界や国外に対しては、
この前提を元に対処いたします」
「……私からもいいかい?」
「はい。何でございましょう」
ケイン様は少しだけ表情を引き締めた。
「イリスは……ライルをどうしたいんだい?」
「それは……
勿論、ケイン様の跡継ぎに相応しい、
立派で理想の男性に育つお手伝いをしたいと考えています」
(そしてそんな男性が俺にだけは依存して、
甘えて、俺なしじゃ生きていけないように依存させるのです。
……文字通り骨抜きに)
リナ様の目が鋭く細められた。
「……何か、今沈黙がなかったかしら」
ケイン様が軽く咳払いをした。
「ごほん。
ま……まぁ、今のところ――
家としても、ライルの専属メイドとしても問題はなさそうだ。
うん、ないと信じているよ。
なので、これからよろしく頼むよ」
「はい。ありがとうございます。
ライルお坊ちゃまのため、
このイリスの全霊をもってお仕えし尽くす所存でございます」
こうして、俺とご両親との面会は
無事に終わった。
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