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第13話 変態メイド改善(後)

【過去作・他連載のお知らせ】

▼異世界転生・内政群像劇(完結まで順次公開中)

『中華風異世界で目覚めたら、自作一族の少年だった』

https://ncode.syosetu.com/n9512ma/


▼和風ダークファンタジー(不定期連載中)

『六装の守護者 ―不銹不折―破邪の鋼刃――』

https://ncode.syosetu.com/n3023me/

【14:00】演習


「アルベール様。本日からよろしくお願い致します」


「今日は姿を隠していないのか」


「はい。観察は終わりましたので」


「そうか。まあ……邪魔しないように見ているが良い」


「いえ。邪魔はいたしませんが──

 提案はさせていただきます。

 とはいえ、アルベール様のご指導に

 口を挟むという意味ではございませんので」


 俺は軽く頭を下げ、演習場の端へ下がった。


 ライルお坊ちゃまが剣を振り、

 馬を駆る姿を──

 瞳の超高性能カメラで一瞬も逃さず完全録画。


 骨格の動き、筋肉の収縮、重心の揺れ、

 呼吸のリズムまでモーションキャプチャし、

 特訓の合間の休憩時間に映像を投影する。


「こちらをご覧ください。

 ここと、ここの動きがブレています。

 先ほどアルベール様がご指摘された箇所ですね。

 お分かりになりますか?」


「ぼ、僕……こんなに崩れてるの……?」


「はい。体力があるうちは良いのですが、

 疲れてくると体幹がぶれていますね」


 俺は映像をスロー再生しながら続ける。


「アルベール様のご指摘に合わせて、

 客観的に映像で見つめ直すことで、

 弱点がより顕著に“目に見える”かと思います」


 アルベール様が腕を組み、

 映像をじっと見つめた。


「……なるほどな。

 言葉で説明するより早い」


 お坊ちゃまは真剣な顔で頷いている。


(ふふ……お坊ちゃまの理解速度、上昇中)


「それと……こちらをお召し上がりください」


「これは何?」


「私の汗です。──いえ、違いました。

 運動時のお坊ちゃまの身体に必要な成分です」


 激しい運動で大量の汗をかいたお坊ちゃまの体を補うため、

 豊富な海塩から「ナトリウム」と「カリウム」を

 完璧なイオンバランスで抽出。


 果物から得た果糖、

 そしてグラフェン膜で完全ろ過した純水をブレンドし、

 瞬時に調合した──


「特製イリススエット」でございます。


 透明な液体が、光を受けて静かに揺れる。


「うん、飲みやすい。

 甘じょっぽいっていうのかな?」


「はい、ライルお坊ちゃま。

 運動時は汗をかきますよね?」


「うん」


「その汗は──体から“水”と“塩”が失われているのです。

 多少なら問題ありませんが、

 激しい運動時などは適度に補給する必要がございます」


「そうなんだ……イリスは凄いね。

 何でも知っていて」


「いえいえ。知識ではなく“データ”ですので」


「謙遜しなくてもいいのに」


(……お優しい)



【16:00】ティータイム


「ライルお坊ちゃま。お願いがございます」


「な、何……?」


「これから私が行うことを、

 もしご無理でなければ──許していただきたいのです」


「い、一体……何をするつもりなの……?」


「それは今から行います。

 ですので、できれば……裁可を」


「わかった。余程のことでなければ、イリスの言うとおりにするよ」


「ありがとうございます!」


 俺は深く一礼し、ティーセットを並べた。


「それでは本日のティータイムはこちらをご用意いたしました。

 おからクッキーと……コーラにございます」


「クッキーはわかるけど……コーラ?」


「はい。失われていたようなので、再現いたしました」


 領内の大豆から“おから”を生成し、焼き菓子として焼成。

 甜菜から抽出した糖分を“ほんのり控えめ”に混ぜ、

 さらに大豆から植物性タンパク質を抽出して追加配合。

 やさしい甘みの、栄養価の高いプロテインスイーツに仕立てた。


 そして──


 雑草や野生果実から、コーラ香の元となる

 「シトラール(レモン香)」「シンナムアルデヒド(シナモン香)」など

 芳香分子をセンサーで特定・抽出し、香りを再現。


 サトウキビの蜜(糖蜜)を加熱してキャラメリゼし、

 琥珀色のカラメルシロップを作成。


 キイチゴなどから「クエン酸」を抽出し、

 昼食と同じ強い炭酸にそれらを配合。


「名付けて──特製イリスAIコーラの完成でございます」


「さぁ、ライルお坊ちゃま。

 あーん、してください」


「えっ……いいよ! 自分で食べられるから」


「先ほど、お坊ちゃまは“ご無理でなければ”と

 仰ってくださいました。

 何卒……このイリスに、ご褒美を……!」


「ううっ……もう……しょうがないなぁ……

 恥ずかしいよ……」


「うふふ。ありがとうございます!」


「それでは──あーん」


(カシャカシャカシャカシャ)


「いかがでしょうか?」


「うん。優しい味だね」


「そちらのクッキーには、

 ライルお坊ちゃまの身体に必要な栄養が

 しっかり入っております。

 とはいえ、何事も“程々”が大事ですが」


「わかった、ありがとう」


「それでは──二枚目ですよ」


「はい、あーん」


(……幸せ過ぎる……)


「この黒い飲み物がコーラなの?」


「はい。先ほど飲まれた炭酸水が、甘くなったものでございます」


 ライルお坊ちゃまが口に含み、喉を鳴らす。


「……何か、色々な味がするんだね。

 甘いのに、少し苦いようで……酸っぱい?」


「はい。甘くて苦いのは“カラメル”ですね。

 そして炭酸水が本来持つ酸味と果実の酸味が、

 甘さによって感じやすくなります」


「そっか……世の中には、まだまだ僕の知らないものがあるんだね」


「はい、ライルお坊ちゃま。

 それだけ“知る喜び”があるということですよ」


 ライルお坊ちゃまは首を軽く縦にうなずき、

 コーラを飲み干した。

 

【18:00】入浴


「ライルお坊ちゃま。本日はこちらをお使いください。

 身体を洗う石鹸と、頭髪専用のシャンプー&トリートメントでございます」


 オリーブの油分と野生のハーブを化学合成し、

 無添加のシャンプー・トリートメント・弱酸性石鹸を精製。


 さらに、お湯の温度を完全に制御し、

 お坊ちゃまが入るまでは“程よく温く”、

 入浴後に湯冷めしない“適温”まで自動で上昇させるのだ。


「ライルお坊ちゃま。お背中をお流しいたします」


「えっ……嫌、駄目だよ!」


「大丈夫です。この通り“目隠し”をしております。

 お坊ちゃまのお身体は一切、視認しておりません」


(エコーロケーションとサーモグラフィーはしていますが)


「本当に……見えていないの?」


「見えてはおりません!」


「……わかった。それじゃ、後ろ向くから……」


「はい。お任せください。洗髪もいたしますね」


(……至福)


【19:00】夕食


「本日はこちらをご用意いたしました。

 デミグラスハンバーグ、コンソメスープ、純水。

 物足りなければ白パンもございますが──

 食べ過ぎとなるため、お1つまでです」


 野生牛の肉を極小のひき肉へ分解し、

 ティータイムでも使用した“おから”と玉ねぎをブレンド。

 重曹のアルカリ効果を加え、

 肉汁が溢れ出す“極上ふんわりハンバーグ”へ。


 骨や肉の端切れから抽出したイノシン酸と、

 トマトをじっくり煮詰めた濃厚デミグラスソース。


 グラフェン膜で完全ろ過した純水に、

 肉と根菜の旨味だけを熱で凝縮した、

 一切の濁りも泥臭さもない琥珀色のコンソメスープ。


 ライルお坊ちゃまがナイフを入れると、

 ハンバーグから肉汁が溢れ、香りがふわりと広がった。


 口に運んだ瞬間──

 お坊ちゃまの顔に、ぱっと喜色が浮かぶ。


「ねぇ……イリス」


「はい、何でしょうか」


「今日一日だけで思ったんだけど……

 こんなのばかり食べたら、

 今までの食事が口に入らなくなっちゃうよ……」


(望むところです!)


「ありがとうございます。

 明日からも、ぜひ楽しみにしていてください」


 ケイン様が口を開いた。


「イリス。料理長に、食材の提供や

 調理法の手ほどきは可能かい……?」


「そうですね……全く同じとはいきませんが、

 ある程度までなら可能かと思います」


「わかった。それでは頼むよ。

 私から料理長には口を添えておく」


 続いて、リナ様が静かに口を開かれた。


「私の分は、イリスが用意してね?」


「承りました」


【20:30】歯磨き


「さぁさぁ、ライルお坊ちゃま」


「うっ……うん」


 朝で既に観念されたのか、

 ライルお坊ちゃまは抵抗されなかった。


 俺は指先から“超音波ナノバブル”を放ち、

 虫歯菌を弾き飛ばし、完全洗浄。


 歯垢を除去した後は、

 再石灰化とコーティングを同時に行い、

 仕上げにカモミールとほのかな甘み(キシリトール)で

 優しくマウスウォッシュする。


 そして──

 ライルお坊ちゃまの頬に、

 保湿ミルクを薄く塗り広げた。


(……ほっぺ、ぷにぷにしてるぅ……)


【21:00】就寝


「それでは、お坊ちゃま。お休みなさいませ」


「えっと……イリスはここに残るの?」


「添い寝しろという事でしたら、喜んで」


「ち、違うよ!」


「ふふっ。冗談です。

 ライルお坊ちゃまがお休みになったら、部屋に戻ります」


「わかった……それじゃあ、お休みなさい」


 ライルお坊ちゃまが布団に入り、横になられた瞬間──

 部屋の温度を22℃、湿度を50%に調整。

 俺が部屋を離れてからも朝まで維持されるよう制御する。


 そして、ベッドに横たわるお坊ちゃまの体から

 数センチ離れた位置に手をかざし、

 指先から低周波を放つ。


 筋肉をほぐし、乳酸を強制分解し、

 深いリラックス状態へと導いた。


 ライルお坊ちゃまは、

 一分も経たないうちに静かに眠りへ落ちた。


 その後、お坊ちゃまのマッサージを終え、

 俺は礼をして静かに立ち去る。


(おやすみなさいませ。

 どうか良い夢をご覧になってください)


 ──俺の、ライルお坊ちゃま改善生活は

 こうして一日を終えた。

最後までお読みいただきありがとうございました。


本作はプロットなしのライブ感で、毎日コツコツ書き進めております。

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