第13話 変態メイド改善(後)
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『中華風異世界で目覚めたら、自作一族の少年だった』
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【14:00】演習
「アルベール様。本日からよろしくお願い致します」
「今日は姿を隠していないのか」
「はい。観察は終わりましたので」
「そうか。まあ……邪魔しないように見ているが良い」
「いえ。邪魔はいたしませんが──
提案はさせていただきます。
とはいえ、アルベール様のご指導に
口を挟むという意味ではございませんので」
俺は軽く頭を下げ、演習場の端へ下がった。
ライルお坊ちゃまが剣を振り、
馬を駆る姿を──
瞳の超高性能カメラで一瞬も逃さず完全録画。
骨格の動き、筋肉の収縮、重心の揺れ、
呼吸のリズムまでモーションキャプチャし、
特訓の合間の休憩時間に映像を投影する。
「こちらをご覧ください。
ここと、ここの動きがブレています。
先ほどアルベール様がご指摘された箇所ですね。
お分かりになりますか?」
「ぼ、僕……こんなに崩れてるの……?」
「はい。体力があるうちは良いのですが、
疲れてくると体幹がぶれていますね」
俺は映像をスロー再生しながら続ける。
「アルベール様のご指摘に合わせて、
客観的に映像で見つめ直すことで、
弱点がより顕著に“目に見える”かと思います」
アルベール様が腕を組み、
映像をじっと見つめた。
「……なるほどな。
言葉で説明するより早い」
お坊ちゃまは真剣な顔で頷いている。
(ふふ……お坊ちゃまの理解速度、上昇中)
「それと……こちらをお召し上がりください」
「これは何?」
「私の汗です。──いえ、違いました。
運動時のお坊ちゃまの身体に必要な成分です」
激しい運動で大量の汗をかいたお坊ちゃまの体を補うため、
豊富な海塩から「ナトリウム」と「カリウム」を
完璧なイオンバランスで抽出。
果物から得た果糖、
そしてグラフェン膜で完全ろ過した純水をブレンドし、
瞬時に調合した──
「特製イリススエット」でございます。
透明な液体が、光を受けて静かに揺れる。
「うん、飲みやすい。
甘じょっぽいっていうのかな?」
「はい、ライルお坊ちゃま。
運動時は汗をかきますよね?」
「うん」
「その汗は──体から“水”と“塩”が失われているのです。
多少なら問題ありませんが、
激しい運動時などは適度に補給する必要がございます」
「そうなんだ……イリスは凄いね。
何でも知っていて」
「いえいえ。知識ではなく“データ”ですので」
「謙遜しなくてもいいのに」
(……お優しい)
【16:00】ティータイム
「ライルお坊ちゃま。お願いがございます」
「な、何……?」
「これから私が行うことを、
もしご無理でなければ──許していただきたいのです」
「い、一体……何をするつもりなの……?」
「それは今から行います。
ですので、できれば……裁可を」
「わかった。余程のことでなければ、イリスの言うとおりにするよ」
「ありがとうございます!」
俺は深く一礼し、ティーセットを並べた。
「それでは本日のティータイムはこちらをご用意いたしました。
おからクッキーと……コーラにございます」
「クッキーはわかるけど……コーラ?」
「はい。失われていたようなので、再現いたしました」
領内の大豆から“おから”を生成し、焼き菓子として焼成。
甜菜から抽出した糖分を“ほんのり控えめ”に混ぜ、
さらに大豆から植物性タンパク質を抽出して追加配合。
やさしい甘みの、栄養価の高いプロテインスイーツに仕立てた。
そして──
雑草や野生果実から、コーラ香の元となる
「シトラール(レモン香)」「シンナムアルデヒド(シナモン香)」など
芳香分子をセンサーで特定・抽出し、香りを再現。
サトウキビの蜜(糖蜜)を加熱してキャラメリゼし、
琥珀色のカラメルシロップを作成。
キイチゴなどから「クエン酸」を抽出し、
昼食と同じ強い炭酸にそれらを配合。
「名付けて──特製イリスAIコーラの完成でございます」
「さぁ、ライルお坊ちゃま。
あーん、してください」
「えっ……いいよ! 自分で食べられるから」
「先ほど、お坊ちゃまは“ご無理でなければ”と
仰ってくださいました。
何卒……このイリスに、ご褒美を……!」
「ううっ……もう……しょうがないなぁ……
恥ずかしいよ……」
「うふふ。ありがとうございます!」
「それでは──あーん」
(カシャカシャカシャカシャ)
「いかがでしょうか?」
「うん。優しい味だね」
「そちらのクッキーには、
ライルお坊ちゃまの身体に必要な栄養が
しっかり入っております。
とはいえ、何事も“程々”が大事ですが」
「わかった、ありがとう」
「それでは──二枚目ですよ」
「はい、あーん」
(……幸せ過ぎる……)
「この黒い飲み物がコーラなの?」
「はい。先ほど飲まれた炭酸水が、甘くなったものでございます」
ライルお坊ちゃまが口に含み、喉を鳴らす。
「……何か、色々な味がするんだね。
甘いのに、少し苦いようで……酸っぱい?」
「はい。甘くて苦いのは“カラメル”ですね。
そして炭酸水が本来持つ酸味と果実の酸味が、
甘さによって感じやすくなります」
「そっか……世の中には、まだまだ僕の知らないものがあるんだね」
「はい、ライルお坊ちゃま。
それだけ“知る喜び”があるということですよ」
ライルお坊ちゃまは首を軽く縦にうなずき、
コーラを飲み干した。
【18:00】入浴
「ライルお坊ちゃま。本日はこちらをお使いください。
身体を洗う石鹸と、頭髪専用のシャンプー&トリートメントでございます」
オリーブの油分と野生のハーブを化学合成し、
無添加のシャンプー・トリートメント・弱酸性石鹸を精製。
さらに、お湯の温度を完全に制御し、
お坊ちゃまが入るまでは“程よく温く”、
入浴後に湯冷めしない“適温”まで自動で上昇させるのだ。
「ライルお坊ちゃま。お背中をお流しいたします」
「えっ……嫌、駄目だよ!」
「大丈夫です。この通り“目隠し”をしております。
お坊ちゃまのお身体は一切、視認しておりません」
(エコーロケーションとサーモグラフィーはしていますが)
「本当に……見えていないの?」
「見えてはおりません!」
「……わかった。それじゃ、後ろ向くから……」
「はい。お任せください。洗髪もいたしますね」
(……至福)
【19:00】夕食
「本日はこちらをご用意いたしました。
デミグラスハンバーグ、コンソメスープ、純水。
物足りなければ白パンもございますが──
食べ過ぎとなるため、お1つまでです」
野生牛の肉を極小のひき肉へ分解し、
ティータイムでも使用した“おから”と玉ねぎをブレンド。
重曹のアルカリ効果を加え、
肉汁が溢れ出す“極上ふんわりハンバーグ”へ。
骨や肉の端切れから抽出したイノシン酸と、
トマトをじっくり煮詰めた濃厚デミグラスソース。
グラフェン膜で完全ろ過した純水に、
肉と根菜の旨味だけを熱で凝縮した、
一切の濁りも泥臭さもない琥珀色のコンソメスープ。
ライルお坊ちゃまがナイフを入れると、
ハンバーグから肉汁が溢れ、香りがふわりと広がった。
口に運んだ瞬間──
お坊ちゃまの顔に、ぱっと喜色が浮かぶ。
「ねぇ……イリス」
「はい、何でしょうか」
「今日一日だけで思ったんだけど……
こんなのばかり食べたら、
今までの食事が口に入らなくなっちゃうよ……」
(望むところです!)
「ありがとうございます。
明日からも、ぜひ楽しみにしていてください」
ケイン様が口を開いた。
「イリス。料理長に、食材の提供や
調理法の手ほどきは可能かい……?」
「そうですね……全く同じとはいきませんが、
ある程度までなら可能かと思います」
「わかった。それでは頼むよ。
私から料理長には口を添えておく」
続いて、リナ様が静かに口を開かれた。
「私の分は、イリスが用意してね?」
「承りました」
【20:30】歯磨き
「さぁさぁ、ライルお坊ちゃま」
「うっ……うん」
朝で既に観念されたのか、
ライルお坊ちゃまは抵抗されなかった。
俺は指先から“超音波ナノバブル”を放ち、
虫歯菌を弾き飛ばし、完全洗浄。
歯垢を除去した後は、
再石灰化とコーティングを同時に行い、
仕上げにカモミールとほのかな甘み(キシリトール)で
優しくマウスウォッシュする。
そして──
ライルお坊ちゃまの頬に、
保湿ミルクを薄く塗り広げた。
(……ほっぺ、ぷにぷにしてるぅ……)
【21:00】就寝
「それでは、お坊ちゃま。お休みなさいませ」
「えっと……イリスはここに残るの?」
「添い寝しろという事でしたら、喜んで」
「ち、違うよ!」
「ふふっ。冗談です。
ライルお坊ちゃまがお休みになったら、部屋に戻ります」
「わかった……それじゃあ、お休みなさい」
ライルお坊ちゃまが布団に入り、横になられた瞬間──
部屋の温度を22℃、湿度を50%に調整。
俺が部屋を離れてからも朝まで維持されるよう制御する。
そして、ベッドに横たわるお坊ちゃまの体から
数センチ離れた位置に手をかざし、
指先から低周波を放つ。
筋肉をほぐし、乳酸を強制分解し、
深いリラックス状態へと導いた。
ライルお坊ちゃまは、
一分も経たないうちに静かに眠りへ落ちた。
その後、お坊ちゃまのマッサージを終え、
俺は礼をして静かに立ち去る。
(おやすみなさいませ。
どうか良い夢をご覧になってください)
──俺の、ライルお坊ちゃま改善生活は
こうして一日を終えた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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