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第12話 変態メイド改善(中)

【過去作・他連載のお知らせ】


▼異世界転生・内政群像劇(完結まで順次公開中)

『中華風異世界で目覚めたら、自作一族の少年だった』

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▼和風ダークファンタジー(不定期連載中)

『六装の守護者 ―不銹不折―破邪の鋼刃――』

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【09:00】座学


 俺はお坊ちゃまの隣に静かに腰を下ろした。


「……何で、イリスが?」


「ふふ。今日は私も、ライルお坊ちゃまと一緒に

 “生徒”になるのです。

 許可は頂いております。よろしくお願いしますね──

 先生」


 家庭教師を務める男が、露骨に狼狽した。


「あ、あぁ……ケイン様の執り成しだからな。

 仕方あるまい。

 だが……妙な真似をするなよ」


(ふふ……妙な真似はしませんよ)


 俺は口角をわずかに上げた。


 いつも通り、家庭教師が年表を広げる。

 その瞬間、俺は静かに挙手した。


「先生。何故、年表を学ぶのですか?」


「それは……過去を知ることは大事だからだ」


「何故、大事なのですか?」


 家庭教師が言葉に詰まる。


 俺は隣のお坊ちゃまへ、

 穏やかな声で問いかけた。


「ライルお坊ちゃまは、何故だかお分かりになりますか?」


「うーん……ごめん、考えたことなかった」


「素直でよろしいかと思います」


 俺は年表に視線を落とし、淡々と続けた。


「歴史とは“過去のデータ”です。

 どのような行いが失敗で、どのような行いが成功だったのか。

 それらを網羅することで──

 お坊ちゃまが将来、同じ罠を踏まないようにするためです」


 そして、家庭教師へ向き直る。


「……ですよね? 先生」


「あ……あぁ、そうだ」


 続いて、社交と王都の複雑なマナー、

 そして楽器の基礎の授業へ移る。


「ライルお坊ちゃま。

 これらは何故学ぶか、お分かりになりますか?」


「えっと……恥をかかないためかな?」


「はい。それも一つの正解でございます。

 流石です、ライルお坊ちゃま」


 俺は一拍置いて、静かに続けた。


「今から申し上げる答えが、必ずしも正解とは限りませんが……

 データとして申し上げますと──」


 坊ちゃまの横顔を見つめながら。


「マナーとは、礼儀・思いやりに通じています。

 相手に不快感を与えないための“気遣い”です。

 つまり、相手と同等の品位を示すことで、

 信頼と評価を獲得する行為なのです」


「楽器などの文化は、

 “私はこういった教養を嗜んでいます”という

 自己紹介の役割を果たします」


 家庭教師が息を呑む。


「極端な例ではございますが──」


 俺は軽く手を上げ、例示する。


「お坊ちゃまの目の前に現れた人間が、

 『俺は優しい!』『俺は礼儀正しい!』『俺は賢い!』

 と口で言ったとして……

 お坊ちゃまは、そう思えますか?」


「うーん、難しいかも?」

「それらを“示すこと”。

 また、それらを“示す努力ができる人間”であることを

 証明するために必要なのです」


 ライルお坊ちゃまが、こくりと頷いた。


「さて、次は──他国の言語や状況を学ぶ理由ですね。

 こちらも、何故だかわかりますか?」


「仲良くするためじゃないの?」


「はい。それも正しいです」


 俺は静かに続けた。


「敵視するためだけではなく、

 戦争を避け、対等な貿易や交渉を行うためです」


「ライルお坊ちゃま。暗記も大事ですが──」


 お坊ちゃまの瞳をまっすぐ見つめる。


「将来の辺境伯として“ビジョン”を持ち、

 生き抜くための戦略思考として、

 何故学ぶのか。

 自分が何を学ぶべきかを考えてください」


「今日学んだことが、未来を創造します。

 そうすれば──いつか人類はまた、

 私のような存在を生み出せる日が来るはずです」


「その時は……今度は人類に敵対しないようにしないとだね……」


「そうです! お坊ちゃま!

 それが“歴史に学ぶ”ということです!」


 俺は賞賛の気持ちを抑えきれず、

 ライルお坊ちゃまを胸に抱き寄せた。


「イリス! 離れて! 先生が見てる!」


 その後も授業は続いた。


 脳をフル回転させたライルお坊ちゃまは、

 次第に限界を迎え、

 こくり、こくりと舟をこぎ始める。


 そのたびに俺は、

 お坊ちゃまの“顔の周辺だけ”を

 そっと冷気で包み、気温を数度下げた。


 頬に触れるひんやりとした空気が、

 お坊ちゃまの眠気を奪っていく。


お坊ちゃまは一瞬びくりとし、

また姿勢を正す。


(……ふふ、目が覚めましたね)


【13:00】昼食


「本日はこちらをご用意いたしました。

 ミディアムレアステーキ・特製オニオンソースがけ、

 もちもち食感の白パン、

 人参とジャガイモのグラッセでございます」


 料理長が熟成させた野生牛は工夫されているが、

 それでも筋繊維の結合が強く、

 ライルお坊ちゃまの消化効率には不適正。


 そこで俺は、山から採掘した「天然重曹」の

 ナノミストを肉へ浸透させ、

 タンパク質をさらにアルカリ化。

 保水力を極限まで高め、

 柔らかさを最大化してある。


 特製オニオンソースは、

 トマトやキノコから抽出したグルタミン酸をブレンドし、

 うま味を底上げした。


 白パンはソースにつける前提で

 バターを控えめにし、

 食感をさらにふわふわに。

 人参とジャガイモは、

 臭み成分をピンポイントで除去してある。


 タンパク質、脂質、ビタミン、食物繊維、

 そして適度な炭水化物──

 お坊ちゃまの成長に最適化した構成だ。


 ライルお坊ちゃまがナイフを入れると、

 ステーキは力を入れずともすっと切れた。


 そして恐る恐る口に運び、目を丸くする。


「何これ……柔らかい。美味しい!

 パンも朝よりふかふかだし、

 人参とジャガイモも甘くておいしいよ。

 イリス、これ昨日と同じお肉なの?」


「はい。私が“加工”しておりますが、

 素材は同じものを使用しています。

 お肉も、お野菜も、小麦も──

 すべて領内で採れたものです」


 そう言いながら、俺は飲み物をサーブする。


「ライルお坊ちゃま。お飲み物はこちらを」


 海水から電気分解で抽出した

 “純粋な二酸化炭素ガス”を、

 完全ろ過した純水へ超高圧で瞬間注入。

 パチパチと泡が弾ける、

 喉越し最高の“強炭酸水”をノータイムで生成する。


「これは何?」


「炭酸水でございます。

 以前、天然のものを飲まれたと伺っております。

 その時よりも強く弾けますので、ご注意ください」


「うん、ありがとう!

 すごい、口の中がシュワシュワする……

 面白いし、美味しい!」


 ライルお坊ちゃまの幸せそうな笑顔に、

 胸が温かくなり、目じりが下がる。


(きゅんきゅんするぅ……)


 リナ様が俺に声をかけられた。


「イリス、明日から“私には”ライルと同じものをお願いね」


「はい、承りました」


 ケイン様が何か言いたげにリナ様を見つめる。

 しかし、リナ様がにっこりと微笑み返すと──

 その無言の抗議は、そこで終わった。


(改めて……ご愁傷様です、ケイン様)


 まだまだ改善──

 ライルお坊ちゃまへのメイド愛は終わりませんよ。


 俺は脳内で、そっと袖をまくった。

最後までお読みいただきありがとうございました。


本作はプロットなしのライブ感で、毎日コツコツ書き進めております。

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