第10話 変態メイド観察(後)
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俺は引き続き観察を続ける。
【14:00】演習
アルベール様の指導のもと、体力づくりの走り込み、
基礎的な剣術、そして馬術の初歩。
身体がまだ出来上がっていないため、
素振りが中心で、実戦形式は少なめ。
アルベール様が受けに回り、
動きの癖を一つずつ矯正していく。
流石にアルベール様の指導だけあって、
座学に比べると指摘も正確で無駄がない。
教えるべき点と、今は触れない方が良い点の
“線引き”が明確だ。
……一瞬、アルベール様がこちらを見た気がした。
ステルスモードのはずなのに、
気配を感じ取ったというのか。
日によってはダンスの練習や狩猟もあるようだ。
狩猟は、お会いした日の鷹狩がそれに当たるのだろう。
ライルお坊ちゃまが真剣な顔で汗をかいている。
(……凛々しい)
【16:00】ティータイム
お抱え菓子職人が焼いたシフォンケーキ、
あるいはスポンジケーキ。
飲み物は、温かいスパイスワイン(薄め)。
木炭や砂礫で徹底的にろ過した水でワインを薄め、
十二歳の子供に強い原酒は良くないため、
温め直してアルコールをある程度飛ばしている。
とはいえ、身体を動かした直後に
糖分とアルコール……
タンパク質は皆無。
お掃除ロボットはあるのに、
空調設備や濾過装置は存在しない。
その一方で、アルベール様の装備は高度だ。
ここから推測できるのは──
“島国に持ち込むことはできたが、
島国内で新たな文明機器を開発することはできなかった”
という状況か。
運動後で小腹がすいているはずなのに、
お坊ちゃまのお顔は優れない。
やはり重たいのだろう。
食が進んでいないご様子。
(……嘆かわしい)
【18:00】入浴
お屋敷が誇る最高級の「檜の浴槽」。
お抱え医師の指示による温かい「ハーブ薬湯」。
名工の職人が狂いなく組み上げた檜の浴槽には、
最高級の炭で何度もろ過を繰り返した上質な水が張られ、
医師が調合した野生ハーブが煮出されている。
湯気とともに広がる檜とハーブの高貴な香りは、
領主一族の富と、洗練された衛生観念の象徴そのもの。
ただし、化学工場がないため石鹸のpH調整は難しく、
洗った後はお坊ちゃまの肌の油分が奪われ、
どうしても突っ張ってしまう。
薪の火加減も人の手によるため、
温度は数度単位でムラがあり、
「入った瞬間は少し熱く、浸かるうちにぬるくなる」
という不安定さは避けられない。
湯気の向こうから、恥ずかしそうな声が聞こえた。
「イリス! いるなら……あんまり見ないでね……?」
(………………)
【19:00】夕食
焼き立ての肉のパイ包み、
各種ハーブが香る澄んだ肉汁スープ、
夕食用に再び焼き上げられた白パン。
厨房の職人たちは、夕食のために
上質な白パンをもう一度焼き、
パイ皮の中には細かく叩いた肉を
ハーブと和えてぎっしり詰め込む。
手の込んだ、豪奢な宮廷料理が並ぶ。
しかし、土壌の劣化による野生肉の
根本的な獣臭さは、料理長の腕でも
完全には消しきれない。
スープも、生水汚染を殺菌するために
過剰に煮込まれており、
ビタミンなどの重要な栄養素は
やはり破壊されてしまっている。
(……贅沢ではあるが栄養が足りない)
【20:30】歯磨き
こちらは朝と同様である。
【21:00】就寝
天蓋付きの大型高級ベッド。
人間の手による、精一杯の安眠ケア。
ベッドの脇では、小姓(お世話係の少年)が
交代制で夜通し立ち、大きな団扇で風を送り続けている。
お屋敷の英知を尽くし、
風通しを良くしたり、ハッカ水を撒くなどの
対策は取られているが──
人間の手による空調制御には限界がある。
蒸し暑さは完全にはしのげず、
お坊ちゃまは毎晩、寝苦しそうに
何度も寝返りを打っている。
(……おいたわしい)
俺は、ライルお坊ちゃまの一日の観察を終えた。
明日からは、
お坊ちゃまに“本当の意味での快適な生活”を
お約束すると決めた。
一日中撮影した映像を編集しながら、
その決意を、静かに心に刻んだ。
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