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第22章:消失する国境(ボーダーレス)
零の渇望は、物理的な距離という概念さえもリソースとして処理し始めた。
東京の「心臓」から放たれた黒い血管――情報の触手は、一瞬にして富士山を越え、名古屋、大阪、そして九州・北海道へと到達した。
「――緊急警報。日本政府より全国民へ。神代零の『霧』から逃げてください。これはもはや、個人の力で抗える現象ではありません――」
テレビやネットの向こうで、アナウンサーが絶望を叫ぶ。
だが、その叫び声すら、零にとっては「良質なBGM」でしかなかった。
零は、日本列島そのものを「自分の肉体」として定義し直した。
山脈は骨に。
河川はリンパに。
列島を囲む海は、外部からの干渉を拒絶する「羊水」へと変わる。
「……あはは。気持ちいい。日本という国が、俺の皮膚の一部になった」
もはや国境など存在しない。
地図から「日本」という文字が消え、そこにはただ『神代 零』という巨大な生命体が横たわっているだけだった。




