第2章:観測者と略奪者
交差点の喧騒は、もはや悲鳴すら淘汰された「作業音」へと変わっていた。
死体の山ができるわけではない。敗北した者はデータとなってシステムに吸い込まれ、勝った者はそのリソースで「レベル」を上げる。効率的で、無機質な、命のパズルだ。
「……あ、あの……」
背後から声がした。先ほど零が助けた――正確には、自分の獲物を横取りされるのを嫌って「確保」した少女だ。
名は一条 凪。彼女の網膜には、零とは別の「バグ」が走っていた。
「あなた……何をしたの? 私の『解析』スキルが、あなたのことだけ……真っ黒な穴に見える」
「穴? いい表現だな」
零は奪ったばかりの「戦士」のスキルを、無造作に指先で弄ぶ。
本来、スキルは魂に定着するものだ。他人が触れることなどできない。だが、零の指が触れるたび、その「戦士の剛力」という概念が、悲鳴を上げるように軋んでいた。
「俺は、俺が欲しいものを手に入れる。神様が配ったカードが気に入らなければ、隣の奴から奪えばいい。それだけだ」
「……奪う? 奪えるはずがないわ。これはシステムの理……」
「理? そんなものは、書き換えるためにあるんだよ」
零が笑った瞬間、視界の端で新たなノイズが走った。
交差点の大型ビジョンに、ノイズ混じりの「顔」が映し出される。それはシステムが生成した**【案内役】**。
『――エラー個体、神代零を確認。修正プログラム、レベル1を適用します――』
「修正? やってみろよ。……凪、と言ったか。お前のその『目』、気に入った。俺がこの街を食い尽くすまで、隣で見ていろ」




