第7話 見るという仕事
三日通った。
三日目には、追い返されなくなった。
正確に言うと、二日目までは「帰れ」と言われて、俺が「はい」と言って、そのまま座っていた。三日目には「帰れ」を省略された。効率化である。
鍛冶場は、マルタさんの店から坂を三十歩ほど下りたところにある。
三十歩といっても、この街の三十歩は平らな道の三十歩じゃない。石畳が斜めに落ちているので、朝一番に下ると、着いたときには腿の前が張っている。上りより楽なのに、疲れる場所が違う。
途中で一度顔を上げると、屋根の連なりの向こうに港が見えた。マストが四本、ゆっくり揺れている。下りるにつれて、それが少しずつ大きくなる。風は下から吹き上げてきて、塩と、魚と、濡れた縄の匂いを正面から押しつけてくる。
その匂いが、扉をくぐった瞬間に消える。
鉄と、炭と、焼けた油の匂いに、まるごと塗り替えられる。
鍛冶場は、間口が狭くて奥が深い。細長い洞穴みたいな造りをしている。
突き当たりに炉がある。そこだけが赤い。壁は煤で黒くて、天井の梁はもっと黒い。床は土間で、炭の粉と鉄の粉が積もっていて、歩くとじゃりじゃり鳴る。
入って十歩も行くと、顔の正面が熱くなる。炉に近い方だ。背中はまだ外の風の温度のままなので、体の前と後ろで季節が違う。
この街は灰色だ。石も、屋根も、服も。色があるのは人の頭の上だけだと、俺はずっと思っていた。
ここには、それとは別の色がある。
火の色だ。
「炭」
「はい」
「もっと」
「はい」
俺は炭を運んでいた。
鍛冶場の炭は、思ったより重い。籠ひとつで、たぶん十貫くらいある。それを炉のそばまで運んで、ちょうどいい量だけ足す。
籠の縁がささくれていて、持ち上げるたびに手のひらに刺さった。二日目で指の付け根の皮がむけて、三日目にはそこが硬くなりはじめた。皿洗いでふやけきっていた手が、三日で別の手になっていく。
腰にも来る。担ぐんじゃなくて、腰の前で抱えて運ぶからだ。三往復目から、背中の下の方が細かく震えはじめる。
あと、喉に来る。
炭の粉と鉄の粉が空気に混じっていて、それを一日吸っていると、夜に出る痰が黒い。
「多い」
「はい」
「少ない」
「どっちだよ」
「今のは多かった」
この人は、指示が短い。
短いくせに、間違うと直ちに指摘される。
リーヤは腕をまくった。まくる必要はなかった。もうまくってある。それでももう一段、肘の上まで上げた。
肘から手首まで、火傷の跡が層になっている。丸いのは火の粉が跳ねた跡で、線になっているのは熱した鉄に触れた跡だ。古いものは白く盛り上がっていて、新しいものは赤い。腕の上で、白と赤がまだらになっている。
隠していない。
隠す気がないのか、隠し方を知らないのか、どっちだろうと思った。
ふいごも踏んだ。
足で踏む板がついていて、体重をかけると空気が炉に入る。入ると火が明るくなる。
これが、思っていたよりきつい。
板が硬いので、踵で踏むと踵が痛い。土踏まずで踏むと足の裏が攣りかける。腿の前側は、十数える間で熱くなってくる。
「速い」
「はい」
「一定にして」
「一定」
「同じ間隔で。息するみたいに」
俺は言われたとおりにやった。
汗が額から眉に落ちて、眉から目に入った。塩が沁みる。拭こうとして手を上げたら、その手も炭で黒いので、余計に沁みた。
ふいごを踏みながら、リーヤの手を見ていた。
この人は、俺がふいごを踏んでいるあいだ、ずっと炉の中を見ている。鉄の色を見ているらしい。
俺には全部同じ色に見える。
「赤い」
「まだ」
「もう十分赤いって」
「まだ」
火に近い側の頬と、髪の生え際が、火の色を映して赤く光っていた。
彼女は、うるさそうに後れ毛を払った。払っても、汗で額に貼りついているので、すぐ戻ってくる。
しばらくして、彼女が火挟みを入れた。
俺には、さっきと同じ色にしか見えなかった。
夕方、顔を洗ったら、桶の水が真っ黒になった。
「うわ」
「炭だよ」
「顔、黒い?」
「真っ黒」
「言ってよ」
「言ったら面白くないでしょ」
この人は、笑わない。笑わないまま、そういうことを言う。
いや、正確には一度だけ笑った。声は出さない。鼻から短く息を出すだけだ。それが笑いだと気づくのに、三日かかった。
俺は水をもう一杯もらって、二度洗った。二度目も黒くなった。
爪の中の黒だけは、どうやっても落ちなかった。
彼女の爪も黒い。たぶん、何年も落ちていない。
四日目に、街の使いが来た。
若い男だった。二十歳そこそこで、細い。坂を走って下りてきたらしい。
下りは勝手に速くなる。この男は止まりきれなくて、扉の枠を掴んで体を止めた。掴んでから、息を整えた。上っていないのに息が上がるのが、下りの息だ。
髪が薄い菫色だった。名の色にしては品のいい方だ。前掛けをしていないので、鍛冶屋の人間ではない。腰に小さい木札を下げている。広場の役所の人間だ。あの木札は、門と橋と道を扱う連中が下げているやつだ。
喋る前に、一度、唾を飲んだ。
「リーヤさん」
「なに」
「北門の、金具が」
彼女の動きが止まった。
火挟みを持ったまま、そのまま。
「……壊れた?」
「割れました。蝶番の、太い方」
「いつ」
「昨日の夜。風で門が煽られて」
男は言いにくそうにしていた。足の位置を二回変えた。それでも言った。
「あれ、バルドさんが打ったやつなんで。……できれば、その」
「うちで、と」
「はい」
彼女は、しばらく黙っていた。
炉の火が、ぱちぱち鳴っていた。薪が崩れて、火の粉が二つ三つ上がって、天井の暗がりで消えた。
「いつまで」
「三日後には、門を閉められるようにしたいと」
「分かった」
男が帰ったあと、俺は言った。
「断ればよかったのに」
「断れないよ」
「なんで」
彼女は、壁の額を見上げた。
煤で灰色になった布と、金の糸。
この鍛冶場で、煤をかぶっていないものは、あの額だけだ。周りの壁は真っ黒なのに、額の下の縁だけ、手のひらぐらいの幅で黒が薄い。毎日そこを触っているんだと思う。
金の糸だけが、火を跳ね返して光っていた。
炎のバルド。
「あそこに、うちの名前が入ってるから」
言ってから、彼女は自分の左手を見た。親指の側面が、平らに削れている。
その日から、彼女は打ちはじめた。
金具というのは、思っていたより大きかった。俺の腕くらいの長さがあって、片方に穴が三つ開いている。それが門の柱と扉を繋いでいる。
厚い。これを一枚の鉄から打ち出すらしい。
「割れたやつ、見せて」
彼女は割れた金具を持ってきた。
両手で持ってきた。片手では持てない重さだ。俺が受け取ったら、思ったよりずっと下に落ちた。
黒い。赤茶けた錆が浮いている。ただ、穴の周りだけが違った。そこにだけ錆が乗っていない。二十年、人の手と門の重みが同じところに当たり続けて、鉄が磨かれて、鈍く光っている。
断面を見た。俺には何も分からなかった。ざらついていて、砂粒みたいなものが見える。それだけだ。
「これ、二十年もったんだよ」
彼女は言った。
「親父が打ったやつ。二十年、毎日、門が開いて閉じて。それで、ようやく割れた」
「すごいね」
「すごいよ」
彼女は割れた金具を、大事そうに脇に置いた。
置き方が、留め金を摘まむときの手だった。
打ちはじめて、二刻。
一枚目が、駄目になった。
途中で厚みが変わって、薄いところが裂けた。
彼女は無言でそれを水に放り込んだ。じゅう、と音がした。白い湯気が上がって、焼けた鉄の匂いが顔に来た。
二枚目も、駄目になった。
今度は、曲げるところで折れた。
彼女は布巾で手を拭いた。強く絞りすぎて、水が飛んで、土間に黒い点が三つできた。
三枚目。
叩く音を、俺は数えていた。
癖である。数えていないと落ち着かない。皿でも、階段でも、人数でも、俺は数える。
――かん。かん。ごつ。かん。かん。ごつ。ごつ。かん。
八回のうち、三回、音が違う。
かん、は槌が最後まで落ちた音だ。ごつ、は落ちきる前に力が抜けた音。手が止まっているわけじゃない。止まるより手前で、ほんの少しだけ、迷っている。
彼女は槌を止めて、額の汗を腕で拭いた。拭いた腕に、また新しい赤い跡があった。
「……見てて楽しい?」
「楽しくない」
「じゃあ帰れば」
「帰らない」
「なんで」
俺は答えなかった。
答えられなかったからだ。
夜、ドンさんが来た。
夜警の前に寄ったらしい。入口をふさぐようにでかいのが立っているので、すぐ分かる。
この人は入るとき半身になる。鍛冶場の入口は店の扉より狭いので、半身でも肩が枠に当たった。当たった音がしてから、小さく頭を下げた。誰にでもなく、扉に向かって下げたように見えた。
「クルト」
「ドンさん」
「音が、変だから」
彼はそう言って、自分の耳のあたりを指した。音の話をするとき、この人は必ずそこを指す。
「ここ、通るとき、いつも音がしてる。今日は、変だ」
リーヤが振り返った。
でかい男が入口に立っているのを見て、少し身構えた。
「誰」
「ドンさん。聞き手の」
「ああ」
彼女は槌を置いた。
「あんたか。名前が変わったっていう」
「……はい」
ドンさんは、いつもの癖で一歩下がりかけて、途中でやめた。
やめられるようになったんだな、と俺は思った。
ドンさんは、炉のそばまで来て、しばらく立っていた。
火が近いので、汗が額から顎まで一本の筋になって落ちた。側頭部に残った髪が、火に照らされて赤く見える。あれは火のせいだけじゃない。あの赤は、二十五年なかったものだ。
目を閉じていた。
「もう一回、叩いてもらえますか」
「は?」
「一回でいいので」
リーヤは、たぶん断ろうとした。断ろうとして、俺の顔を見て、それから舌打ちした。
彼女は鉄を炉から出して、金床に置いて、槌を振り下ろした。
――ごつ。
鈍い音だった。
ドンさんは目を閉じたまま、しばらく動かなかった。
それから、言った。
「鉄は、悪くないです」
「知ってる」
「打つ前に、迷ってます」
リーヤの手が、止まった。
「おれも、そうでした」
ドンさんは、静かに言った。
「石を割るとき、中の音が、聞こえるんです」
「……音」
「ここが割れる。ここは割れない」
彼は、一度息を継いだ。
「全部、聞こえます」
「……」
「だから、迷います。迷うと、力が入らない」
「……あたしは、何も聞こえないけど」
「はい」
ドンさんは頷いた。頷くとき、顎じゃなく上半身ごと動く。
「だから、違います」
「何が」
彼は少し考えた。この人は、言葉を選ぶのに時間がかかる。急かしても速くならない。二年見ていて、一度も速くなったことがない。
「おれは、聞こえすぎて、迷ってました」
「うん」
「あなたは」
彼は目を開けた。
「聞こえてないふりを、してます」
リーヤは、何も言わなかった。
言わないまま、槌を金床に置いた。
置いた音が、やけに大きかった。
「……帰って」
「はい」
ドンさんは素直に頷いて、出ていった。
入口で一度止まって、俺の方を見た。
「クルト」
「うん」
「おれ、余計なこと言ったか」
「言った」
「そうか」
「でも、たぶん正しい」
彼は少し困った顔をして、それから出ていった。
眉が薄いので、やっぱり困って見えなかった。
外に出た足音が、坂を上っていった。
上りは音が変わる。爪先で押すので、踵が鳴らない。代わりに、一歩ごとの間がだんだん開いていく。この人は体が重いぶん、その開き方がはっきりしている。
それが三十歩ぶん続いて、マルタさんの店の前のあたりで聞こえなくなった。そこから先は、鍛冶場の中からでは聞こえない。
その夜、俺は帰らなかった。
鍛冶場の隅に座って、彼女が打つのを見ていた。膝を抱えて座った。俺は座ると、いつもこの形になる。
四枚目も駄目になった。五枚目も。
夜が深くなると、炉の火が部屋で一番強い光になる。彼女が槌を振り上げるたびに、壁の影が跳ね上がって、天井まで届いて、また下りてくる。影のほうが、本人よりずっと大きい。
六枚目を炉に入れたとき、外が白みはじめていた。
俺は、ずっと考えていた。
なんで出ないんだろう、と。
三日見た。四日見た。この人の手の癖も、火の見方も、炭の足し方も、覚えた。留め金を摘まむときと火挟みを持つときで手が変わることも知っている。
全部、見えている。
なのに、名前が出ない。
考えていて、ふと、思い出した。
ドンさんのときは、どうだったか。
俺は、二年間、あの人の何を見ていたんだろう。
火が爆ぜる前に肩が動くこと。階段を降りてくる人がいると顔を上げること。入口で一度止まること。
……いや、違う。
あれは、結果だ。
俺が二年間見ていたのは、そこじゃない。
俺が見ていたのは——あの人が、それを誰にも言わなかったことだ。
二年間、一度も。
石が割れないと笑われても、「聞こえるんです」と言わなかった。言えば楽になったのに、言わなかった。
俺はそれを二年間見ていた。だから、あの日、口が動いた。
そこまで考えて、もうひとつ思い出した。
司名の爺さんのことだ。
名前はオーウェンという。四十年、この街の授名の儀をやっている。俺は三度、あの人の前に立った。
遠くから見ると、まず小さい。壇に上がるとき、脇を二人がかりで支えられている。背が縮んでいるので、十五になった子と並ぶと、爺さんのほうが低い年もある。着ているのは白い外套で、銀の縁取りが一本。袖にもう一本、金の線が入っている。それが司名の印なんだと、あとで知った。髪は白くて、薄い。地肌が透けていて、風が吹くと頭のかたちがそのまま見える。
近くで見ると、染みだ。頬にも、額にも、手の甲にも、薄い茶の染みが散っている。目は濁った青灰で、瞳と白目の境がぼやけていた。
手だけが大きかった。体のほうが縮んで、手だけが縮まなかったみたいに見えた。
あの人は、名前を告げる前に、必ず一拍おく。そして、子供を長く見る。
俺のときも、長く見た。
一度目は、広場が静かになるくらい長かった。百数える間はあったと思う。二度目は少し短かった。三度目は、途中で目を伏せた。
三度とも、長く見て、何も言わなかった。
壇を降りるとき、俺は一度だけ振り返った。爺さんは壇の脇の卓で、名簿に何か書いていた。遠かったのに、手が震えているのは分かった。あとでセシルさんに見せてもらった三行の署名も、震えていた。三回とも、少しずつ震え方が大きくなっていた。
神殿に上ったのは、そのあとだ。
神殿は坂の一番上にある。広場から先が急で、あそこは途中で必ず足が重くなる。振り返ると、屋根の向こうの港がもう遠い。船が小さい。風は下から吹き上げてきて、背中を押した。押されているのに、進まなかった。
着いたときには、息が上がっていた。
中は、寒かった。
天井が高い。上のほうに細長い窓が並んでいて、そこから光が斜めに落ちてくる。その光の筋の中だけ、埃が動いているのが見える。ほかには何も動かない。
石の床は、夏でも冷たい。足の裏から冷たさが上がってきて、膝のあたりで止まる。
匂いは、蝋と、古い紙と、石そのものの匂いだった。
足音が四回に増えて返ってくる。俺とセシルさんの二人しかいないのに、八人ぶんの足音がした。
あの建物の中で、俺は自分の三行を見た。
三度受けて、三度、何も起きなかったという三行だ。
セシルさんは言った。見えないものは、長く見ても、見えない、と。
つまり、あの爺さんには見えていた。
見えていて、言わなかったのか。見えていて、名前にできなかったのか。それは分からない。
でも、ひとつだけ分かることがある。
あの爺さんの仕事も、見ることだ。四十年。三千人。それしかやっていない。
俺と、同じ仕事だ。
俺は顔を上げた。
リーヤは、六枚目を叩いていた。
――ごつ。
鈍い音がした。
彼女は舌打ちして、また叩いた。
俺は、その姿を見ながら、自分の力の正体を、少しだけ理解した気がした。
俺が見ているのは、その人が何が得意かじゃない。
その人が、何を我慢しているかだ。
得意なことは、割と表に出る。放っておいても出る。
留め金の箱は棚に置いてあった。誰でも見られる場所に、きれいに並べて。ドンさんの耳だって、二年も同じ店にいれば分かった。得意は、隠しても漏れる。
でも我慢は、隠れている。
隠しているから隠れているんじゃない。本人が、それを我慢だと思っていないから隠れている。
ドンさんは、聞こえることを黙っているのが我慢だとは思っていなかった。そういうものだと思っていた。
この人も、たぶんそうだ。
隠れているものを見るには、その人が何をやらないかを見るしかない。やらないことは、目に映らない。映らないものを数えるには、時間がかかる。
三日じゃ足りない。
夜が明けた。
壁の上の細い穴から、朝の光が三本、斜めに入ってきた。石畳の色が青から白に戻る時間だ。炉の赤が、さっきより少しだけ弱く見えるようになった。
六枚目は、ましだった。少なくとも、裂けなかった。
でも、彼女は水に放り込んだ。
「なんで」
「駄目」
「裂けてないよ」
「厚みが違う。二十年もたない」
彼女は水桶を見ていた。
湯気が上がって、天井の梁に消えた。
「親父のは、二十年もった」
その声が、初めて、少し掠れていた。
彼女は炉の前に座り込んだ。
膝を抱えるみたいな座り方だった。俺と同じ座り方だ、と思った。
革の前掛けが腹のところで折れて、焦げ跡の層が見えた。何年ぶんあるのか、俺には数えられない。
それから、腕を見た。
新しい火傷が、また増えている。昨日はなかったところに、赤いのが二つ。
「あと二日」
「うん」
「二日で、あれを打たなきゃいけない」
「うん」
彼女は、しばらく黙っていた。
炉の火が、ぱちぱち鳴っていた。薪が崩れて、火の粉が上がった。
火から離れた側の髪は、暗かった。赤銅色のはずなのに、光が当たっていないと、ただの茶色に見える。
「あんたさ」
「うん」
「三日、見てたよね」
「四日」
「四日」
彼女は膝に顔を伏せた。
伏せたまま、言った。
「――何か、出た?」
俺は、正直に答えた。
嘘は、口を通らないので。
「出てない」
「そう」
彼女は顔を上げなかった。
しばらくして、小さい声で、こう言った。
「……あたし、できない」
二十年、一度も言わなかった言葉だと思った。




