第3話 その瞳に映った世界で、僕は咲いた
「お前ら〜、席に着け〜! 新しい担任の遠坂だ!」
ドアを勢いよく開けて入ってきたのは、がっしりした体格に短髪、声もやたらデカい――
うわ、いるわこういうタイプ。“あの夕日に向かって走ろうぜ!“とか言い出しそうな全力体育会系教師だ。
俺がいちばん苦手とする人種だ。
新しい担任、遠坂。……まあ、どうでもいいけど。
俺の関心は、そっちじゃない。
それより気になったのは、隣の席がぽっかり空いていることだった。
「……初日から遅刻か?」
そんなことを考えながら、俺は重たい腰を上げた。向かう先は体育館。入学式とか、正直くだらない。式辞、歓迎の言葉、無駄に長い校長のスピーチ……全部どうでもいい。
適当に席に着いて、惰性で話を聞き流していた――そのとき。
「では、最後に新入生代表の挨拶。安城恵梨香!」
……安城?
スポットライトが壇上を照らす。
現れたのは、金髪でぱっちりとした目を持つギャル系の少女。
歩く姿勢にブレはなく、視線は真っ直ぐ。
そしてなんて言うか……どこか少し怖い印象だった。
……この女、何者だ?
背筋はピンと伸び、歩き方には知性と誇りがにじんでいた。
そして、なにより──目が、神秘的だった。
右目は深い瑠璃色、左目は透き通るような琥珀色。まるで、夜と昼が一つの顔に同居しているように美しい。
その瞬間、空気が変わった。
桜の花びらが舞い落ちるような静けさの中、彼女はマイクの前に立つ。
そして彼女は真っ直ぐ正面を見ながら言った。
⸻
「“花の高校生活”──なんて言葉、正直くだらないと思っています」
開口一番、そう言い放った。
ざわめく新入生たちの空気が、一瞬で張りつめる。
「だって、みんながみんな同じように『花』を咲かせられると思いますか?」
「楽しかったって人もいれば、つまらなかったって人もいる。
「誰かの青春が咲いた場所で、別の誰かの青春は枯れているかもしれない。」
彼女は、ほんの少しだけ視線を下げ、
そのまま遠くを見据えた。
その目の奥に宿る光は、静かで――けれど確かに、強かった。
「“あのとき楽しめばよかった”
なんて、あとから悔やむくらいなら、最初から期待しなければいい。
──“期待”は、失望を生むだけですから」
ざわついた空気が、ピクリと止まる。
「でも、未来に希望がないとは言いません。
もし“何か”に期待するなら──私は、自分に期待したい」
「今日の努力が、明日の自分を変える。
今日の選択が、未来の自分をつくる。
そう信じて、ここに立っています」
彼女はそっと胸に手を当て、一瞬だけ──儚げに微笑んだ。
「だから私は、“花の高校生活”なんて安っぽい幻想はいらない。
私が欲しいのは、咲くかどうかもわからないけど、自分で“土を耕していける日々”です」
「……以上です」
スピーチの終了と同時に、彼女の微笑みはふっと消えた。瞬きもせず、冷たい光を湛えたオッドアイが前を見据えていた。
だがその胸の奥では、言葉にならないほどの熱が――静かに、確かに、燃えていた。
一瞬、シン……と静まり返る体育館。
――そのスピーチは、皮肉にも俺が思っていた「くだらない花の高校生活」とは、まったく別物だった。
世の中には"とんでもねぇ女"もいるもんだ……
そして教室に戻ると、さっきまで空いていた隣の席に、彼女が座っていた。
そう、安城恵梨香が。
「……マジかよ」
まるで最初からそこにいたかのような顔で、彼女は机に肘をつき、窓の外をじっと見つめていた。
俺の心臓はまだ、さっきの壇上の彼女に射抜かれたままだった。
……なんなんだよ、あのスピーチ。
あれが“ギャル”? 違う、もっと――わけがわからない。
……でも目が、離せない。
空いた窓から風に乗った桜が入ってきた。
その桜は、まるで導かれるように俺の方へ舞い込んでくる。
それを目で追っていた安城――そして、その瞳と、目が合った。
――瑠璃と琥珀。目が合った瞬間、心臓が一瞬だけ止まった。
そしてそれは――
俺の、“花の高校生活”が咲いた瞬間だった。
こうして、俺と安城恵梨香の物語は始まった。
でも、このときの俺はまだ知らない。
彼女の隠された“才能”と――
俺の人生が、彼女によってどう狂っていくのかを。
※本作は、一部AIの補助を参考にしながら執筆していますが、物語の構想・登場人物・表現の最終決定はすべて筆者が行っています




