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隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい  作者: 夕凪虚音
第1章 心を読む少女 ― 推し爆誕編
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第4話 安城恵梨香ーー聞こえるはずのない声

「……あなたは、さっきの」


その瑠璃と琥珀の瞳は、まっすぐに俺を見つめていた。


けれど、その視線はどこか冷たい。


まるで、異物でも見るような眼差しだった。


少しだけ怒っているようにも見える。


(……よっぽど可愛いって言われたの気持ち悪かったんだな)


(まあ、それはそうか)


(初対面だぞ? しかもイケメンでもない、フツメンの俺にいきなり可愛いなんて言われたら警戒もするよな)


(ああいうのが許されるのは、せいぜいラブコメの主人公くらいだろ)


俺はそっと彼女を見る。


おそらく心の中では、こう思っているに違いない。


――用がないなら、話しかけないで。


そんな無言の拒絶が、彼女の空気から伝わってくる気がした。


さすがに心が折れそうになる。


……まあ、そりゃそうだ。


それでも俺は、何事もなかったように肩をすくめた。


「いや、別に用があったわけじゃない」


「隣の席の神田ゆういちだ。……まあ、一応よろしくな」


少しだけ間を置いてから、頭をかく。


「あと、さっきはごめん」


「いきなり可愛いなんて」


その瞬間。


彼女の表情が、わずかに変わった。


「なんだ、やっぱり……言ってたんじゃない」


「……え?」


思わず間抜けな声が漏れる。


どうやら彼女は、本気で聞き間違いだと思っていたらしい。


つまり俺は。


せっかく助かった命を、自分から投げ捨てたことになる。


(……なるほど俺は今、爆死したのか)


(さっきの爆弾発言って、ここへの伏線だったのか)


漫画脳の俺は、心の中だけで妙に納得してしまう。


でも。


ふと疑問が浮かんだ。


(あれ?)


(じゃあ、なんでこの子さっきからちょっと怒ってるんだ?)


考え込んでいると、彼女が静かに口を開く。


「話は終わりかしら?」


その一言で、現実へ引き戻された。


「ああ、終わり」


「ふ〜ん。あっそ」


興味を失ったような返事。


そのまま視線を窓の外へ戻してしまう。


どうやら俺は、何か大事な選択肢を間違えたらしい。


静かに席へ座る。


そして、バレないように隣をちらりと盗み見る。


近くで見る彼女は、やっぱり綺麗だった。


頭の中では、感想が止まらない。


(……めっちゃツンツンしてるじゃん)


(完全に“話しかけないでオーラ”出てるし)


(でも……スピーチの時、一瞬だけ見せた微笑み)


(あれ、本当に天使みたいだったよな)


(それにオッドアイって実在するんだな)


(すげぇ綺麗だ)


思考は渋滞中。


現実で口にできない分だけ、心の中では好き勝手に言葉が溢れていく。


どうせ誰にも聞こえない。


そう思っていた。


その時だった。


彼女が、ふいに目を見開いた。


ぽかん、と。


まるで――聞こえるはずのないものを聞いたみたいに。


そして、ゆっくりと顔を逸らしながら。


小さく呟く。


「安城恵梨香よ」


「……目のことを褒めてくれるのは、素直に嬉しいわ」


「――え?」


思考が止まる。


比喩じゃない。


本当に、何も考えられなくなった。


「……あれ?」


自分の口元へ手を当てる。


「俺、また声に出してたか?」


いや。


それより。


普通に返事してくれた。


嫌われてるわけじゃ、なかったのか。


胸の奥で、少しだけ安堵する。


その時だった。


ガラリ、と教室のドアが開く。


担任の遠坂が戻ってきた。


俺と安城の席の間を通り抜け、そのまま教卓へ向かう。


「よーし、さっそくだが、まずはクラス委員決めるぞー」


(……絶対やりたくねぇ)


面倒ごとは勘弁だ。


(まあ、みんな同じこと思ってるだろ)


そう思った瞬間。


一人だけ、迷いなく手が挙がった。


「私がやります」


安城だった。


ためらいもない。


当然のように立ち上がる。


その一言だけで、教室の空気が決まった。


「お、おう……じゃあ女子は安城で」


「男子は――えーと……」


(いや早っ!?)


(先生ちょっと困ってるじゃねぇか!)


思わず心の中で突っ込む。


「……安城さん、こういうの好きなの?」


「別に好きじゃないわ」


即答だった。


「ただ――私がなる運命だっただけよ」


「……え? 運命?」


「だから、無駄な時間を省いただけ」


(……なんか変わった人だな)


(可愛いけど)


(これが厨二病ってやつか?)


(可愛いけど)


その瞬間。


安城が、ゆっくりこちらへ視線を向けた。


じとっとした目。


そして。


まるで未来を知っている人間みたいに、静かに告げる。


「学級委員、足を引っ張らないでね」


「……は?」


「出席番号五番」


「それが、あなたの敗因よ」


意味が分からない。


聞き返そうとした、その時。


担任の声が教室に響いた。


「男子のほうは時間かかるからなー」


嫌な予感が背中を走る。


「今日は四月一日だし――四+一で、五番!」


「神田ゆういち! お前がやれ!」


「なっ――!?」


思わず隣を見る。


けれど。


安城はもう、こちらを見ていなかった。


窓の外。


春の陽射しの向こうで、桜が静かに揺れている。


金色の髪が、淡い桜色に染まる。


その横顔は、どこまでも穏やかで。


どこまでも静かだった。


まるで。


最初から、この未来を知っていた人みたいに。


俺は何も言えないまま、その横顔を見つめる。


胸の奥に、小さな違和感だけを残して。


――この時はまだ。


その違和感の正体を、知る由もなかった。

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