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隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい  作者: 夕凪虚音
第4章 完璧な推しは壊れていく ――推し曇らせ編――
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第199話 やっと見つけた

「誰がなんと言おうと……ヤンデレが大好きなんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


――静寂。


店内に、俺の叫び声だけがいつまでも響いていた。


「…………は?」


「……え?」


「ヤ、ヤンデレ……?」


時間が止まったみたいだった。


そして――。


(……はっ!?)


俺はようやく我に返る。


(しまったぁぁぁっ!!)


またやってしまった。


毎度毎度、肝心なところで本音が盛大に漏れる。


しかも今回は、店中に響き渡るレベルだ。


恐る恐る顔を上げる。


すると――。


「何あれ……?」


「え、喧嘩?」


「ていうか、ヤンデレって言った……?」


周りの客たちが、ざわざわとこちらを見ていた。


完全に注目の的だった。


「うっ……」


恥ずかしさが一気に押し寄せてくる。


俺は顔が熱くなるのを感じながら、思わずうつむいた。


……穴があったら入りたい。


今すぐ入りたい。


いや、できることならこのまま消えてしまいたい。


けれど――。


「……あれ?」


ふと、違和感を覚えた。


俺はゆっくりと顔を上げる。


さっきまで。


あれほど羽衣さんの言葉を肯定していた連中の表情が、いつの間にか変わっていた。


ぼんやりとしていた目に、少しずつ光が戻っている。


まるで、長い夢から目を覚ましたみたいに。


「……別に、重たくてもいいよな?」


誰かがぽつりと呟く。


「……あれ?」


別の誰かが、自分の口を押さえた。


「俺、なんであんなこと……」


戸惑ったような声。


さっきまでの妙な一体感が、嘘みたいに消えていく。


そして――。


「あれ……俺……なんで……」


阿崎蒼真が、小さく呟いた。


その顔には、困惑が浮かんでいる。


まるで、自分が今まで何をしていたのか分からない……そんな顔だった。


俺は思わず目を見開く。


……なんだ、これ。


まるで何かに縛られていた人が、急に解放されたみたいじゃないか。


そんな馬鹿なこと――。


そう思うのに。


目の前の光景は、どう見ても普通じゃなかった。


そして、俺はもう一人へ視線を向ける。


――羽衣さん。


彼女だけは、周りと違っていた。


驚いたように、じっと俺を見つめている。


その瞳は、大きく見開かれていた。


何か信じられないものを見たような。


そんな表情だった。


そして――。


「……やっと……見つけた……」


ぽつり。


小さな声が、静かな店内に溶ける。


「……え?」


思わず聞き返してしまう。


その声音は、あまりにも切実だった。


長い間探し続けていたものを、ようやく見つけた。


そんな響きがあった。


「見つけた……? 何を……?」


俺が尋ねると、羽衣さんははっとしたように目を瞬かせた。


それから、いつもの柔らかな笑みを浮かべる。


「ううん。なんでもないよ〜」


けれど。


その笑顔は、どこかぎこちなかった。


まるで、本当の気持ちを無理やり隠したみたいに。


そして、彼女はパンッと手を叩いた。


「さてと!」


明るい声。


さっきまでの空気を無理やり断ち切るような声音だった。


「私たち、そろそろお店出よっか?」


その言葉に――。


「いや、ちょっと待ってくれ!」


阿崎蒼真が、慌てたように声を上げた。


「まだ……話したい事が」


その姿を見て、俺は思わず目を瞬かせる。


……意外だった。


さっきまでの阿崎なら、羽衣さんが何を言っても「そうだな」と頷いていたはずだ。


それなのに、今は違う。


明らかに、自分の意思で彼女を引き止めようとしている。


まるで別人だった。


すると。


羽衣さんが、ゆっくりと阿崎の方へ顔を向ける。


その動きは、不自然なくらいゆっくりだった。


「……ねぇ、蒼真。」


静かな声。


だけど、その声を聞いた瞬間。


なぜか背筋がぞくりとした。


「私は今、お店を出ようって言ったよね?」


にこり、と。


羽衣さんは微笑む。


その笑顔は、さっきまでと何も変わらない。


変わらない……はずなのに。


なぜだろう。


今の彼女は、妙に怖かった。


そして――。


「みんなは、どう思う?」


羽衣さんは、阿崎以外のみんなへと視線を向けた。


その瞬間だった。


「……そうだよな。もう出ようか。」


「蒼真、早く行こうぜ。」


「うん、そろそろ帰ろう。」


再び、羽衣さんに賛同する声が上がる。


さっきまで戸惑っていたはずの連中が、まるで何事もなかったかのように頷いていた。


そして――。


「あ……。」


思わず声が漏れる。


阿崎の目から、再び光が消えていくのが見えた。


さっきまで、自分の意思で何かを言おうとしていた。


困惑しながらも、自分で考えていた。


なのに今は違う。


ぼんやりとした目。


焦点の合わない表情。


まるで、何かに飲み込まれていくみたいだった。


「あ、ああ……そうだよな。」


阿崎は小さく頷く。


それから、どこか申し訳なさそうに羽衣さんを見た。


「……ごめん、雪音。」


その声には、さっきまでの抵抗する意思はもうなかった。


背筋が、ぞくりと粟立つ。


理解できない。


理解できないのに、目の前で確かに起きている。


羽衣さんは、そんな俺の戸惑いなんて気にも留めない様子で、ふわりと微笑んだ。


「それじゃ、行こっか。」


その一言で、全員がぞろぞろと出口へ向かっていく。


そして――。


店を出る直前。


羽衣さんだけが、ゆっくりと振り返った。


灰色の髪が、さらりと揺れる。


そして、真っ直ぐに俺を見つめてきた。


「それじゃあね?」


にこり、と。


いつもの柔らかな笑み。


だけど、その瞳だけは、妙に印象に残った。


「……神田君。」


なぜだろう。


その一言が、やけに耳に残る。


まるで、何かを確かめるような。


何かを期待しているような。


そんな、不思議な声音だった。


そして羽衣さんは踵を返し、そのまま店を後にした。


店内に、静けさが戻る。


「…………」


俺はしばらく、閉まったドアを見つめていた。


すると。


カタン――。


小さな音が聞こえた。


視線を向ける。


黒羽だった。


さっきまでドリンクを持ったまま固まっていた彼女が、ようやく力が抜けたように椅子へ腰を下ろしていた。


顔色はまだ悪い。


けれど、さっきよりは少しだけ呼吸が落ち着いているように見えた。


「……大丈夫か?」


俺が声をかけると、黒羽は小さく肩を震わせた。


それから、おずおずと俺を見上げる。


「……神田っち。」


「ん?」


「羽衣さんと……知り合いなの?」


不安そうな声だった。


俺は首を横に振る。


「いや。」


そして苦笑する。


「さっき、たまたまぶつかっただけ。」


「……そう、なんだ。」


黒羽はほっとしたように、小さく息を吐いた。


……やっぱり。


あの子たちに会ったこと自体が、相当な衝撃だったんだろう。


俺は少しだけ迷う。


聞くべきじゃないのかもしれない。


触れてほしくない過去だって、誰にでもある。


でも――。


あの時の黒羽の顔が、頭から離れなかった。


怯えた顔。


今にも泣きそうな顔。


まるで、昔の傷を無理やり抉られたみたいな顔。


そして、阿崎と目が合った時の、あの苦しそうな表情。


……俺は。


あんな顔をした黒羽を、放っておけなかった。


「……なぁ、黒羽。」


俺は静かに口を開く。


「さっきの子たちと……なんかあったのか?」


言った瞬間、黒羽の肩がぴくりと震えた。


「…………」


黒羽は俯いたまま、ぎゅっとグラスを握りしめた。


白くなるほど、強く。


沈黙が落ちる。


店内に流れる音楽だけが、やけに大きく聞こえた。


やがて――。


黒羽は、ゆっくりと顔を上げる。


その瞳には、どこか覚悟のようなものが宿っていた。


何かを決意したように。


逃げずに向き合うと決めたみたいに。


そして、小さく息を吸う。


「……神田っち。」


震える声。


だけど、その声は、さっきより少しだけ強かった。


黒羽冬花は、ゆっくりと口を開いた。


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