表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆襲の花嫁  作者: 海野宵人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/43

王宮夜会 (4)

 ラルフ王は王太子の紋章をエルドウィンから受け取り、彼の胸に手ずから付けた。「これでよし」と満足そうだ。


 その様子をカスバート王子は、視線で人を殺せるものなら殺したいと言わんばかりの目でにらみつけている。そして憎々しげに、こう言い放った。


「父上は……、父上は、そこまでわたしが憎いのですか。こんなふうに無理矢理、得体の知れない若造を王太子に仕立て上げるほど、わたしが憎いのですか!」


 怒りのあまり息を荒くする息子を、国王はどこか悲しそうに見つめた。そして「こんな場所で話すつもりはなかったんだがな」とため息をつき、静かな声で返した。


「それは、お前のほうだろう?」

「は? 何を言っているんですか」

「わたしを毒殺しようとするほど憎んでいるのは、お前のほうだろう」

「何を、意味の、わからないことを……」


 いきなり図星を指されたからか、カスバート王子は動揺を隠しきれなかった。


「本当はお前にも、わかっているんじゃないのか」

「何をですか」

「わたしの毒殺が未遂に終わったことだよ。もう手口も判明している。成分解析を逃れるために、小分け用のコルク蓋に毒を仕込むとはな。フィッツシモンズも考えたものよ」


 引き合いに出された名前に、人々の視線がフィッツシモンズ子爵の上に集まる。うれしくない注目を浴びたことで、子爵は見るからにうろたえた。


 宰相は信じられないと言いたげな表情で、子爵に向かってつぶやいた。


「フィッツシモンズ、本当に陛下に毒など盛ったのか? どうしてそんなことを……」


 この言葉を聞いて、自分が切り捨てられたことを悟ったのだろう。フィッツシモンズ子爵の顔は絶望に染まった。


 国王は静かな声で、カスバート王子に向かってさらに続ける。


「お前が兄を暗殺した手口も、やっと解明できたよ」

「何の話ですか……」

「魔獣よけと偽って、魔獣寄せの魔道具を馬車に取り付けさせたのだな。異常なほどの魔獣の群れに襲われたのは、事故なんかじゃなかったわけだ」

「何を証拠にそんなことを」


 ラルフ王は「これだよ」と、ふところから手のひらサイズのメダルを取り出した。


「パルトン大公国の内務大臣暗殺を、ブルフォードに指示しただろう。からくも暗殺を逃れたダライアス・ファレル卿から、手口についての情報提供があったんだよ。こうして証拠も託してくれてね」


 今度は人々の視線が、ブルフォード伯爵の上に集まる。


「手口がまったく一緒だったおかげで、調べがついた。ああ、ブルフォードが脅して違法な魔道具を作らせていた職人は、うちで保護したよ。家族も一緒にね」

「え、いや。何か誤解が……」


 顔色をなくし、冷や汗を浮かべて、ブルフォード伯爵は何やらもごもごと言い訳のようなものを口にする。だが国王は、ブルフォード伯爵のほうへは視線を向けることさえしなかった。


 その視線は今、まっすぐに宰相モーガン・ダリモアに向けられていた。


「ダリモア。ひと事みたいな顔をしているが、そもそもの黒幕はお前だろう」

「陛下、いったい何のお話ですかな」

「カスバートをそそのかし、陰謀の段取りをつけたことを言っている」

「言いがかりもはなはだしい。陛下といえども、言ってよいことと悪いことがございますぞ」


 国王の言葉に傷ついたかのように、宰相は顔をゆがめる。それを見てもユージェニーは、「芝居がかってるなあ」としか思えなかった。


 冷めた気持ちで国王と宰相のやり取りを眺める中、突如、大きな物音が鳴り響いた。夜会ホール入り口の扉が、蹴破る勢いで音を立てて激しく開かれたのだ。音に驚いた人々は、一斉に入り口を振り返る。


 開いた扉の陰からは、二人の男が姿を現した。二人とも非常に体格がよく、騎士服をまとっている。二人は国王に向かって、まっすぐ足早に進んでいった。その二人の顔を見て、ユージェニーは目をむく。


(どうしてゴードンとダグがこんなところにいるの⁉)


 唖然(あぜん)としている彼女の横で、ジョージも呆然としていた。


「なんと、キャンベル将軍じゃないか。生きていたのか」

「キャンベル将軍?」

「ああ、ユージェニーは知らないだろう。きみが生まれる前の将軍だよ。平民からの叩き上げでね。王太子殿下が亡くなったときに、殉職したとばかり思っていたんだが。全然変わってないな」


 知らないどころではない。物心ついた頃からの知り合いである。


 ゴードンたちは国王の前までいくと、騎士風の敬礼をした。ゴードンはチラリと宰相を一瞥しただけで存在を無視したまま、国王に向かって淡々と報告をした。


「近衛騎士を装って王宮に潜入した賊を捕らえました。全部で二十三名、ダリモア家の私兵とみられます」

「そうか。ご苦労」


 この報告に、宰相は声を荒げた。


「でたらめを言うな!」


 しかし国王は、宰相には冷ややかな視線を向けるだけだ。


「でたらめかどうかは、調べればすぐわかることだ。キャンベル、調査は?」

「ダリモア邸へは、すでに捜査のための小隊を派遣済みです」

「さすがだな」


 ラルフ王は満足そうな笑みを浮かべ、うなずいた。一方の宰相は、苦虫をかみつぶしたような顔をしつつも、何やら忙しく考えをめぐらせている様子がうかがえる。


「おおかたカスバートが無事に王太子に指名されたら、用済みのわたしを『病死』させるつもりだったのだろうな」

「ありえませぬ」


 宰相は即座にきっぱりと否定した。だが国王はただ眉を上げて、肩をすくめただけだった。


「ああ、そうそう。お前が『親しく』していたギルト帝国の皇弟は、失脚したよ」


 いきなり話題が変わり、宰相は眉をひそめる。だが国王の言葉が頭に染み渡ると、すとんと表情が抜け落ちた。


「皇帝暗殺を謀った疑いが持たれている。わたしの暗殺未遂と、手口がまったく同じだったらしいな。パルトン大公国のダライアス・ファレル卿が皇帝の側近に伝手を持っていたので、卿から側近を通じて皇帝へ情報提供してもらった。とても感謝されたよ」


 つまり宰相モーガン・ダリモアはギルト帝国の皇弟と内通し、カスバート王子を傀儡かいらいとして王位の簒奪さんだつを目論んでいたのだ。しかし内通相手である皇弟が失脚したことで、こうした悪事がすべて白日のもとにさらされることになった。


 ラルフ王が話している間に、入り口から数人の騎士が入ってきた。それぞれ会場内に散っていき、貴族に声をかける。声をかけられた貴族には、フィッツシモンズ子爵とブルフォード伯爵が含まれていた。そしてルシアンも。


 騎士たちは、声をかけた貴族たちとともに夜会ホールを出て行った。彼らの動きを見れば、騎士団は完全にゴードンの指揮下に置かれていることがわかる。


 ゴードンとダグラスも、それぞれ宰相とカスバート王子に小声で何かささやいた。宰相も王子も、ささやきに対して何も反応を返そうとはしなかったが、こうべをたれ、おとなしく二人に伴われてホールを出て行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ