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EDGE LIFE  作者: 如月 巽
Case.04 心情
79/98

【訣別】

※疾風の一人称視点になります

 今の俺が見ている夢は、自分の記憶の中の良い部分だけ集められた場所。そんなの、居心地が良いに決まってる。

 しかも、ご丁寧に疾斗の事と請負業の事だけを避け置いて、伊純と過ごしていた時間だけを魅せられ続けていたなら、尚のこと。


【記憶情報改竄】

 対象者の記憶を弄(いじく)る事ができるという事が、こんな恐ぇモンだとは。

 精神面に大きく作用する物の中では症例数が少ない能力で、俺の知っている能力者だと、前任の南都管理責任長が発症し(持っ)ていた。

 発症者本人が「人を生かしも殺しもする」なんて言ってたが……喰らった今だから、よく解る。


 物置部屋の電気を付ければ、何となく見覚えのある配置で色々な物が積まれていた。

ただ、俺らの武装具や親父達が残した資料を入れてある棚、いつも着ているコートは無い。

 俺が使っていた得物(モン)が全然思い出せねえのは、既に記憶から弾かれたせいかもしれねえが、扉を閉めてあるおかげか、匂いはしてきていない。


 [自分の夢の中だと認知すると、自由に動くことが出来る]なんて話が昔からあるが、まさか本当に出来るとは。

 そもそも普通の夢じゃ無いから出来たのかもしれねーが……今はそんなことどうでもいい。


 疾斗に会った事で多少戻ってきた記憶を頼りに、あいつの武器が入ってるアタッシュケースを探す。


 伊純が消(・)え(・)た(・)のは、俺達が二十代前半だった頃の事。

 窓硝子に写っている姿は三十二歳(今)の俺だが、リビングや疾斗の部屋は十一年前の配置。

 今いるこの夢の中は昔(・)の(・)配(・)置(・)で(・)置(・)か(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。


(渡辺 優なんて奴は知らなかったが、あの顔(ツラ)は覚えがある)

確かヤツは……ああ、そうだ。間違いなくアイツだ。

伊純の髪の長さが疎らだったのは、ヤツと俺の記憶に差異があったからか。

今回の依頼に関係していたとか、なんつー因果だ。


「疾風ー?」

 物音に気付いたのか、伊純の声が廊下から聞こえる。

 足音が一歩、また一歩と近づいて来ると同時、また甘ったるい匂いが部屋に入ってくる。


(くそ、何処だ…)


 眼の熱は落ち着いちゃいるが、いくら夢の中といっても、使い過ぎたらどんな影響が出るか判らねえ。

かと言って闇雲に漁っても鞄が出てくるかどうか。

 一か八か。左眼に意識を向けた瞬間。



─ プツン



 胸元から何かが落ちた感触。思わず目を開けて見れば、二つ下げていたロケットのチェーンが片方切れている。

 何処に行ったのかと床を見回すと、股下を抜けていったのか、数歩後方に転がっていて。

 拾おうと身体を屈めたら、探していたケースが埋もれていた。


……偶然、だよな?


ロケットと一緒に金属製の鞄を拾い出し、重い蓋を開ければ、そこには小さな回転弾倉式(リボルバー)銃が入っていた。


─ ガチャ


「疾風?寝てたんじゃないの?」

「あぁ。ちっと探しモノ」


ノックされる事なく開いた扉。

鼻につく匂いに耐えながら、探し物をする振りをして弾倉に弾を込めていく。


伊純(あいつ)は、黙って部屋に入ってくる事なんてなかった。


「何探してるの?一緒に探そうか?」

「あー……」


探している物を答える前に可否を聞いてくることもなかった。

こちらが答えてから、大体の場所を示してくれるか可否を訊ねてくるのが常だった。


「いや、良い。見つかりそうにねえし」

「そんな事ないわ、一緒に探せばきっと」

「見つからねえよ。絶対」


 探すことを諦める俺に驚いた様子の伊純(虚像)が、また一歩ずつ近づいて来る。同時に、甘い匂いが呼吸をまた乱してくる。

 振りを続けて身体を丸めたまま、右手で握った銃を左の脇下に隠す。


銃口を、背後の気配に向けて。


「疾風?どうしたの、何か変よ?」

「どんなに探しても、伊純は、この世にもあの世にも居ねえんだよ」

「……な、何言ってるの?私は此処に居るじゃない」

「お前は、俺が知ってる伊純(あいつ)じゃない」


口にしたくなかった。

そう思ってしまうのは、一時でも救われてしまった自分が居るから。

現実だと信じたくなってしまった自分が居るから。


「疾風、アナタさっきからずっとおかしいワよ?!どうシチゃったノ?!」


 引鉄に指を掛けて、甘ったるい空気の中、深く息を吐く。

自分が、自分で、この幸福(残酷)な夢を終わらせねえと。


「消え失せてくれ」

最悪な夢(その顔)は、もう見たくねェから。


躊躇いを捨てて引鉄を握り込む。

ヒュッと息を吸う様な音が耳を抜けて間もなく、ドサリと重い音が背後から聞こえた。

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