【東都 中央地区α+?】 ※疾風視点
「疾風ー、何かつまむ?」
「あー…?さっき飯食ったばっかだろうよ」
「だって駅前で評判のケーキ買ってきたんだもん」
「変なところで遠回しなヤツだな。素直に食いてえって言やァ良いだろ?」
聞こえる問い掛けにテキトーな返事をしてテレビを眺めれば、画面の向こう側で男のモデルが新商品らしい缶コーヒーを一息に煽る。
世の中には似た顔の奴が数人居る、なんて言葉が旧国時代からあるが、この紫頭は随分と俺に似ているような。いや、気のせいか。
「だってー、疾風も食べたいかなーって思ったんだもの」
キッチンから顔を覗かせた嫁が、一瞬だけ視線を逸らして唇を尖らせる。
「不細工なアヒル」とでも言ってやろうと思ったが、揶揄うのはこんなモンにしといてやろう。あんまり弄って機嫌損ねられると、何されるかわからねえし。
一緒に食うよと苦笑って言えば、子供のように朗らかに笑って意気揚々と冷蔵庫を開けて箱を取り出す。
こんな穏やかな時間を過ごすのは、いつ振りだったっけか。かれこれ何年もこんなことはなかった様な気がする。
……いや、そうでもなかったか?
記憶が昔よりも曖昧になったもんだ、脳筋と言われる前に少しは頭の運動もしたほうが良いかもしれない。
今の俺でも出来そうなゲーム、一つぐらいもってねえかな、アイツ。
─ アイツ、って誰だ?
頭の奥が疼く感覚に首を振って、周りを軽く見る。
左眼を使うほどの事じゃない。俺ら以外の人間がいる気配もないのに、能力を使ったところで無駄に消耗するだけだ。
「どうかした?」
「あー……軽い立ちくらみ。ずっと座りっぱなしだったから」
俺の返答に首を傾げて、嫁さんは食器棚から皿とカトラリーを取り出す。後ろを向いている内にもう数回ほど頭を振ってみるが、妙な感覚は拭えない。
深呼吸をしようと目を閉じれば、言葉にし難い僅かな色光と墨色に沈む。
時間をかけて酸素を送り込んで息を抜いていけば、僅かに上がっていた心拍が落ち着きを戻していくような感覚を覚え、微かに安心して目を開く。
「ねえ、本当に大丈夫…?」
席につかない俺が気になったらしい。
隣に立って顔を覗き込んでいる茶色の瞳が不安げに伏せられる。
柔らかい頬へ手を這わせて笑えば、笑みを返して手を掴み席へ座るようへと促されて、いつの間にか皿に盛り付けられていたスイーツに目を向ける。
「……二種類しかねえの?」
「え?どうして?」
「いや、アイツの分は無えんだなと思って」
「アイツ、って?」
口から出た言葉に疑問符をつけて返され、俺自身もどうしてそんな言葉が出たか分からずに首を傾げる。
─ アイツ、って誰だ?
最近まで、会って話していたはずなのに。
最近……?
いや違う、つい何日か前にも話してる。
何かが押し込まれているように、頭が疼く。それ自体に痛みはない。
口にした言葉の答えを探そうと思考を巡らせるほどに、脳内へモヤが掛かっていく感覚。
体内の気道も血流も無理やり堰き止められているようで、呼吸も辛くて気分が悪い。
「疾風、ねぇハヤテ、大丈夫!?」
─ お前 は ダレ なん だ




