東都 中央地区α+ 一月二十一日 午後九時三十八分
マスターカードキーをリーダーへと通しエレベーターへと乗り込み、生体認証用スリットへ指を滑らせる。
階数ボタンを使いパスコードを入れれば、普段では見る事のない地下階が表示され、扉が開かれる。
白灰色のコンクリートが打ちっぱなしとなっている部屋は広く、医療機材と簡易ベッドが数台が置かれている。
黒衣を羽織った疾風は携帯端末をプロジェクターと遠隔カメラへと繋ぎ、実弟の番号をコールしながら白布を掛けた数台のベッドの前に立った。
「よぉ、そっちはどうだ?」
『最低で最悪だ。否応無しに引き受けさせられた』
『アレ、依頼じゃなくて命令だよね。無駄に強請られるし、こっちは丸腰なのに囲まれちゃうし』
「なら俺が行かなかったのは正解だな。話し合いすら出来なかったかもしれねェし」
『…いっそその方が良かったがな、俺は』
実弟は片眉と口角を下げて面倒そうに首を振り、斑鳩は肩を竦める。
画面の向こう、疾斗が服に仕込んでいたらしいレコーダーを取り出し、会話の再生有無を首の動きで問いかけられ、再生を促す。
二人に労いの言葉を掛け、画面越しに提示された依頼書を書き写し始めれば、時に怒声の混じる会話が聞こえ始める。
「──…連絡取れねえのが東都でのさばってる分家の三人、か…」
男が依頼内容を口早に話し終えると同時、部下らしき複数の足音がなだれ込む。
武器を突きつけられた瞬間なのか、複数の金属音が疎らに響き、疾風は僅かに身体に疾った緊張感に薄く笑った。
「随分やり方が荒くなったな。真っ当なヤツだったら嫌いじゃねーけど」
『先代は話を聴く耳があったが、当代にはない』
「上変われば下変わる、ってか。悪い方に行ったモンだ」
鼻で笑いつつ流される会話から要点らしき言の葉を、写し終えた依頼書の備考欄へと書き綴る。
再生を止めるように手を差し出せば、下卑た笑い声がぴたりと止み、静寂が落ちる。
空席の寝台へバインダーに置きながら冷却装置のスイッチを切り、被さっている白布を引き外す。
「生憎、どの三人だか判らねえわ」
『何々、随分愉快な屍体達だねぇ』
各々肉体の一部を喪い、共通して頭は無傷で遺された変死体に興味をそそられたのか、プロジェクターから映し出される映像一杯に斑鳩の顔が写る。
突然の事に驚きリモコンを取り落としそうになるも、一拍遅れて疾斗が引き剥がしたのか、画面には再度二人の姿が戻った。
『疾風君ずるいなぁ、面白そうな事独り占め?』
「Φのお偉いさんが適当コくから俺が検死してるだけだ」
『どっちにしろボクの分野じゃないかー。ねー疾斗君、今からあっち行っちゃダメ?』
歳がさして変わらぬ筈の男が許可を求めるが、ソファに座る実弟は、眼鏡奥の両紫眼を眇めて僅かに首を横に振る。
斑鳩が大袈裟な動きで肩を下げて項垂れて見せるも、疾斗の無表情が変わることは無く、下手な笑かしよりも面白いやり取りに、疾風は喉奥で笑った。
「結果が来たら真っ先にお前に送ってやる。ちと気になるコトもあるしな」
『警察より先に頂戴ね?』
膨れ面になったまま小首を傾げる斑鳩へ頷き、疾斗と入れ替わるよう促す。
鼻歌交じりに「こうたーい」と笑う男に呆れた様子の疾斗が画面内に収まる。
耳を示し通話モードへ切り替える様に指示をすれば、スクリーンは黒く染まり、部屋に薄暗さが灯った。
『遺体はいつ』
「昨日だ。推定は二一〇〇から二一一五。分家の奴らが街に出る時間帯だ」
『……狙ってやっているのは確実そうだな』
「しばらく情報は伏せてそっちを泳げ。何か分かり次第連絡は入れる」
『分かった。状況次第では動くが構わないな』
「事後連絡で構わねえ、許可する」
淡々と会話を交わし、疾斗から通話が切られる。
単調な信号音を聞きながら、目を閉じさせた屍体を左眼で眺める。
幾度視直そうとも、肉体を潰すほどの抉り傷を創り出した物質は見つけることが出来ず、疾風は舌打ちを低く響かせた。
依頼人 飛雅 剛
内 容 飛伽組組員の捜索 及 敵対者の排除
期 間 排除完了迄
受諾人 新堂 疾斗
斑鳩 和樹(新堂疾風 公認代理)




