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Notice-code:Ω -scientist-  作者: 霧島宇宙
CATASTROPHE

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ECLIPSE

 今回もよろしくお願いします。

 アルキオーネとともに、周りに控えていた6人の配下たちも一斉に動き出した。

 アズラエルはシグルドと戦っているし、ヴァサーゴはアルキオーネの相手だけで精一杯だ。ジブリルも青いローブを着た少女の相手で手が開かない。ソフィ、ラミィは灰色の鎧の戦士にかかりきりだ。マルクス、パルケウチカもそれぞれの相手と戦っている。

 僕が相対すべきは⋯。

「貴様らが何事もなく平穏に暮らしている間、私はこれだけの組織を作り上げたのだ!お前たちでは勝てんぞ、どうするヴァサーゴ!」

 アルキオーネはあと少しで長年の悲願を成せそうな高揚感から、半ば発狂状態だ。

「仲間ではなく洗脳だろう!よりにもよってこの2人が⋯、貴方の目的になど賛同するはずがない!」

 僕はアルキオーネを挑発しつつ、僕と対峙する緑色のマントを羽織った剣士を見つめる。それに、あの青いローブの少女もだ。魔力の色も質も今までとは全く違う。しかし、魔法の癖や重心の置き方からはっきり分かる。間違いなく、この二人は⋯。

「アルキオーネ!貴様、ホードヌイ将軍とシルベライセン将軍に何をした!」

「違うな。もう彼らは過去を捨てた」

 どういうことだ⋯!ますます洗脳魔法のタネがわからなくなってきた。

「私はホードヌイなどではない。私はオミノス・レピーダ第4席、翠剣士(すいけんし)プラウダだ」

「違う!貴方はアスターテ王国前衛将軍、“砕剣“のキリルだ!」

「そんな男はもういない!」

 恐ろしい濃さの殺気だ。まさか、先生の怖さを自ら知ることになるとは。

 とにかく、こうなったらもう何が何でも倒すしかない。この中で今の先生の剣を最も近くで見ていたのは僕だ。先生は僕にしか倒せない。

 ヘルメットを戻し、背中のスラスターを起動する。ストレイフモードでは弾速が先生に追いつかないだろう。

『極超音速加速《ハイパーソニック・ブースト》』

 まっすぐ切り込み、先生に水平に斬撃を浴びせる。先生はそれに切っ先を合わせ、わずかに軌道をそらして体の軸を狂わせる。稽古でもよくやられる技だ。瞬時に先生の剣の向きを確認し、それとは逆の方向に身体をひねってすれ違いざま無防備な側の身体を斬りつける。素のスピードではこの処理は間に合わないがアーマーありならギリギリ対応できる。

 急制動をかけ、反対側に加速して再び先生を斬りつける。持久力、パワー、技術では圧倒的にこちらが劣る。先生が僕のスピードに追いつけない内に、いかに早く戦闘不能に追い込むかが勝負だ。

 だが、僕が想定していたより壁は分厚かったらしい。

 10合ほど斬りつけたあともう一度攻撃しようと全速で懐に入り込んだ瞬間、先生の指が僕の刃をつかみ、ピタリと止めた。

「嘘だろ⋯」

 僕の全速力はマッハ10。一部の悪魔なら目で追うこともできるが、生身の人間は普通目に映ることもない速さだ。先生ならもしかしてと思ったが、まさかこんなにも早く適応するとは。

 先生は刃をつまむ指にさらに力を込める。そんな馬鹿な、STVSは魔力鉱製____

「10代にしてはよくやる方だった」

 先生のその言葉とともに、STVSの刃が音を立てて砕け散る。僕はその柄を手放し、一度距離を取って収納魔法から普段使い用の拵のSTVSを取り出す。予備の一振りはヴェパルとの戦闘で摩耗がひどい。取り敢えず今はこれしか代えがない。

 スピードを見切られた以上、このまま普通に先生と戦っても勝ち目はないだろう。ならば最終手段だ。ここから離脱し、最大出力のインフェルノ・ブリッツで王都ごと焼き払う。

 総員撤退を呼びかけようと、ヴァサーゴの方を見たとき⋯、彼の胸をアルキオーネの剣が貫いていた。


 * * *


「アルキオーネ、お前の魔法は戦闘向きではない。そちらこそ私には勝てん、おとなしく降伏しろ」

 アルキオーネの固有魔法は"視心(ヴィジョン)"。目を合わせた相手の記憶を読み取る、まさに心を見通す眼のような魔法だ。精神の強さなど関係なく敵の間者から情報を抜き取ってしまう諜報能力から、彼女には情報将軍"心眼"のレーレライという二つ名がついていた。

 風の斬撃を空中に留まらせて大剣を受け止めたヴァサーゴがアルキオーネにそう呼びかける。

「さあ、それはどうかなあ!」

 大剣の質量と自らの膂力で、その刃をジリジリとヴァサーゴに押し込んでいく。

「ほらほらどうした?戦闘向きではないはずの私に押されているじゃないか!」

 ヴァサーゴは大剣の腹から風を吹かせて横に払い、空いた胴体に斬撃を叩き込む。

「この17年間、私は必死に鍛錬を重ねた。それこそ死ぬ気で己を鍛えたのだ。それも全てこの国を壊すためになあ!」

 低い位置で大剣を薙ぎ払い、その勢いのまま跳んで大剣を避けたヴァサーゴに上から強烈な一撃を浴びせる。ヴァサーゴは致命傷だけは間一髪で免れたが、背中に食らった上に大きくバランスを崩してしまった。

 アルキオーネがその隙に再度接近して突きを繰り出すと、ヴァサーゴは全方位に風を吹き出してアルキオーネを吹き飛ばした。

「衰えたな、ヴァサーゴ!」

「まだまだ現役だよ、アルキオーネ!」

「ならばこれでも倒れぬか?!」

 アルキオーネは扉を開くような手印を切る。

「まさか…」

 ヴァサーゴが身構える。

『神稀解放 プレヴィジオーネ・ケストレル』

 白銀のチョウゲンボウの結晶体が、アルキオーネの肩に留まる。顔には眼のような魔法陣が現れている。

「アストラル魔法、使えたとはな」

 わざわざアストラル魔法の有無を開示する必要もないほどレーレライもといアルキオーネの能力はアスターテでは高く評価されていた。ならば使えると言いふらすメリットは何一つない。

『神稀解放 シュトゥルム・スティラクス』

 ヴァサーゴに玄廻眼の能力はない。アルキオーネがどんな魔法を使ってくるか分からない現状、行動不能になるリスクを負ってでも一撃で仕留める他ない。

 アルキオーネを含む前方に巨大な真空を展開するが、不自然なことに全く手応えがない。

(ならば⋯!)

 ヴァサーゴは周囲にいくつもの真空を作り出すが、それらも明確にそれらしき魔力の塊を捉えた感触はなかった。

「どういうことだ⋯?」

『岩魔法・ゲンブ』

 アルキオーネが巨大な岩の棘とともにヴァサーゴの足元から這い出てきた。

「なっ、しまっ⋯」

 致命傷になるような棘は避けたが、右足の甲を刺し貫かれて動きが取れない。どうやら岩魔法で地中をえぐり抜いて来たらしい。

「ようやく…、ようやくこの時が…!」

 そのままアルキオーネは大剣をヴァサーゴの胸に突き刺した。

「私のアストラル魔法はリアルタイムの思考を読む魔法。貴様が何をしようと、私の視界に入っている限りすべて私に筒抜けだ」

 大剣をヴァサーゴの胸により深く押し込む。

「えーっと、何だ?『私には勝てん』だったか?その言葉、そっくりお返ししてやる」

「だが…、お前も…、ただでは…!」

 ヴァサーゴはアルキオーネの腕をつかみ、自らの方へ引きずり込んだ。


 * * *


 何ということだ。アルキオーネはこの状況になることをおそらく17年前から想定し、絶対に勝てる状況を作り出したのだ。現に今、僕の目の前でもっとも守られるべき国王であるヴァサーゴが死に追いやられつつある。

「イスラフェル!やれ!」

 一瞬全てが止まったが、すぐに僕は思考を取り戻した。アルキオーネはたった今アストラル魔法が切れて大きく損耗している。負傷もゼロではない。それに、ヴァサーゴがアルキオーネをつかんでその場に縛り付けている。例えヴァサーゴを失っても、彼女を殺すには大きく弱った今しかない。

『極超音速加速《ハイパーソニック・ブースト》』

 実の姉がどうした。彼女自身は違うだろうが、物心つく前に生き別れてるならそれはほぼ他人だ。今僕の目の前にいるのは疲弊しきった国家反逆者でしかない。

 アルキオーネに急接近したその瞬間、僕とアルキオーネの間に一人の人間が割り込んだ。

「?!」

 加速の途中ギリギリで交わしたが、マッハ3は出ていた。さすがに元の軌道には戻せない。そのまま地面に剣を突き立てて急制動をかける。

「リリー殿下、何をなさるんですか!早くそいつを仕留めないと…」

 リリーは振り返り、アルキオーネに向かって手のひらをかざす。

『生命の叡智(アーユルヴェーダ)』

 ボロボロだったアルキオーネの体がみるみるうちに修復され、ものの数秒で魔力も肉体も全回復してしまった。


 なぜ…?…内通者は…一人じゃない…?


「あ…姉上…」

「リリー殿下…」

 アズラエルとジブリルもかなりの衝撃を受けた顔だ。

「ちょっと前にアルキオーネ殿から取引を持ち掛けられたの。ある条件と引き換えに、私の魔法を使わせてくれないかって。アズ、あなたはとてもいい子だわ。父上も母上も私にとってはかけがえのないものよ。でもその条件とはあまりにも釣り合わな過ぎた」

 リリーは僕に振り返った。

「仮面を取って、イスラフェル。あなたの顔が見たい」

 断る理由もないだろう。今は刺激しないほうがいい。

「私は治癒の神ヘリオスの最高眷属。あなたは…、創造の神ブラフマーの最高眷属だったかしら?」

「なぜ、それを知っている…!」

「前世から、ずっとずっとあなたを追いかけてきたの。イスラフェル…いいえ、ヤクモ。藤沢(フジサワ)八雲(ヤクモ)、あなたをね」


 …は?


 …なぜだ。なぜ知っているんだ。僕の前世の名を…!


「ようやく手に入るの。あなたと私の、幸せな人生が…」

 リリーが僕に歩み寄り、顔に触れる。

「…アイリス!」

 すべて理解した。リリーの前世は…!

「アイリス・ティアストーン…!」

「うふふ。大正解!」

 ならばなぜ裏切る。なぜ僕らを阻む!なぜ、なぜ、なぜ…!

「…こういうことだ!」

 いつの間にか後ろに回り込んでいたアルキオーネが、僕の首筋に手を当てている。

 完全にはめられた。アリシアは僕の気をそらすために…!

『ドミネート・シェドゥーヴル』

 呪文とともに、アルキオーネの手のひらから紅い魔力がほとばしる。そして、脳みそを手で握りつぶされるような感覚とともに魂が書き換えられていく。













 駄目だ。抗え。抗うんだ。


 抗……え……



































 マス⋯ターの…ため…に…














































 読んでくださり、ありがとうございました。


 文字数的にもかなり長いですが、ここまでは絶対に1話分に収めなくてはと思い、気合いで押し込みました。正直イスラフェル視点を一人称で描いてたのはこのシーンをこう表現するためというのが2割くらいあります。けっこう自分的にも自信を持てる仕上がりになったと思いますが、どうだったでしょうか。


 次回から新章スタートです。ぜひお楽しみにしていてください。

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