HOPESTARⅢ
今回もよろしくお願いします。
ヴァサーゴはケルビムに一瞬目線を送り、その後2人でトルーパー・レギオンの包囲網を飛び越えた。そして動きが鈍いカイザー・レギオンの巨体そのものを盾にしながら斬撃を放ち、なんとかトルーパー・レギオンを一掃した。
「おっと、それじゃ隠れられてないよ」
アルクトゥルスは一見するとヴァサーゴたちからは外れた方向にレーザーを放った。しかしその射線上にあった瓦礫に当たった瞬間突如光線が曲がり、ケルビムですら反応しきれない角度からヴァサーゴたちに振りかかる。先程までレーザー加速器だった瓦礫の中のプリズムでレーザーを屈折させたのだ。ヴァサーゴもケルビムも深手を負わされたが、ヴァサーゴが展開していた竜巻で減殺されなければ二人ともケガだけでは済まされなかっただろう。
「何で君たちはまだわからないんだ!私は今まさに人類の未来を変える研究をしているのだぞ!」
だめだ、国王たるヴァサーゴがこんなところで膝をついてはいけない。
「命を奪った末に得られる未来など碌なものではない。尊厳を踏みにじりながら私欲のため未来を欲する貴様と、守るべき民のために未来を引き寄せる私とでは背負うものが違う!」
立ち上がれ。あと少しでいい、力を振り絞れ。
「もうやめてくれよヴァサーゴ、私は友を殺したくない」
体の奥底から湧き上がる魔力を、もう一度全身にいきわたらせる。コントロールが難しいんだけどな…」
まだだ、まだ戦える。ヴァサーゴはそう自分に言い聞かせた。
『神稀開放』
『神熙解放』
両者とも、同時に手印を結ぶ。
『シュトルム・スティラクス』
ヴァサーゴの後背に萌黄色のスティラコサウルスの結晶体が顕現した。
『ペガサス・イカリオス』
アルクトゥルスには白銀の魔力をまとった天馬の結晶体が付き従う。
「これで終わりだ…!」
「お前がな…!」
アルクトゥルスは周囲のあらゆる電磁波を一転に収束させ始めた。極限まで圧縮・増幅したエネルギーを一気に解き放ちあらゆるものを吹き飛ばす魔法だ。この場所で起爆すればアル=イスカンダリーヤの半分は焼け野原と化すだろう。だが最後に開放する一瞬に生じたアルクトゥルスの油断を、ヴァサーゴは見逃さなかった。
アルクトゥルスの周りにヴァサーゴの起こした風の斬撃、いや、粒子の波ともいうべきエネルギー派がが完璧な真空を作り出した。
光とは波であり、粒子である。空間中の粒子、あるいはエネルギーを介して伝播する。しかしいくら宇宙で最も普遍に近い存在とはいえ、周りに粒子レベルで何もないと波も粒子も消え去って存在できなくなる。
数秒ののちヴァサーゴの術式が切れると、そこにはアストラル魔法の反動で立つこともままならないアルクトゥルスがいた。髪も銀から黒に戻っている。絶対零度の真空でも数秒間生き延びるとは、やはりアスターテ最強の魔術師だけある。
「私は…負けたのか…」
「そうだ」
ふと見ると、カイザー・レギオンも活動を停止していた。ケルビムがなんとか倒したのだろう。
「もう…、今となっては何もかも無意味になってしまったのかもしれない…」
二人はほぼ同時に地面に座り込んでしまった。
「私はどこから間違っていたんだろうな…。ただ…ただ、皆を守る強さが欲しかっただけなのに…」
涙が一筋、アルクトゥルスの頬を伝う。
「…ようやく、頭が冷めたかい?」
「ああ、もう取り返しはつかないな…」
アルクトゥルスは最後の力で背後にあったカプセルを開け、そこから白い布に包まれた何かを取り出した。
「おととい、生まれたんだ…。男の子だ…」
布を一部めくると、そこから戦場にはおよそ似つかない天使のような赤子が顔をのぞかせた。
「プルケリマとは…、事が始まる前に縁を切って逃がした…。この子が私の最後の家族になってしまったよ…。この子を、君たちに託す…」
アルクトゥルスは赤子をヴァサーゴに丁寧に手渡した。
「そうだ、名前を付けてくれるか?」
「ああ、勿論だ。そうだな…、”アルビレオ”とかどうだ?」
「希望の星か…。良い名だ…」
アルクトゥルスの傷から流れ出す血の量が格段に増している。もうあと数分も保たないだろう。ヴァサーゴの目からも大粒の涙がこぼれている。
「これだけは…、伝えて⋯おいて⋯ほしい。迷惑を、かけた…、すべての人に…『ごめんなさい』と…。いつか、アルビレオが…私の⋯ことを、知る時が⋯来たら…、”愛してる”と…。あと…、ヴァサーゴ…、ケルビム…、今まで…ありが…と…う…」
それきり、アルクトゥルスが目を覚ますことは無かった。
* * *
「…私はその場にアルクを埋葬し、地下空間を固く封印した。その存在が明るみにならないよう屋敷を質素なものに造り直したのち、安値で民間に売りに出した。友の死に場所をこれ以上荒らされたくなかったのだ。アルビレオはそのあとケルビムが自ら引き取った。その後の人生にあったであろう輝かしい富も名誉も名声も全て捨てて、後継者のいなかった辺境の弱小貴族に養子入りした。そして名をイスラフェルと改め、17年間育て上げたのだ」
そうか…。そうか…!これですべてがつながった。キリル先生が「文句なしに最強」とまで断言した父さんが、なぜまともに出世もせずに地方貴族として暮らしていたのか。なぜ家族で僕だけ黒髪で、魔法の素質があったのか。なぜ僕とレーレライ、いや、アルキオーネだけがあの屋敷の扉を開けることができたのか。それは一重に僕がアルビレオ・フォン・アルフェラッツで、父さんはもしもの時のために僕を護っていたからだ。
「お…弟、なのか…?」
アルキオーネがにじり寄ってくる。
「最後に会ったときは、まだあんなに小さい乳飲み子だったのになあ。アルビレオか…いい名をもらったな…」
何があってもいいように、腰のSTVSに手をかける。
「17歳か…。こんなに大きくなって…」
アルキオーネはなおも止まらず僕に近づいてくる。
「なあ…、私たちの仲間にならないか…?一緒に暮らそう…!」
「…たとえ実の姉であったとしても、国家転覆に手を貸すことはできません。それに、僕にはもう僕の家族がいる」
一瞬ラミィとソフィの方に目を向ける。そういえばソフィにまだ返事してなかったなあ。これが終わったら正式に結婚を申し込もう。
「それ以上近づくな」
ヴァサーゴがアルキオーネの眼前に斬撃を飛ばし、動きを止める
「貴様は今重罪に問われておる。それ以上動いたら首を切り落とすぞ。立場をわきまえろ」
「奇遇だな。私も今目の前に痛めつけたくてたまらない相手がいるんだ。私の大切な家族を殺して実に17年ものあいだ引き裂いた、この世の何よりも憎い相手がなあ!」
アルキオーネは収納魔法から大剣を取り出し、ヴァサーゴに向かって切りかかった。
読んでくださり、ありがとうございました。
多分皆さんがもやもやしてることがあると思います。
「カイザー・レギオンとサジタリウスって同一個体なの?」
大正解です。43話、44話に登場したサジタリウスの正体はこいつです。ケルビムに破壊されたあと、アルクトゥルスの遺品をできるだけそのまま残しておきたかったヴァサーゴの判断によって、残骸は回収されずに地下空間に放置されました。しかしバラバラになってもカイザーレギオンの自己修復システムは機能し続け、16年が経つ頃にはほぼ完全に修復されました。それと同時に、ケルビムの凄まじく繊細な剣技を見たことから「弓だけでなく、より多くの距離に対応できるようにしなければいけない」と判断していました。
余分なものをそぎ落として強度と威力だけを追求した魔力弓と融合した武器腕から、5本の指を持ち弓以外の武装も使用できるより人間らしいシルエットに自身をアップデートしていました。それがイスラフェルが見ていた所謂「サジタリウス」の形態です。




