LOST FAMILY
今回もよろしくお願いします。
カラスの知らせを受け取ってすぐ、クリスタに謁見を申し込んだ。
「クリスタ陛下、申し訳ありません。急用のためアズラエル殿下とともにこれよりしばしアケメネスを空けることをお許しください」
「許可しましょう。しかし、突然どうしたのですか?」
「詳しくはわかりません。ですがもしかするとアスターテだけでなくダゴンの未来にまで関わることやも…」
「なるほど…、ほとぼりが覚めたら私たちにも幾分か情報を分けていただければありがたい」
このぼとぼりは覚めるかどうかわからない。
「御意。失礼いたします」
僕は迎賓館に戻ってすぐアズラエルに声をかけた。
彼ももう成人、なおかつ軍に大きく関わっている。それに僕と同等の戦闘力がある。レイヴンの事を知っても問題無いはずだ。
ゴタゴタを避けるためアズラエルの部屋の窓をノックする。
「殿下、いらっしゃいますか。イスラフェルです」
「ああ、何かあったのか?」
アズラエルはすぐに窓から顔を出した。
「今すぐにアル=イスカンダリーヤに発ちます。私もまだ何が起こったのか分かりませんが、おそらく殿下のお力が必要になるかと」
「クリスタには?」
「確認済みです」
「…わかった。すぐ支度する」
身なりを整えたアズラエルに近づき、懐から本部への転送用の魔法陣が描かれた小さな紙を取り出す。
「半径1メートル以内から離れないでください。そこから外は範囲外です」
アズラエルは恐る恐る僕のとなりに立った。
「では、行きます」
魔法陣に魔力を通す。いつもの一瞬落ちるような感覚のあと、目の前には石造りの壁と扉があった。僕はカラスのバッジを胸につけ、レイヴンの軍服に姿を変える。
「アズラエル殿下、アスターテ王国軍親衛隊独立作戦大隊・レイヴン本部へようこそ」
「レイヴン…?」
「まあ、簡単に言えば汚れ役です。詳しいことはあとで説明します。ですが存在自体が機密事項ですのでご配慮お願いします。それは置いておいて今はまずアル=イスカンダリーヤで何があったのか知りたい」
アズラエルは頷き、扉をくぐり抜けた僕についてくる。
本部の中は書類の山と人の波でパニック状態だった。
「いつもこんな感じなのか?」
「いえ、ここまで忙しいのは魔物戦争ぶりでしょう」
「まさにそれだ!」
波をかき分けてレーレライが資料を手に駆け寄ってきた。
「1年前と同じくらい、何ならそれ以上の数の魔物の大群が突然王都に攻めてきた。…いや、"現れた"という方が正しいだろう。王都は制圧され、ホードヌイ将軍とシルベライセン将軍は消息不明。パルケウチカ将軍は合流済みだ、っと…、アズラエル殿下、失礼しました」
僕のとなりにアズラエルがいることに気づき、レーレライは一度跪いた。
「いや、よい。気にせず話を続けて欲しい」
「ここにいらっしゃる、ということは…つまり…」
「ええ、私が殿下はすでにレイヴンについてもご理解していただける段階にあると判断し、お連れしました。そして何より殿下のお力はいざという時に頼りになるかと」
「殿下…、申し訳ありません」
レーレライはもう一度深く頭を下げた。
「我々がそばにいながら、ヴァサーゴ陛下を王都から救出することがかないませんでした。責任はすべて私にあります。どのような罰も甘んじて受け入れます」
なっ…。
「それは…、確かなのか?」
「は。恐らく陛下は未だアル=イスカンダリーヤの中にいらっしゃると思われます」
「救出は…、父上の救出作戦は…!」
「殿下、恐れながら…。こちらをご覧ください」
僕が近くの山から手に取ったのは城壁の上から撮影されたと思われる魔導写真。辺り一帯地平線まで魔物で埋め尽くされている光景だ。
「これではたとえ10万の兵でも陛下の救出はおろか近づくことすら…」
「うるさい!今すぐ軍を編成するんだ!父上を助け出す!」
「落ち着きなさいアズ!」
リリーだ。ちゃんと脱出できたらしい。すぐそばにカタリナ王妃もいる。
「感情にのまれてはいけません!今はできるだけ早くアスターテ中の軍を集めるのが先でしょう!話はそれからよ!」
「ですが、姉上…!父上が…!」
「そんなことは分かっています!だけどここであなたまで失うわけには行かない!」
アズラエルはハッとしたようで、少し落ち着いた。
「すまなかったイズ、つい当たってしまった」
「いえ、お気になさらないでください。心中お察しいたします」
「なあイスラフェル、これからどうしたらいいと思う?」
レーレライがうなだれたように言う。
「ここ1週間、私宛に鳩飛ばしてました?」
「ああ、毎日欠かさずな」
「アケメネスでは私は1週間前から一通も鳩を受け取っていません。恐らく奴らの仲間の飛行型の魔物にやられてると見て間違いないでしょう。その場合、我々は今アスターテ全域の制空権と通信の優位を完全に失っています。まあ簡単に言えば詰みですね」
「サイエンティストを呼べないか?彼なら空を飛べばなんとかアル=イスカンダリーヤまで行けるんじゃないか?」
「無理でしょう。サイエンティストは燃料を空気と一緒に燃やし、爆発させた反発を受けて空中を飛んでいます。この数の魔物の中を飛べば、すぐにノズルに入り込まれて魔道具全体が大爆発を起こしますよ」
「そうかあ…」
「地面の下から行くのはどうだろう?」
ふと、アズラエルが呟いた。
「いえ、それも難しいでしょう」
遮ったのはレーレライだ。
「アル=イスカンダリーヤの城壁は地下10メートルまで続いています。それ以上深く掘るとなると時間もかかるし測量の精度も落ちるし、そんな大規模な土属性魔法を扱える魔術師は今アスターテには…」
「いや、それなら行けるかもしれません」
「と、言うと…?」
まさかアズラエルが良いことを思いつくとは。
「僕なら15秒あれば3キロくらいの長さのトンネルを掘ることができます。ただし、かなり荒っぽいやり方になるのでトンネル自体は持って5分程度でしょう。ですがその5分の間にサイエンティストの力を借りてトンネルを通り抜ければ問題ありません。ただ…」
「どうしたんだ?」
レーレライが食いついてきた。
「それで運べる人数はせいぜい10人程度でしょうし、確実な帰り道もありません。城内でシルベライセン将軍を探し出してアストラル魔法で魔物をすべて溺れさせられれば問題ないのですが、将軍が今アル=イスカンダリーヤに居るのかも、今アストラル魔法を使える状態にあるのかも、そもそも味方かどうかも分からない状況です。城内に無数に悪魔が巣食っている可能性もあります。この策はほぼ確実に負ける分の悪い賭けですね」
「やらない後悔よりはやった後悔のほうがマシだろう」
アズラエルは食い気味だ。
「最悪なのは今残っている最高戦力全員で突っ込んで全滅するパターンです。そうなったら国の再建なんて夢は一瞬で立ち消えますし、半分の戦力を送るとしてもただでさえ少ない成功率が更に落ちるだけです。絶対にやらない方がいい」
「じゃあ父上はどうするんだ?」
「民はどうなりますか。私たちの肩には今アスターテ国民800万の命がかかっています。ヴァサーゴ陛下救出に全てを賭けた結果何もかも無に帰すか、いちど王都圏を離れてあなたが指導者として軍を整え王都を奪還するか、どちらが大事か指導者としてよくお考えください」
「父上を見捨てろっていうのか!」
「『見捨てろ』ではありません、『出直せ』です。子として父親を案ずる気持ちはよくわかります。ですが今この国で何が起こっているのか、ご自分が何をすべきなのかはき違えてはいけません。どうか今はご理解を…」
「父上だけじゃない!おそらくまだ城内には王都の市民もいるだろう!それを全て切り捨てるのがレイヴンのやり方か!」
アズラエルが剣に手をかける。
「我々の役目は第一に国を残すことです。例え当代の国王を喪うことになったとしても、国民のため、世界のためにアスターテを後世に残すためなら何でもします」
「だったらまず目先の命を救うことを考えろ!それができないのならこの国を残すなんて大それたことは絶対にできない!」
「…今身内で争っている場合じゃないでしょう。私だって妻と連絡が取れていないんです。私は先ほど感情は尊重すべきと言いましたが、感情にのまれろとは一言も言っていませんよ」
アズラエルは剣を抜いた。仕方ない、場を収集するためだ。
『物質創造』
手のひらの上に麻酔薬の針を生成する。
『麻酔針』
アズラエルの首筋めがけ、針を押し出すようにして加速させる。するとその直後、会議室の反対側から飛来した矢が針を打ち抜いて本棚に刺さった。
「両者そこまで」
そこにいたのは、クー・パルケウチカ弓術将軍だった。
読んでくださり、ありがとうございます。
前回のラストで大きく物語が動きました。というか、三分の二くらいは過ぎましたでしょうか。大きく状況が変わり、イスラフェルたちを取り囲む環境も大きく変わりました。
個人的な反省としては「学園」という彼らの青春の大半を占める重要な要素をかなり描き足りなかったのが悔やまれます。とはいえイスラフェル自身は良くも悪くも魔術学院を単なる通過点、自分の身分を保証するための機関としかとらえていません。なので主にイスラフェル目線で進行するこの物語においては、これくらいの描写にとどめる方がむしろ彼と同じ見方でこの世界を体感できるかなと思います。
とはいえ、まだまだ見せ場もあるのでこれからもNotice-code:Ω -scientist-をよろしくお願いいたします<m(_ _)m>。




