UNREASONABLE REQUEST
今回もよろしくお願いします。
* * *
まるで走馬灯のようにこれまでの人生の記憶がマルクスの頭の中を駆け巡った。
___今までに覚えたことを組み合わせて、マルクスだけの剣を作り上げろ___
___組み合わせて、剣を作り上げろ___
(・・・!)
兄の言葉がよみがえる。
(異なる属性の魔法を同時に起動できないのは常識。だがそれはヒトの肉体での話。構造を自由に作り変えられる人形の体であれば、もしかしてもしかするかも…)
斧を振りかぶったカルロを視界にとらえる。こうなったらもう最後の悪あがきだ。
(幸い俺には向き不向きはあるが全基本属性魔力の適性がある。火、水、風、岩、木、無…、使える素材と魔力を全て合わせて、新たな”剣”を作り出す!)
ようやく立ち上がったマルクスのボロボロの体が、突然大量の魔力を放ち始める。
「?!」
トラップを警戒して、カルロが数歩下がった。
『神稀開放』
胸の中央に気を集めるような手印を切り、内側からこみあげてくる呪文をただひたすらに詠唱する。
『コンバインド・キフィアス・グラディウス』
胸の前にマルクスに扱える全ての属性の魔力が渦状に集まり、やがて縦長の十字架のような形に収束した。
「あの時の話、やっと意味が分かったよ。兄さん…」
カジキの形の術式の結晶体がマルクスの周りで海の中を泳ぐように動き始める。
マルクスは十字架をつかんだ。まばゆく輝いていた十字架が実体を持ち始め、様々な素材がマーブル模様のように混在する柄と青緑色に光る刃を持つ両刃の剣となった。
「これが…、僕の”剣”だ…!」
刀身はなおも強烈な魔力を放ち、カルロをひるませる。
「アストラル魔法だと?!この者、既にその領域に届いていたのか?!」
マルクスは剣を水平に構え、左足を後ろに引いてカルロを見据えた。息を大きく吸い込み、左足に力を込めて勢いよくカルロの間合いの内側に入り込んだ。
「動きが変わった?!」
カルロは斧の長い柄を繰り剣をはじこうとした。だが、マルクスの剣が水に姿を変えて、周りの壁ごとカルロの皮膚を切り裂いた。そしてカルロの体内に入った刃がまたも属性を変え、猛々しく燃える炎と透明な結晶となって皮膚を突き破った。
「ぬう!」
カルロはすぐに斧で切り返して刃をたたき切って拘束を逃れる。
「…あり得ぬ、いくつもの属性を…一度に…!」
「魔導傀儡を媒介とした呪文詠唱の無い複数属性の魔法の並列起動、ねえ…。我ながら扱いづらいアストラル魔法だ」
その後もカルロは斧をふるい続けるが、マルクスの変幻自在な剣戟にじわじわ追い詰められていく。
「さすが一等前衛将校。ここまで切り付けていまだに人の形を保っていられるとは、肉体の耐久力がケタ違いだ」
そう言ってマルクスは剣を地面に突き立て、そのまま床を伝わせるように木の根を生やしてカルロをからめとる。
「とどめを刺す…!」
刃にマルクスのありったけの魔力を込め、すべての属性の魔力を一度にてカルロに切っ先を向ける。複数の属性の魔力を互いに干渉させると反発しあう魔力と溶け合おうとする魔力の相互作用で一時的に爆発的なエネルギーが生み出されるという性質を利用して、最強の破壊力を持つ術式を編み出すのだ。
マルクスは目を閉じて魔力の操作に集中する。6つの属性の均衡状態を保たなければ、カルロを鎮めるのに十分な威力は出せない。刃の中で魔力の爆散と収束を繰り返し、エネルギーを鼠算式に増幅させていく。
(よし、これなら行ける…!)
『属性混交・全統一』
まばゆい光を放つ刃が一条の光線となり、カルロの体を貫いた。それでも勢いは止まらず、その背後に続いていた城の壁を再外層まで一気に吹き飛ばした。
立ち上がった埃が落ち着いたころ、マルクスはカルロの状態を確認した。カルロは左半身を吹き飛ばされ、息をするのも絶え絶えの様子だった。
「貴殿に恨みはない。許してくれとも言わない。だが、これもこの国のためだ」
「…いい軍人だ。貴官、名は何と言う…」
「…マルクス・サヴォイアニ等魔術士官」
「そうか…、覚えておこう…」
カルロは目を閉じ、息を引き取った。
* * *
「今度は一体何なんだ?!」
玉座の間のすぐ下あたりから、突然強烈な魔力が立ち上った。
「誰かがアストラル魔法を使ったとしか言えないでしょう」
僕は目の前の敵をあしらいながらアズラエルの問いに答える。
「この魔力の感じならおそらくサヴォイアです。彼もトップクラスで優秀な魔法使いです。いつアストラル魔法に覚醒したとしてもおかしくありません」
さてと、こっちもこっちで大詰めだ。ちょうどこの小隊を片付けたおかげでクリスタの周りにちょっとした隙ができた。これだけあれば十分だ。
『超加速』
目指す標的は三つ。今まさに窓から逃げ出そうとしているハルブとアーディル、そして擬態魔法の術者のアルマだ。青い閃光とともに猛スピードで本物のアーディルとハルブ、そしてアルマに迫り、そのまま首根っこをつかんで玉座の間に引き戻す。
「クリスタ殿下!やってください!」
「わかりました!効果範囲を広げます!」
クリスタが精神を集中させると、風花のような氷の粒を含んだ冷気が部屋全体に広がって味方以外のすべての人間を凍らせてしまった。
『真珠層結晶』
本物の3人を冷気から守るために真珠層の囲いを作る。ある程度の指向性はあるが、白銀世界でコントロールするのはただの魔力ではない。雷帝のようにほぼ本物の冷気と言って差し支えない代物だから、気を抜くと味方でも巻き込まれてしまうのが難点だろう。
「レラティビティ殿、制圧完了しました!」
クリスタの声が聞こえ、僕は真珠層の壁を消した。
「アーディル・フォン・ダゴン、大将軍ザイ―ド・フォン・ハルブ、情報将軍アルマ・イリュシオン、そして前衛将軍ヴィーヴル・フォン・ドラグナイア。王位の簒奪を図り、軍を私有化して王国全体の秩序を乱した罪で逮捕する!」
「う、うるさい!貴様のような小娘に政治の何が分かると言うのだ!」
ほかの者たちがすごすごと縄につく中、ハルブは捕らえられて尚声を張り上げて大暴れする。
「過去20年以上にわたり王弟アーディルと共謀し私腹を肥やしていたのは貴様であろう!民のことを顧みずにその汚い口で政治を語るな、この痴れ者が!」
クリスタがガチギレモードだ。ハルブも手足をじたばたさせて必死に僕の拘束を逃れようとする。ハルブの命令で無理矢理従わされていたアルマとヴィーヴルはともかく、首謀者二人は極刑は免れないだろう。だったらここで暴れる方がワンチャンある。
「…レラティビティ殿、ハルブだけ拘束を解いていただけますか」
「いいのですか?」
「ええ。少々この面をぶん殴ってやりたくなりましたので」
クリスタは数歩下がり、剣を抜き放った。
「ザイ―ド・フォン・ハルブ!貴様に決闘を申し込む!」
…は?
「貴様が勝ったら貴様の責任は追及しない。しかし、私が勝ったら貴様を事前の準備通り反逆者とみなして死罪とする!」
……はあ??
………はああ?!?!?!
読んでくださり、ありがとうございます。




