SPARKLY WORLD
今回もよろしくお願いします。
「右手の通路に弓兵5人、こちらには気づいていない」
アケメネス城の地下階をスコーピオン小隊が走り抜けていく。アズラエルの目を使って極力接敵を避けながら、最上階に向けて駆け上がる。
「了解。レラティビティ将校!」
『超加速』
マルクスの指示に従って壁を蹴って加速し、うなじの部分を軽く叩いて意識を刈り取る。できるなら切り捨ててしまうことだが、事前情報によると大将軍ハルブはどうやら固有魔法によって群衆の位置をざっくり知ることができるらしい。精度が低いならば多少増えたところで誤差だと片付けられるだろうが、突然城内から気配が減ったとなると流石に不審に思うだろう。だから正解は殺さずに「行動不能にする」だ。
「突き当たり、左から4人。前衛兵だ」
「リュトビッツ!」
「は!」
ダリア以外の兵士は一旦脇の通路に入り、透明化したダリアが敵に急接近する。レイヴン謹製(僕プロデュース)の睡眠薬を塗ったナイフを素早く操り、首筋にわずかに傷をつける。すぐに睡眠薬が回り、大きな声を上げる前に敵兵は意識を失った。
「この階にはもうこの先鉢合わせそうな敵は居ない。先を急ごう」
アズラエルは現在匿名で参加しているものの、一等士官待遇の扱いだ。僕やマルクスに何かあれば部隊の指揮を引き継ぐこともできるくらいの優先権は持たせてある。
「待て」
石の階段を上がって次のフロアに上ったとき、アズラエルが突然隊を停めた。
「相当手練れな斧使いの部隊が居る。戦闘は避けられない」
「迂回ルートは?」
「無い。おそらくどの道でも我々が察知される」
「戦闘は避けられない、ということですか…。なら、私が残りましょう」
マルクスが名乗り出た。
「レラティビティ一等将校、一時的に小隊の指揮をお任せしてもよろしいでしょうか」
「相手はかなり強いぞ。気をつけろ」
アズラエルがここまで言うのだから、おそらく将校クラスだろう。
「ならば小隊の半分を置いていこう。マルクス、ベレーヌ以外で6人選んでくれ。クリスタ殿下、我々とともに参りましょう」
「わかりました。ですが、これだけで大丈夫でしょうか…」
「この上は天守の中枢です。形式を重んじるアーディルなら戦時であっても兵士は立ち入らせないでしょう。万が一イリュシオンに彼をコピーされた場合でも、僕と彼が居れば難なく制圧できます」
だが、気がかりだ。今のところ情報将軍アルマから全く反応が無い。不自然すぎる。おそらく玉座の間で何か罠を仕掛けているに違いない。こっちも何か用意しないと、か…。
「…仕方ない」
* * *
「こんな時に鎧のメンテナンスとは、一体何ごとですか?」
僕は急いでクリスタの鎧の背中の中央に触れ、出力調整画面を開く。
「いいですか。前腕部の中には3重らせん構造の魔力伝導路を主回路とし、そこから網目状に広がる毛細流路で構成される立体魔法陣があります。それがしっかり機能する形状に繋がっているかどうかで固有魔法の有無が分かれます。つまり500人に一人と言わず、誰もが固有魔法を持つ可能性があるわけです」
各部の魔力回路を全て前腕につなぎ、魔力コンデンサへ充填を始める。
「一瞬のうちに超高出力の魔力を前腕全体に流し込み、体内の伝導路を魔力で満たして飽和状態を作り出します。そのうち、正確には2から5秒後に逃げ場を失った魔力が流路を求めて伝導路から流出し始めるでしょう。ちょうど水が低地を求めて流れ出しやがて川を作るように、魔力も最適な回路を求めて自ら流路を作り、魔法陣を作り出します。それは『魔力が流れる魔法陣』、つまり『機能する魔法陣』となります」
「でも、魔力の絶対値の問題はどうするんだ。固有魔法を使えるようになったとしても絶対量が少ないクリスタ…殿下ではまともに扱えないのでは…?」
アズラエルが聞いてきた。
「魔力の絶対量とはいかに強靭な魔力回路を持つかどうかです。だから流路を使い続ければ鍛えることもできるし、逆に一度に使い過ぎれば体内の根幹たる魔力生成システムが疲労し意識を失う。魔力を流し込む過程でどれだけ出力を高く維持できるか、それでどれだけ強い魔力に耐えられる魔法陣の形状が出来上がるかがが決まります」
「すごいな…。どこでそんなことを」
「いや…まあ、色々…」
自宅に巣食ってた魔道具ぶっ壊したら出てきた持ち主不明の手帳に書いてありました、なんて言えない。ましてやレーレライに口止めされている機密情報だ。話すのは最低限にしなければ。
「この魔導鎧は体内の魔力循環に外側から魔力を追加して身体バランスを調整し、運動能力を上げる仕組みです。なので少し回路を調整して前腕部に魔力が集中するようにすれば…」
「固有魔法の覚醒装置になる、ということか」
「ビンゴ。てことで、早く鎧に魔力を通しましょう」
アズラエルが鎧のソケットから伸びたケーブルを手に取る。僕も同様にケーブルを握り、息を吸い込む。
「3、2、1、0!」
二人で一気にケーブルに魔力をかけた。
* * *
「だからあれだけ根回ししとけと…」
「しかし、少ないとはいえこれだけの軍が…」
「もっと斥候を…」
(ふう…。200人もの近衛を実質たった一人のために待機させるのか…。ここから150人ほど前線に送ればもっと楽に反乱軍を収められただろう。せっかくの精鋭兵がこんな下らない会議に付き合わされて、非合理この上ない)
情報将軍アルマ・イリュシオンは内心毒づきながら、大揉めしている先王弟アーディルと大将軍ザイード・フォン・ハルブを見つめている。アーディルは王になるとしても器が足りない。民を顧みようともせず、貴族たちの圧に負けて次々と優遇制度を通してしまうだろう。
だからと言ってハルブはハルブで自らの利益を追求せんとする意図が見え見えだ。脱税に予算の着服、情報科がその気になれば足元を崩すに足る罪状がボロボロと出てくるだろう。
ヴィーヴルはヴィーヴルでやる気なしという顔だ。飼ってるドラゴンが治療中とのことだが、負傷報告から既にひと月も経っている。ドラゴンの再生能力ならもう傷跡すら消えてしまっていてもおかしくない。何かほかの理由があるのだろうかと思案を巡らせる。
…ん?
…揺れている。
インク壺の液面がわずかに揺れている。細かく、連続的に。机をたたいたり、ものを書く時の揺れ方じゃない。
待てよ。今ここを攻めるのが敵にとって一番…。そしてほとんどの味方の寝返りに遭った中奇跡的に生還したオドゥム将軍とその親衛隊。
まさか…
「…しまった!」
「ど、どうしたというのだイリュシオン将軍」
ハルブの話を遮ることになったが、仕方がない。アルマ自身の幸せな老後のためだ。
『仮面舞踏会!』
アルマの紫色の魔力がほとばしり、その場にいた200人の近衛兵を包み込んだ。
「総員、動くな!」
「この声は…!」
(まさか、あの魔法も使えぬ王女がここまで乗り込んできたってのか?!警備は何をしていたんだ!)
それとほぼ同時に窓から隠密部隊と思われる兵士たちが乗り込んできた。
* * *
「おいおいおい、こりゃどういうこったい!」
アズラエルが思わず叫んだ。
玉座の間を埋め尽くすほどのアーディルとハルブが、一斉にこちらへ剣を向けている。
アルマの魔法だ。彼女の固有魔法はやはり自分を他人に似せるだけじゃない。他人を他人に似せることもできるのだ。その証明として、この場にいる200人余りの近衛兵全員が、アーディルかハルブの姿に化けさせられている。
「イリュシオン将軍の魔法だ!本物のハルブ将軍とアーディルがどこかにいる!」
僕はそう叫んだ。事前の取り決め通りだ。判別不能なら全員確保する。
そのとき、入り口から輝く鎧をまとったクリスタが堂々と歩いて入ってきた。
『白銀世界』
クリスタの声が玉座の間に響き、そして静かにその手を掲げた。
『細』
刹那、彼女の掌から淡い光を帯びた冷気が溢れ出した。それは霧のように広がり、やがて無数の光の粒へと変わって宙を舞った。
美しい魔法だ。戦場には似つかわしくないほど。
足元から床を這うように白い霜が広がり、次の瞬間には分厚い氷となって近衛兵たちの脚を捕らえる。
「なっ――!?」
「動け……っ!」
数十人のアーディルとハルブたち――いや、化けさせられた兵士たちの足が、次々と床に縫い付けられていく。
ほんの数秒で、玉座の間の一角が氷の牢獄に変わった。僕は呆然とその光景を見つめていた。
ついさっき僕が無理やり目覚めさせたばかりの固有魔法がここまでの大当たりとは。いったい誰の運なんだ?
いや、違うんですよ。クリスタに合う魔法の名前をがんばって考えたんですよ!氷属性(まあ白銀世界は雪の魔法ですが)の魔法の名前を!必死に!その結果がこれ(ゴーオンシルバー)なんですよ!これ以上なにをどうしろっていうんです!なにを考え出せばいいんですか!
マジで「キラキラセカイ」がぴったりだと思って、もうそれ以外考えられなくなっちゃったんでバナージくんみたいなことを思いながら採用しました。オマージュってことで。
p.s. 超かぐや姫、気づいたらネトフリで3周してました。マジで一度全体の話を知ってから見たほうがおもろいっす。




