第81話 ★別離と邂逅の迷宮 ~第2層③
レンレン氏、ディーナ様に服を脱がされそうになる回です。
大量の、しかもほとんど見えない魔物たちに囲まれた危機的な状況で、「全裸になれ」と言われた僕がモジモジしていると、ディーナが僕をせかした。
「レンレン、説明しているヒマはありません。急いで脱いでください。早く!」
僕は我に返ると、さっと周囲を見渡した。
カーリーは敵を何体か手負いの状態にしたようだが、さらに多くの敵に囲まれているみたいだ。
マイダは血が流れる腕を抑えながら、杖を振り回して必死に防御している。
きっとこのままじゃ全滅だ。全然意味はわからないけど、ディーナの天啓に従うしかない。
僕は意を決して、まずドラゴン皮の鎧から脱ぎ始めた。
その間はディーナが小剣で僕の周囲を守ってくれる。
カーリーとマイダも、脱衣中の僕を守るため、戦いながら近寄ってきた。
美しい聖女たちに守られながら一枚一枚服を脱いでいくっていうのも、なんだか変な感じだな。
新たな自分が目を覚ましそうになった僕は、あわてて頭を振った。
防具を外し、上着と靴とズボンを脱いだ。
これ、どこまで脱げばいいんだろうか。全裸とは言っていたけど。
ディーナが止めないので、続けてシャツと靴下を脱ぐ。あとはパンツだけだ。
「あの、ディーナさん、これもですか?」
僕がパンツに手をかけておずおずと尋ねる。
「いえ! それはいいです、たぶん……。急いで敵の方を向いてください」
ディーナが戦いながら、少し頬を赤く染めて答えた。これは光の精霊魔法を使った演出ではなさそうだ。
僕が適当に敵がいそうな方向を向くと、ディーナは急いで僕の後ろに回った。
そして、上半身裸の僕の背中に、そのひんやりとした美しい手をあてる。
「光よ!」
ディーナが気合を込めて叫んだ。
その瞬間、僕の体から強烈な、青白い閃光が発散された。
強すぎる光のせいか、これまで見えにくかった僕らを囲む魔物たちもはっきり見えた。
かなり数が多くて、30体くらいはいそうだ。でも、半分くらいは目がくらんだのか動きを止めている。
カーリーがそのうち1匹を素早く切り捨てた。
すぐに僕の体から放たれる光が消え、影絵のように見えていた魔物たちも闇に飲まれた。
「光よ!」
再びディーナが叫び、僕の体の表面が発光した。どうやら僕の体は、ディーナの女優オーラの光を増幅する、アンプの役割をはたしているようだ。
「光よ!」、「光よ!」
その後も何度か発光を繰り返しているうちに、僕は敵や床が鈍く発光していることに気づいた。
どうやら、この光はモノに少し染みつくらしい。魔物が蛍光染料を塗ったみたいに淡く光っている。
「カーリー、マイダ! 敵がちょっと光ってる。よく見てくれ!」
「承知! これなら」
僕が声をかけると、カーリーが短く返事をした。
そして、これまで防戦主体から、鋭く踏み込むと、素早く何体か切り捨てる。
マイダも何とか腕のケガに自分で治癒魔法を掛ける余裕ができたようだ。
その上で、敏捷性強化などの支援魔法を、領域でみんなにまとめて発動する。
僕も服を脱ぐ時に床に置いていた剣をさっと拾って構えてみたが、やっぱりパンツ一丁ではさまにならない。というか単純に変態っぽい。
実際のところ、素肌での近接戦闘は、僕にとっては危険すぎるので構えるだけにした。
一方、ディーナは僕の背中に当てていた手を右手から左手に変えた。そして、ときおり閃光を追加しならがら、あいた右手の指輪から風刃の魔法を放って敵を倒していく。
最初は30体くらいいた魔物が10体以下に減ったところで、カーリーとマイダが一気に攻勢に出た。
それぞれ剣と魔力を込めた杖で、淡く光る相手を倒していく。
程なくして、全てのオオカミのような魔物を倒すことができた。
まあ僕は、裸になっただけで1匹もやっつけてはいないが。
この魔法、今後も使うならいろいろな意味でもっと鍛えないとな。僕は人前で脱ぐには貧弱すぎる自分の上半身を見ながら思った。
ふと気が付くと、僕の体にも少し青白い光が染みついて輝いている。これならしばらくは、カンテラはいらない?
「はぁ、はぁ、何とかやっつけたわね。あとで全員に支援魔法代は請求するわ」
肩で息をしながらマイダが言った。カーリーがすぐに言い返す。
「相変わらずケチなことを言うな。だったら一番たくさん敵を倒した私が報われるべきだ」
「そもそも我が天啓がなかりせば、全滅せしに相違なし。神よご照覧あれ!」
ディーナもハイテンションに芝居掛かったセリフを叫んだ。
うん、敵を倒し終えても、ダンジョン内の精神魔法による不和は解消されていないみたいだ。
みんな武器を持っているし、同士討ちになりかねないな。僕は慌てて介入した。
「なあ、僕以外は魔法の影響で腹が立っているのを忘れないでくれ。だから、お互いの会話は今から禁止。なにか言いたいことがあったら、僕を通じて言ってくれ」
精神魔法の影響がなぜか皮膚にでる異世界人の僕は、今度は裸のヘソのあたりがかゆくなってきて、そのへんをポリポリと掻きながら言った。うん、全然説得力がない。
「レンレンにあいだに入ってもらうなんて、何か歪んで伝わらないかしら」
マイダがぼそっとキツいことを言った。
でもこれは別に魔法の影響ではなくて、平常運転なんだろう。
僕がマイダに言い返そうとしたところで、ディーナが急に割って入った。
「また何か来ます! 警戒してください」
みんながディーナの指差す後方を見る。
カンテラのような灯りが揺れながら、僕らの方に近づいてきていた。
「あれは……、こんなところで魔物じゃなくて人間か?」
カーリーが不審げに呟いた時、僕らにはちょっと耳慣れた声が聞こえてきた。
「マイダさま〜!」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。




